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 そのニュースを知ったのは夕食の席でのことだった。


 神原家の夕食は一家団欒の時間だ。奈都の叔父さんに叔母さん、そしてその息子で従弟にあたる直矢の。叔父さんから残業の連絡でも入らないかぎり、一家四人が揃うまで決して箸をつけず、テレビにおしゃべりを交えながらゆっくりと食事を楽しむ。喋るのはたいていが直矢の仕事だ。学校であったこと、テレビの内容へのコメント。九歳になったばかりの直矢は間断なくしゃべり続ける。その日もそうだった。奈都がとうに食べ終え、食器を洗い終えても一家はまだ歓談を続けていた。


「それで俊樹がどうしたと思う? 拗ねて帰っちゃったんだ。おかしいよね。自分がじゃんけん弱いだけなのに」


「仲よく遊ばないとダメだぞ」叔父さんは父親らしく言った。「しかし、最近、恋君の話を聞かないな」


「恋? あんなのともう遊んでないよ」


「どうして」


「どうしてって……あ、お父さん、チャンネル回して」


 見ていた番組が終わったらしい。叔父さんは箸をリモコンに持ち替え、チャンネルを回しはじめた。


「何もやってないなあ」直矢は不満げに言った。「あれ、このニュースってお姉ちゃんの学校じゃない?」


 二階に上がりかけていた奈都は思わず振り向いた。奈都に直接訊いたわけではないらしい。家族の視線はテレビの固定されたままだった。直矢がテレビの画面を箸で指している。四二インチの画面の中で、遥が微笑んでいた。おそらくは学生証の写真だろう。その写真と「行方不明」の四文字が結びつくまでには時間がかかった。


「奈都ちゃんと同じ二年生だって。知り合い?」


 叔母さんの問いかけに、奈都は思わず首を振った。そのことに自分自身驚く。首を振った理由は自分でもわからない。でも、屋上での関係を人に話したことはなかったし、また説明が容易でないことはわかっていた。


 ああ、そうなんだ。毎日屋上で会ってるんだけど、苗字もクラスも知らなくて……


「ねえ、この人誘拐されたの?」直矢が訊いた。「誘拐だ誘拐だ」と楽しそうに繰り返す。


「ダメよ、おもしろがったりしちゃ」


「だってうちとは関係ないでしょ」


「たしかに身代金目当ての誘拐なら、うちを狙うとは思わないけど……」


「おいおい」叔父さんが苦笑する。「水を挿すようだけど身代金目当ての誘拐だけはないと思うよ。そういうときは報道協定というのが結ばれるから、こういうかたちで報道されたりはしない」


「ということは家出?」と叔母さん。


「さあね。何か別の事件に巻き込まれたという可能性もあるし……」


「たとえば?」直矢が無邪気に尋ねた。


「たとえばだな……」叔父さんは言葉を詰まらせた。


「なんだっていいだろ。そんなの」奈都は思わず口を挟んだ。「うちとは関係ないんだから」


 奈都は言い切ると、家族の反応も確認せず階段を上りはじめた。突然のことで戸惑ったのか、リビングはしばらくの間沈黙していたが、やがて叔母さんがこうひとりごちるのが聞こえた。


「でも、この子の顔、どこかで見たことあるのよね」

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