第7話 蜂飼いの大臣(十訓抄・今鏡など)
今回は、説話に出て来る人物について紹介します。
音楽にも秀でていて、笛も
「死ぬことからは逃れられないから、死ぬこと自体は怖くないんだが、唯一がまんできないのは、死んだ後、笛を吹けないことかなあ」
という言葉が、『古今著聞集』巻十五に載っています。
そんな宗輔さんの趣味の中でも、特に変わっているのは、そのペット。
それはなんと……蜂!
数えられないくらいたくさん蜂を飼っていて、宗輔さんが、蜜を塗った紙を頭上に掲げると、一気に集まってきたそうです。
蜂たちに一匹ずつ名前までつけていたとか。『十訓抄』では編者が覚えていなかったのか、「なに丸(なんとか丸)」、「か丸(かんとか丸)」と、適当な名前になっているのですが、『今鏡』によれば「足高(あしだか)」、「翅斑(はねまだら)」、「角短(つのみじか)」と、具体的な名前が出ています。体の特徴で名前をつけたのですね。
名前を呼ぶと、ちゃんと寄ってきたんだそうです。しかも蜂さんたちに指示すると、ちゃんと言うことも聞いてくれるという。
宗輔さんちの侍を怒る時には、蜂さんに「足高!あいつを刺して来い!」って命令すると、実際に刺しにいったそうです。(ミツバチだと信じたいですね)
通勤のときには、牛車の窓のところをブンブンと飛び回り、宗輔が「とまれ」と言うと、ちゃんととまったそうです。出かける飼い主さんを慕っていたんでしょうか。蜂とはいえ、かわいいですね。そして宗輔さんは、完全に飼いならしてますね。
世間の人たちは、そんな宗輔のことを「蜂飼の
尊敬されていたというわけではなかったらしく、「蜂なんか飼っても役に立たない」と言われていたようです。と、いうことは、蜂蜜を集めて食べていたとかそういうことではないんでしょうか……。まあ、宗輔家だけで食べていた可能性はありますが。
さて、あるとき宮中でちょっとした事件が起きました。(『十訓抄』)
五月頃、鳥羽殿で、蜂の巣が突然落ちて、鳥羽上皇の御前に蜂がたくさん飛び散ってしまったのです!
「ぎゃー!刺されるーーー!」
と、その場にいた人は大混乱。貴族たちは必死に逃げ惑いましたが、救世主が現れます。
そう!宗輔です!!
宗輔はその場にあった枇杷の実を一個とると、親指の爪でビーッと皮をむき、それをスッと持ち上げました。
すると、すべての蜂は枇杷にとまって離れなくなったので、自分のお供を呼んでそっとそれを渡しました。ふだん蜜を塗った紙で蜂を集めているので、すぐに対応できたのでしょう。お供の人も普通に回収したようですが、やはりご主人のおかげで蜂には慣れているのでしょうか。
全てを見ていた鳥羽上皇は
「いいタイミングで宗輔がいてくれたー」
と宗輔を大変褒めたということです。蜂好きなのも、上皇を助ける役に立ったということですね。
ところで、「虫好き」というと『
実は、あの「姫君」は、この宗輔と、娘の若御前がモデルという話もあるのです!
「虫愛づる姫君」の物語内では、両親は「娘の変な趣味には困ったもんだ」と言っているのですが、実際はパパが変わってるという……。
「蜂愛づる大臣」というタイトルにして、宗輔バージョンの短篇とか、余裕があれば書いてみたいですねー。
今回はこの辺で! 今後も、人物紹介をするときは、今回のようにできるだけ複数の資料の記述を集めて紹介したいと思います。
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