元の世界に戻る方法は!?

「…大丈夫ですか」

「っ、ん、うん、だいじょ、ぶ。ごめんなさい」

「いえ。とりあえず…魔術って何ですか。あ、いやいいです、説明聞きたいわけじゃなくて…そんなものが、あるんですか」


 きょとんと、シルラは有朱ありすを見つめた。


 七つも年上のはずなのにしかも男なのにこの人、私よりずっと可愛いんじゃなかろうか。美人で可愛いって最強じゃあ。なんだかなあ、と、有朱はそんなことを思う。


 もっとも有朱は、今までさんざん「可愛げがない」と言われてきたので、比べる次元がそもそも違うような気もしている。

 捨て子だったと言っていたけど、両親がはっきりとわかっていて祖父母もいた有朱の方が、何かいろいろと足りていないような気分にもなってきた。

 そしてそれは、そう珍しい考えでもない。


「そちらの世界には、ないんですか?」

「世界。…やっぱりここ、私がいたところとは違う世界、なんですか」

「――はい。僕が、あなたを召還してしまったので…」

「ファンタジー好きだけど別に体験したいとかは思ってなかったんだけど」


 はあぁと、もう一度大きなため息が落ちた。


 異世界召喚は、それはもうたくさん目にしてきた。

 世界を滅ぼそうとする魔王を倒す勇者としてだとか、そもそも生まれが違っていたのだとか、うっかり偶然亀裂ができて迷い込んだとか。

 しかしそれらはすべて、小説や漫画やゲームやの作り物の中でのことで、実際に現実で、そんなものがありふれていたわけでは断じてない。

 しかも、最初にシルラが口走った言葉からすると、この世界には何かしら危機でも迫っているのか。


「ていうか…やばい…会社…」


 入社して約半年、よりにもよって、社外の人を招いての創立記念式典の日。裏方最大手の総務部の下っ端が無断欠席というのは、まずすぎる。


「私がいなくってもどうとでもなるだろうけど…下手したらっていうかクビ…?」


 はっと気づいて、椅子に座っても膝に抱えたままだったかばんを探る。

 黒いかばんに色味が混じって見つけづらい黒の携帯電話は――なんと、電波が立っている。


 数秒、目にしたものが信じられずに固まった。そして、考える。


「――帰れる?」

「え?」

「私、帰れるの? その召喚魔法とかって、帰りは? 元の世界に戻る方法は!?」

「その…すみません、頑張って探します!」

「あては。何かしらの算段があってそれ言ってる? 見込みはどのくらい? 希望的観測とか楽観とかはとりあえずいらないから、正直に言って」


 ぐ、と言葉に詰まったところで、答えはわかった。


 二つ折りの携帯電話を開いて、登録数の少ない電話帳から「身内」を選ぶ。

 海外のどこにいるかもあやふやな母親は登録もなく、祖父の名で登録している番号は自宅で最早もはや誰も出る人はいない。

 残るはたった一つ、絶縁されている中で唯一連絡先を教えてくれた父の妹という人だけだ。


 通話ボタンを押すと、心なし音が遠いような気はしたが、ちゃんと発信音がする。

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