さっきの上司みたいな人の指示?
人払いの術とやらを解いても、
何故か罪悪感を覚えながら叩き起こす羽目になった。
目を覚ました光希は、いつの間にか出現していた親父に傍から見て腹立たしいほどに喜び、不自然な状況に突っ込みを入れることもなく、飲酒の注意を受けて少しだけしょげた。
それでも、家に着く頃には、すっかり回復していた。
少し潰れてしまったが、フルーツパフェとフルーツ・オ・レを
「じゃ、また明日ねー」
「…おう」
それでいいのか、と喉まで出かかったが、妙な事を言えば全部説明しなくてはならなくなる。
あの女たちに関しては、何一つ説明できる自信がない上、親父の
面倒ごとを呼び起こす必要はない。寝た子はそっとして置けばいいし、
先に家に戻っているはずの親父と、光希から身を隠すようにして姿を消した二人組み。一体何者なのかと、家に戻るまでの短い距離で俺の頭を占めていたのはそればかりだった。
決して、いい体つきしてたよなあの女、などと考えてはいない。断じて。
実はよく知らない親父の過去に関わっているのだろうとの見当だけは、ついた。
俺は狼男で、それは親父から受け継いだものだ。俺が小学校に上がる前に死んだ母親は、あの親父なんかを夫にした以外は普通の人だったはずだ。
親父は、この体質で何やら色々とやらかしてきているらしい。母に出会ってからは足を洗ったらしいが、世界規模だというから油断ならない。
きっとあの二人、というか後から出てきたヤツとは、そのときの知り合いなんだろう。
訊くべきか、訊かずにおくべきか。
蛇には出会いたくないし、平凡な日常をこよなく愛す俺としては、これ以上問題が起きないならそっとしておきたい。
異常な事態なんてものは、狼人間なんていう三流ホラー設定だけで十分だ。
十分、だったのに。
「先ほどは大変、失礼を致しました!」
…玄関先で土下座に遭遇するってのは、日常じゃない。そんな日常、厭だ。
戸を引き開けたらそこには、汚れるのも構わず地面に額を擦り付けんばかりの異国美女。
そりゃ、突然鉄球で襲われるよかいいけど、どうなのこれ。
「えー…っと、誰さん、だっけ? 何これ、さっきの上司みたいな人の指示?」
「いえ、隊長は関係ありません! 私が…十分に調べもせず、命を脅かした件、詫びても詫び足りないとは重々承知の上ですが…!」
なんっか、時代がかってるなこの女。ああ、疲れる。
「とりあえず、顔上げて、中、上がってくれる?」
「いえ、私なぞ軒下で十分です」
「女に土下座させて自分一人とっとと家ん中入る最低なヤツになれ、と。お断りだ」
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