~孤独抱えしもの~・4
「ぬぁにを今更、わかりきったことを……そんなこと、おぬしに言われんでもわかっとるわ!」
少女はとびきりの笑顔で少年に応えるなりパッと見は大剣を振り回すようには見えない腕をがっちりと掴んだ。
「は? おい、ちょっ」
「そうと決めたらさっさとゆくぞ! ほれほれー♪」
「待て、まだ話が……」
その勢いのまま部屋を出ようと扉を開けたミレニアだったが、そこで動きが止まる。
目の前にはあるはずのない黒い壁……ではなく、黒ずくめの服に銀の仮面をした騎士、グラッセが子供たちにしがみつかれながら佇んでいた。
「は、え?」
「あんた、なんでこんな所に!?」
真っ先に敵意を剥き出しにしたのはやはりリュナンだったが、狭い室内ではどうすることも出来ず、オグマに宥められて渋々引き下がる。
「……そこにいる教官殿を迎えに来た。帰るぞ」
「私を……?」
「スタードは機密を知っている。城を離れることは許さん」
淡々と述べる仮面の奥の表情はわからないが、青褐の短髪や頬、服を引っ張る子供たちのせいでいまひとつ締まりがない。
幼子は口々に「おめんのへんなやつー」「かってにはいっちゃだめなんだぞー」「このやろー」と言いながら侵入者に対して攻撃していた。
「グラッセ……」
「なんだ、スタード」
「子供達が怖がっているだろう、帰りなさい」
親が困った子供に言うような、たしなめるような口調とシュールな図に耐えきれなかった数人が思いっきり吹き出した。
「何故笑う? お前達と仲良くなった覚えはないし、何よりオグマ・ナパージュ、貴様は……」
「スタード殿は負傷して消耗している。早く連れ帰りたいだろうが、少し休ませてからにしてくれ」
そこで拍子抜けしてしまったのだろうか、強く憎んでいるはずのオグマにまでこうも言われてしまったグラッセの、纏う気配が僅かに変わった気がした。
「…………帰る」
くるりと踵を返した黒騎士にくっついていた子供がばらばらと降りる。
彼らは皆不思議そうに、グラッセを仰いでいた。
「快復したら今度こそ迎えに来るからな、それまでおとなしく寝ていろ」
「あ、おいグラッセ」
無垢な視線を避けるようにそそくさと去ろうとする長身の背を、座ったままのスタードが呼び止める。
「お前も残って、こいつらと遊んでやったらどうだ?」
「……子供は嫌いだ」
足を止め振り向いたものの素っ気なく返すと仮面の騎士は孤児院をあとにした。
「子供って……お前だってガキだろ」
残されたデュー達は苦笑混じりのスタードの呟きにそれぞれ顔を見合わせ、同様に笑うのだった。
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