~世界の狭間へ~・2
傷ついたスタードを休ませた一行は村の小さな宿を出ると、一足先に外にいたカッセの小さな背中を見付ける。
マンジュの里との連絡役である彼は、いつも行き来させている伝書鳥のクズキリではない、違う色の鳥を空へと見送っていた。
「あれはどこの鳥だ?」
「ミナヅキ様からだ。手紙が来ている」
あっという間に姿を消してしまった小鳥が残した紙切れを広げると、そこに書かれた文字を追った赤銅が静かに伏せられる。
「……聖依獣の隠れ里から、こちらに来いと」
「けど、どうやってだよ?」
「それは拙者が案内しよう」
これまで腰の重かったカッセからあっさりとその言葉を聞き出した手紙は、他の仲間に内容を知られることなくすぐさま握り潰され燃えていく。
「もう一度、聖霊の森の花畑へ……石碑の下に続く遺跡は知っているな」
「え、まさかあそこから行けるのかよ?」
「あの奥には壁画と、マナスポットがあっただけだと思ったが……」
ちょこんと座るシュクルがカッセを見上げ、尻尾をゆらり動かした。
「とにかく、行ってみましょ?」
「うだうだ考えるより行動行動!」
イシェルナとリュナン、双方とも体が先に動くタイプの二人が促すまま、彼等は何度目かの花畑の、その地下に広がる遺跡へと足を運んだ。
薄明かりを頼りに壁画の広間を抜けると突き当たりに煌々と光を湛えたマナの源泉があり、やはりその先に通路は見えない。
本当にここでいいのか、視線で訴えるオグマを振り返るとカッセは小さく頷いた。
「さて……マナスポットから魔物が出てくるのはどうしてか、わかるでござるか?」
「えっ、なんですか、いきなり」
突然の問いに、フィノが口許に手を置いた。
「魔物がいるとこに繋がってる、とか?」
デューが考えを口にすると頭巾の下の耳がぴこりと反応する。
「これは世界に開いた小さな穴でござる。魔物がいる場所……アラムンドと、このアラカルティアを繋ぐ穴。そして、その狭間とも」
「狭間? っていうか、アラムンドっておとぎ話の? 魔物がいるのかよ?」
一度に浮かんだ疑問に答えることなく、光に手を伸ばすと、人より小柄な聖依獣の青年は意識を集中させた。
「……『
カッセの声に呼応して、マナスポットの輝きが変化する。
それまで溢れていた光が弱まり、落ち着いた印象になったようだ。
「これで、このマナスポットは一時的に門と化した……行けるでござるよ、聖依獣の隠れ里に」
「えっ、行くってまさか、これに飛び込むんですか?」
浄化したとはいえ一度は不気味な魔物が這い出てきた穴に入るのは抵抗があるようで、リュナンの顔があからさまに歪んだ。
「大丈夫大丈夫、なんとかなるのじゃ♪」
「なんですかその根拠のない自信は」
「男は度胸、女も度胸! 考えるな感じろなのじゃー!」
ミレニアはそう言いながらリュナンの背を思いきり、強く押した。
「えっ……そこでなんで俺からぁぁぁぁぁぁ!?」
穴に消えたリュナンの姿と共に長く尾を引くはずの悲鳴がカットアウトされ、仲間たちが顔を見合わせる。
「お前、ひどいな」
「カッセが大丈夫と言ったから信じたのじゃ」
しれっと言い放つミレニアにデューの喉元まで「じゃあ自分から行ったらどうなんだ」という台詞が出かかったとかなんとか。
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