~孤独抱えしもの~・3
「それにしても、先程から気になっていたのだが……」
ふと、スタードがミレニアを見上げる。
年上好みな少女からすればいい男の部類に入る騎士に見つめられるのは悪い気がしないようで、「なんじゃ?」という返事は少しだけ機嫌が良いように思えた。
「君はミレニアと言ったな。不躾だが両親や祖父母の名前は?」
「いきなりじゃのう……わしはおばあさまとしばらく二人で暮らしておったが、それ以外はわからん。あ、兄様は兄様じゃ!」
妙に不鮮明なのは、今までミレニアの口から祖母と兄、それに叔父の話しか出てこなかった理由だろうか。
魔物の異常発生以来、両親の顔も知らない子供が増えたため、特別珍しいかと言えばそうでもないのだが。
「その“おばあさま”はルセットという名では?」
「……何が言いたいんじゃ?」
だんだんスタードの意図を察してきたらしく、ルビー色の目が細められる。
髪を飾る、年頃の少女が身につけるにしては色褪せた珠が控えめに煌めいた。
「モラセス王の奥方、ルセット王妃が城を離れる時に連れて行った孫娘の名はミレニア。君の外見は、彼女や娘のスイート様とどことなく似ている。その髪飾りも、ルセット王妃が身につけていたものと同じだ」
「…………は?」
その言葉を瞬時には理解できず、しばらく反芻してもミレニアの頭には疑問符が残る。
否、認めることを拒んでいるのかもしれない。
「それってつまり、チビちゃんは王様の……?」
己の口からは出てこなかったことが、代わりにリュナンから発せられた。
ミレニアは、モラセス王の実の孫だと。
「オグマ、お前は確か十五年ほど前に騎士団に入ったんだったな。その時期を考えると、薄々気付いていたんじゃないのか?」
混乱の中で急に話題を振られたオグマが返答を詰まらせる。
十五年前といえばちょうどミレニアが生まれた頃と重なる。
七年前まで騎士団にいたオグマが、幼い孫を連れた王妃が城を出たなんて一大事件を知らないとは考えにくい。
「……情報が少ない、けれども偶然にしてはできすぎている、と」
「そういえば、アトミゼでオグマと初めて会った時……やっぱりわしは名前を言っとらんかったし呼ばれてもおらんかったと思うのじゃ」
もう随分と昔のことのように感じるが、霧の山脈でオグマと出会った時、先に知り合ったデュー以外は成り行きですぐさま魔物と戦うことになってしまった。
戦闘後にオグマは自己紹介もしていないミレニア達の名前を呼び当て、それまでのやりとりで知ったと言っていたのだが……
「ああ、その通りだ。あの時私がミレニアの名を知っているはずがなかった。他は会話の流れで聞いていたがな」
「じゃあ、ずっと知っとったのか? 知ってて、何も言わなかったのか?」
ずい、と詰め寄る少女は普段ののほほんとした調子ではなく、今にもつかみかかりそうな勢いでオグマに迫る。
「わしは、わしはどんな顔をしたら良いんじゃ? ようやく判った肉親が、倒さねばならん相手じゃと?」
「ち、チビちゃん、落ち着いて!」
「だったら知らない方が良かった! 知らないままだったら、わしはっ……」
慌ててリュナンが止めようとするが、その前にデューが間に割って入った。
「知らないままだったら、万が一のことがあってもいいのか?」
びく、とミレニアの肩が跳ねる。
鋭く低い声と藍鉄の眼光が少女を制止した。
「どのみち王様は助けるつもりだろ。だったら、より強い気持ちで挑んだ方がいい。だから、このオッサンだって話したんだろ」
「デュー……」
「そういうプラス思考が、お前の取り柄だからな」
弱りかけたミレニアの肩を軽く叩くと、少年は物柔らかな声音で笑いかける。
するとややあって「ふっ」と口許を大きく歪ませ、彼女の口角が上がった。
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