謝るとこじゃねえよ
『アイス買いに行くって、出て行っちゃって。僕、追いかけようとしたんだけど…』
「いや、お前は家いろ。だーいじょうぶだって、あの
『でも、通り魔まだ捕まってないのに!』
夏休みが始まるのと前後して、
警戒態勢を敷き、保健所も警察もがんばってはいるが、この一月余りで、十人近くが襲われているはずだ。
人影を見た、との証言もあり、飼い主らしき人物がいるのではないかという噂にもなっている。
共通点は、犯行が大神市街に集中しているというものを除けば、被害者のほとんどが中高生で遭遇したときに一人だったということだろう。
「安心しろ、ハル。俺がちゃんと見つけて送り届けるから」
『うん――しぃちゃんも、気をつけて。ごめんね』
「謝るとこじゃねえよ」
それどころか、言えば余計に心配するだろうから言わないが、遼の連絡がなければ、俺は今頃ここにはいないわけで。
話している間にたどり着いたコンビニで、何か買って行ってやろうかと思いつく。安すぎる礼だが、どうせ俺には金がない。
「お、発見」
『え? しぃちゃん、今、どこにいるの?』
遼は、てっきり俺が家にいるものと思っていたらしい。きょとんとした顔が目に浮かぶ。
仕事帰りらしきサラリーマンだの職業不明そうなおじさんだのに混じって少年雑誌を立ち読みしている幼馴染を見つけた。
電話の着信時間から考えると
「俺も買い物。ハル、ついでに何か土産持ってってやるよ。何がいい?」
『えっ、いいよ。それより二人とも、気をつけてね。ちゃんと帰って来てね』
「ああ、任せろ。じゃあ、後でな」
『…うん』
通話を終えてコンビニに入ると、いらっしゃいませこんばんはー、と、夜なのに一応頑張っている店員の声に迎えられる。とりあえず、かごを取った。
立ち読み中の光希は新しい入店者を気にすることもなく、黙々とページをめくっている。背後に立っても気付かない。俺が痴漢だったらどうするつもりだ。まあ、触った途端に蹴りか裏拳でもとんで来るんだろうが。
タイミングを見
「あんたも買い物?」
こちらを見ることもなく、雑誌を戻してようやく振り返る。
よく気付いたな、と思ったら、鏡状になった対面のガラスを指し示す。映っていたのに気付いたらしい。
光希は、天然ものの茶髪に、よく見れば瞳も少し色素が薄い。
母親がクウォーターだったらしく、嫌がって髪は男の子と見間違うほどに短い。長い髪も似合ってたのに、ちょっともったいない。
体型は、さっきの美女と比べれば平板。比べるのは気の毒か。
「今、何か失礼なこと考えなかった?」
「いやいやいやいやいや、メッソウもない」
「滅相、って、意味知って言ってる?」
「んー、アフリカに生息してるんだっけ?」
「生き物かい」
ちゃんと突っ込みつつ、視線はきつい。というか気付くな、お前は読心術でも使えるのか。
立ち読みの癖に迷惑そうにするおじさんたちを避けて、なんとなく突き当たりの飲み物の棚に誘導しながら、話題を変える。
「ハルから電話。弟に心配かけるなよ」
「う。…だって、アイス食べたくなったんだもん」
「我慢しなさい」
「やだ」
まったくこいつは。
痴漢の危険を言えばぱっと見男だし、と返され、野犬を持ち出せば弱くない、と返される。
言わなくても答えが判っているところが、幼馴染だと実感させる。良くも悪くも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます