~世界の狭間へ~・3
――墜ちる。
そう感じたのは僅かの間で、落下の衝撃もさほどなく緑の大地がすぐそこにあった。
先に突き落とされたリュナンはというと、頭からいったらしく腰を高く上げた無様な体勢で突っ伏して泣いていた。
「いくらなんでも俺の扱いひどすぎませんか……」
「ま、まあまあ……治癒術は必要か?」
えぐえぐとべそをかく哀れな青年を慰めながら立ち上がらせてやると、オグマは辺りを見渡す。
―聖依獣の隠れ里―
暑くもなければ寒くもない、奇妙な空気。
ここも結界に覆われているのだろうか、辺りには光のカーテンのようなものが降りていて、特別な空間という印象を強めている。
全体を見渡すとあまり広くはなく、空中に浮かぶ小さな島と島を橋で繋いでいる、アラカルティアでは有り得ない造りだ。
シュクルのように獣と見紛う姿の者からカッセのように二本の足で歩く獣まで、当然なのだが周りには聖依獣しかいない。
突然大人数で押し掛けた人間達に物珍しそうな顔をする者もいたが、さほど驚いた様子がないのは来訪を知っていたのだろうか。
「ここが……」
「ああ、足元には気を付けてくれ。落ちたらどこに行くかわからないからな」
さらっと放たれた忠告に震え上がりながら、ようやく辿り着いた隠れ里を進んでいく。
やがて奥まで来ると、石造りの大きな建物が見えた。
途中にもちらほらと家らしきものはあったが、目の前まで来るとそれは一際大きく、フィノが杖を握り締めて息を呑む。
「ここは?」
「長の家だ。結界の聖地はさらに奥になるが、先にこちらで話を通しておかねば」
「おぬしらか、ミナヅキのゆーてた人間達は」
と、デュー達の上に彼らをすっぽり覆えるほどの影が堕ちる。
おそるおそる声が降ってきた方に顔を上げると、巨大なもふもふの塊と形容すれば良いだろうか、一瞬どこに何があるかわからなくなる毛玉の山が現れた。
「もふもふの王様……!」
なるほど見上げるほどの巨躯で、家が大きかったのにも納得がいったが、これでは他の住民の家には入れないのではなかろうか、と余計なことまで頭をよぎる。
(ああ、なんて大きいの……全身でばふっと埋もれたらすごくきもちよさそう……うふ、うふふふ)
そして誰もが驚きに絶句する中で、もふもふ大好きっ娘の称号を欲しいままにするフィノの目がこれまでにないくらい輝いていた。
「ワシは王様じゃのーて長老じゃ。ムースという。むーちゃんでよいぞ?」
「むーちゃん……」
首(と思われる部分)を傾げて可愛さアピールをするむーちゃん、もとい、聖依獣の長老ムースはこれまでに出会った聖依獣とは違う、フランクなお爺さんだった。
「さて、話はだいたいきーとる。結界の巫女カミベルを奪いに、モラセス王が来るんじゃろ? ……そんな事しても、無駄なんじゃがな」
「無駄……どういう意味?」
どデカい動くモップのような姿をしたムースは、イシェルナの問いに己のふわふわした空気を取り払うと、真面目な声音で喋りだす。
「世界の犠牲、結界の巫女が辿る運命というものがあるんじゃよ」
「結界の巫女の運命……?」
デュー達の注目が集まる中で、ムースは口と思しき部分をゆっくりと動かした。
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