第19話 江戸の狂歌(年末編)
最近狂歌の記事が伸びていたので、久しぶりに皐月撰の狂歌を紹介しようと思います。
年の瀬も近いということで、今回は年末年始にまつわるものから。
前回紹介したものは百人一首のパロディでしたが、今回紹介するのは作者オリジナルのものです。
歌の内容に関しては特に注意書きがないものは「小学館新編古典文学全集」の解説を参考にしています。
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いかなりけるとしの春に
金はありかけもはらうて置炬燵とろ/\ねいりつかん年の夜
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※解説
「いかなりけるとしの春に」=どんな年の春のことだろう
「かけもはらうて」=借金を返済して
「お金があって借金も全部返して、コタツに入ってとろとろ居眠り。こんなのんびりした年末年始が……あったらいいな〜!」というのが作品全体のニュアンスです。
ここでいう春というのは、年賀状で「迎春」と書くように、新年(年末含)のことを指しています。
まさに現在、年末ということで、我が家もやるべきことが積み重なっていてあんまりのんびりできていないので、ちょっと共感しちゃいますね。
大晦日にはこたつでとろとろ居眠りしたいものです。
さて、師走が忙しいのは江戸時代も同じだったようで、他の人も年末の忙しさを狂歌に詠んでいます。
こちらは、四方赤良のライバルと言われる、
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・唐衣橘洲作
冬鳥
地をはしる翼なりけり寒中の見まひにたれもかもの進物
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※解説
「寒中の見まい」=寒中見舞い
「かも」=誰も「彼も」と「鴨」の掛詞
おせちにもよく見かける鴨ですが、当時からお歳暮の品として人気だったそうで。
人が鴨を手に早足に行き交うのを見ていると、まるで鴨が地面を走っているようだ、という面白い視点の狂歌です。
さて、次は前の狂歌の回で面白い名前として紹介していた人の作品です。
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※解説
「柱暦」=柱に取り付けた日めくりカレンダー
「あっけらかん」から名前をつけた朱楽菅江さんです。
この歌に関しては解説がついていなかったので私の解説になります。
柱に取りつけた日めくりカレンダーがテーマの狂歌です。
今の若い人はあまり見たことが無いかもしれないですけれども、昔の日めくりカレンダーの1/1はめちゃめちゃ分厚かったんですよね。年末が近づくと、商店街のお店でもらえたりした気がする。1日ずつちぎっていくタイプなので365枚あるわけです。
そのため、カレンダーを飾っている柱が寝床の近くである場合、寝っ転がって下から見上げても、その分厚さで一番手前の紙の文字まで読めません。
しかし、ある日寝っ転がって字が見えた……と、いうことは、それだけたくさんの紙がめくられて、もう日めくりカレンダーは薄くなっている。つまり、カレンダーの薄さで、作者は年末を感じているということです。
さて、最後は若ハゲ自虐のあの人の狂歌ですよ。
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歳暮
此のものは花の春へと急ぎ候お通しなされ年の関守
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※解説
「此のもの」=ここでは「私」という意味で使っている
「花の春」=めでたい春=お正月
「あのですね、私めはめでたい新年へと急いでいる者ですから、年を越すのに立ち塞がっている餅つきやら新春用品の準備やら借金の返済やらといった年の関守の方々、どうぞ無事にお通しください」
という意味の歌だそう。
年の瀬を「関」、年末年始の必然イベントを「年の関守」と擬人化して詠んだ歌になります。初句の「此のもの」以下は、謡曲仕立てになっているそうです。
簡単に言って仕舞えば「無事に年を越せますように!」という願掛けのような歌ですが、年末年始のイベントに対して下手に出ているのが面白いですね。歌の中に「お通しなされ」と話し言葉が入っているのも楽しい狂歌です。
と、いうわけで今回はここまで。
狂歌はお正月編もあるので、年始にもまた狂歌を紹介したいと思います。
久しぶりの更新でしたが、読んでくださってありがとうございました。
今後もできるだけ更新できるように頑張ります。
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