第6話 五人の貴公子ランキング(竹取物語)
今回扱う古典は、日本最古の物語『竹取物語』です。
『竹取物語』は、「かぐや姫」として絵本などでもおなじみですね。少し前に「かぐや姫の物語」というアニメ映画もありました。教科書にも必ずといっていいほど載っているので、結構しっかり覚えている方も多いのではないでしょうか。
かぐや姫といえば、求婚してきた五人の貴公子に、無理難題をふっかけて結婚を断るという、いわゆる「おとといいらっしゃい」手法を使ったことで有名ですね。そこで、今回は、その五人の貴公子に、私の独断と偏見でランキングをつけたいと思います。「お婿さんにしたい貴公子ランキング」です。
★エントリーNo.1
姫からのお題……仏の石の鉢
皇族なので、身分的にはかなり上位です。
★エントリーNo.2
姫からのお題……
こちらも皇族ですね。
正確な序列は不明ですが、ここでは石作皇子とは同列と仮定しますね。
★エントリーNo.3
姫からのお題……
この人は右大臣です。左大臣と書かれたものもありますが、まあどちらにせよ大臣ですのでこの位置です。因みに左大臣と右大臣では、左大臣の方が格上ですよ。
★エントリーNo.4
姫からのお題……竜の首の玉
大納言です。大納言というのは、大臣に次ぐお偉いさんです。作中では、大伴大納言と呼ばれる方が多いですね。
★エントリーNo.5
姫からのお題……
中納言です。大納言の次に偉い人ですね。世間一般の貴族からすると十分偉い身分なんですが、他の四人がより偉いので、最下位になってしまいます。あと、まろたりって名前平安っぽくていいですよね。
さてさて、では、「お婿さんにしたい貴公子ランキング」の発表です。下位から発表しますね。もし下位の貴公子のファンの方いらっしゃったら、ご容赦ください。
ちなみにエントリーナンバーは身分順ですが、このランキングでは身分は度外視します。いったん地位や名誉は置いときましょう。大事なのは中身です、中身。
第5位……石作皇子
第5位、つまり、この中で最もお婿さんにしたくないのは石作皇子です。
では、石作皇子の行動を確認してみましょう。
石作皇子に出されたお題は「仏の石の鉢」。石作皇子は、このアイテムが「
で、「インドにあるらしいから、持ってかないと流石にまずいよなー」って一瞬思うんですが、
「インドに一個しかないものを、くっそ遠い旅したとしても入手できるわけなくね?」(超絶意訳)
と思い直し、早々に本物の入手を諦めます。
かぐや姫の家には「これからインドいってきまーす」というお手紙を出し、三年間音沙汰がなくなります。
そして、
ついでに「遠方はるばる探しに行ってきたけど、石の鉢全然見つかんないからつらかったよー」という趣旨の和歌も詠んでつけてありました。
しかし、冷たい目をしたかぐや姫に「本物だったら光るはずなんですが?」と言われ、あえなく撃沈します。そのあと、まさかのリベンジ和歌を贈りますが、かぐや姫にはスルーされます。
この順位になった最も重要なポイントは、「手を抜きすぎている」ということ。誠実さが足りないんですね。あと、しつこいのもマイナスですね。次いきましょう。
第4位……車持皇子
車持皇子については、「蓬莱の玉の枝」というタイトルで教科書で見た記憶がある人もいるのではないでしょうか。
車持皇子がお題を出されてはじめにやったことは、朝廷に休暇届を出すこと!このへんは、石作皇子より計画性があるんですね。石作皇子は多分ここまでやってないから、かぐや姫にはインドに行ってないことも普通にバレてたのでは。
それから、「蓬莱に行く」とかぐや姫に連絡し、実際に出立の準備をして、親しい人に海まで見送りもさせています。
では実際行ったのか、というとそうではなくて。三日でこっそり帰ってきます。そしてあらかじめ用意していた隠れ家に、腕のいい職人を六人呼び、一緒に暮らしながら職人たちに玉の枝を作らせます。
職人たちの努力の結果、「玉の枝」は完成。車持皇子はその枝を手に、またこっそり海に出て、旅から帰ってきたように見せかけ、かぐや姫の家に向かいます。派手に旅から帰ってきたパフォーマンスをしたので、「皇子が宝を持って帰ってきたぞ」と噂になり、かぐや姫は「あ、これ私負ける」と焦ります。実は、かぐや姫が「やばい」と思ったのは、この車持皇子だけです。
車持皇子はかぐや姫の家に旅装束のまま訪問し、旅の武勇伝をドヤ顔で話します。おじいさんが「この枝はどこにありましたか?」とインタビュー形式で口を挟むんですが、車持皇子は大げさながら詳細に話を用意してあり、おじいさんは「こんなに長く生きてても、そんな苦労したことないですよーすごーい」という和歌を作ってしまうレベルで信じてしまいます。かぐや姫最大のピンチです。
そんなピンチを救ったのは、玉の枝を作った職人たち。彼らは「支払いがまだなんですけどー!!!」と、かぐや姫の家に
ちなみに車持皇子の話をすごく信じてたおじいさんは、気まずくなって居眠りしたふりをしていたそうです(笑)
職人たちは「ありがとう」とかぐや姫から褒美をもらうのですが、帰る途中で車持皇子が待ち構えていて、ボコボコにされたそうです。かわいそうな職人……。
車持皇子のダメなところは、致命的なケチさ。そして、詰めの甘さですかね。
まあ、それ以前に、やっていることの悪質さと職人への態度は、人によっては余裕で最下位だと思います。私が4位にしたのは、やり方が徹底していることに感心したからですね。職人ボコるのは、ちょっと擁護できないですが、その熱心さが別の方向に向けば、石作皇子の適当さよりはマシなのでは……と思った次第でございます。
第3位……大伴御行
3位と2位は悩みどころなんですけれども、完全に私の好みですね。
大伴大納言に出されたお題は、竜の首の玉でした。大納言は、家に帰ると早速従者に「竜の首の玉をとってこい!!取るまで帰ってくんなよ!!」と言って、旅費を持たせて従者たちを放り出します。そして、かぐや姫を嫁にもらったときのために家をリフォームし、正妻を含む妻たちと全員離婚します。
ちゃんと妻と離縁していることも、考えようによっては潔いんですけれどもね。従者に頼むのも、当時は普通のことなので、常識外れというわけではないです。
ただ、どうも人望がなかったようで。出て行った従者たちは一人も冒険には行きませんでした。そのため、年が明けても誰も帰ってきません。しびれを切らした大納言は、変装して海辺に行き、「竜の首の玉をとりに行った船はどうなった?」と尋ねます。すると、「変なこと言うやつだなあ、そんな船はなかったよ」と言われます。
大納言は、従者が命令違反しているとは全く思わず、
「なんだーあいつら遅刻かよー、じゃあ俺が先に行って竜倒そう」
とポジティブ全開な考えで、そのまま冒険に出かけるのです。なぜか自信満々だった大納言ですが、突然の雷雨により、海は大荒れ、船乗りは恐怖で号泣という大修羅場を迎えます。結局、ビビった大納言は「もう竜を倒すとか言わないので命だけはお助けください!!」と神に祈り、ほうほうのていで、なんとか陸地に帰ります。
その後、半死半生で屋敷に帰ると、「大納言が竜を倒すのに失敗した」と聞いた従者たちがぱらぱらと戻ってきます。大納言が、命令の不可能さを身をもって体感したのでおとがめは無いだろうと思ったのでした。大納言は、従者たちに、
「お前たち、よく竜の首の玉をとらなかったな!危ないところだった!かぐや姫とかいう大盗人が、俺たちを殺そうとしてるんだ。あんな家には二度と近づかない!お前たちも絶対行くなよ!!」
と言い含めるのでした。
ちなみに大納言の別れた妻たちはこの話を聞いて大爆笑したそうです。
うん。まあ、大納言は皇子二人と比べると、ちゃんと自分でも本物を手に入れようとしているし、悪い人ではないんですが。最後にかぐや姫のことを「大盗人めが!人殺しめ!」って、ののしってるのが、ちょっとなーっていう感じですね。実際死にかけているので、気持ちはわかるんですけれども。
あとは、なんか地に足がついていないというか、危なっかしい人だなあという印象が。変にポジティブなのも、想像力が足りないというか。主人のために尽くそうと思う従者が一人もいないという人望のなさもね。
そういうわけで、マイナスポイントが目立ったので、第3位です。
第2位……阿倍御主人
この人は、可もなく不可もなく、でこの順位です。特にいいところもないが、取り立てて悪いところもない。
姫からのお題は、火鼠の皮衣。ちょっと話は逸れますが、これ、西洋の「サラマンダー」と共通するものがあるのではないかなと思っています。偶然なのか、シルクロード経由なのか……。
この宝を手にするために、阿倍御主人が使ったのは、ずばり「カネとコネ」です。
唐の有力者にコネがあったので、「おたくの国にある火鼠の皮衣が欲しいんですが」とお手紙を書きます。すると、「相当難しいご注文ですねー!でもインドらへんなら有りそうな感じなので、探してみますねー。なかったら返金しますー」とお返事がありました。
その後、「それっぽいのを発見したんですけど、買い取るにはお金が足りないんです。ちょっと追加送金してくれませんか?」と先方から連絡があり、阿倍御主人は「まじかー!そんなことなら全然追加料金だすわー!」と喜んで送金します。
結論から言うと、これが詐欺でして……。阿倍御主人はニセモノを掴まされます。かぐや姫の家に持っていくと、姫が「本物なら燃えないらしいので、燃やしてください」と言います。で、燃やしてみたら普通に燃えちゃって、残念でしたーってことになります。
見方によっては努力が足りないとも思えますが、この人は、割と常識の範囲内で行動しているんですよね。料金をケチっているわけでもないし、人脈を使うことも悪いことではありません。本人はニセモノとは思っていなかったので、悪気もないですし。大伴大納言よりは、地に足がついている感じがしたので、この順位ですね。まあ、たぶん結構歳いってそうですし、奥さん複数いると思いますけどね。
第1位……石上麿足
お待たせしました!お婿さんにしたい第1位は、石上麿足です。
麿足は、ちょっとヘタレっぽさがにじみ出ているのですが、まあ、とにかく人がいい。この人のお題は「燕の子安貝」。
大伴大納言と同様に、まずは使用人を使って探させます。子安貝なんて玉の枝よりも、偽装しようと思えばいくらでもできそうなものですが、偽物を作ろうという発想はありません。
使用人に、「燕が巣をつくったら教えてね、子安貝探すから!」というと、使用人の方から、子安貝情報を色々提供してくれるんですよ。ここが大伴大納言との大きな違いですね。使用人から人望があるということは、おそらく日ごろの行いがいいと推測できます。
さらに、使用人たちから、色々具体的な子安貝情報を聞くと、
「わあ、興味深いなあ。そんなこと、私は全然知らなかった。面白いことを、よく教えてくれたね」
と、喜ぶのです。伝わるでしょうか、このいい人感。
その後、使用人の中でも特に真面目な人二十人に頼んで、手分けして近くの燕の巣を見張らせます。すると……燕が怖がって巣に戻らなくなりました(笑)
「どうしようー」と家の者みんなでおろおろ困っていると、燕の子安貝に詳しいおじいさんが、「知恵をお貸ししましょう」と、名乗り出てきます。ここでも、そんなに親しくない人が、わざわざ協力を申し出てくれていることに注目です……結果的に情報が正しいのかは不明ですが、特に見返りを求めているわけではないので、善意からの申し出だと思います。
その人が言うには、「大勢でやるからあかんのです。足場は壊して、籠に一人だけ乗り、燕が子安貝を産む瞬間だけ引っ張り上げて掴めばいいんです!」と。イメージは、井戸みたいな滑車ですかね。綱を引っ張ると持ちあがる。
これに対し、麿足は「本当にすばらしい知恵だー!」と採用します。ちょっと考えなしな感じはありますが、素直の範囲内でとらえましょう。
さらに、燕が子安貝を産むときの動作(七回その場で回る)も聞き、麿足は大喜び。「我が家に仕えている人ではないのに、私の願いをかなえてくれることがとてもうれしい、また夜になったら来ておくれ」と言って、御礼を渡します。
そして、準備を整え、使用人を籠にのせて捜索させますが、いっこうに子安貝は見つかりません。麿足は怒って、「私がやる!」と自ら籠に乗って巣をチェックします。すると、何かを掴んだので「掴んだ!私は何か掴んだぞ!早くおろして!おじいさん、成功したよ!」と使用人たちに言います。ここの場面は、ちょっと軽率ですね。
使用人たちはその声に焦り、綱をゆるめる力加減を誤ってしまいます。麿足は落下し、下にあった窯にたたきつけられてしまいます。(ここは朝廷のキッチン)
みんなで慌てて介抱すると、麿足はなんとか息を吹き返します。
「腰が痛くて動けないけど、子安貝を掴んだから、本当にうれしい、さあ貝を見よう」
と、貝を見れば、それは貝ではなく、燕の古い排泄物でした……。がっかりした麿足は、心が折れると同時に、腰の骨も折れてしまいます。
麿足の容態は家に戻っても一向によくなりません。さらに、「子供のような行動をしてこうなったことを、人に聞かれたら」と心配して、病状は日に日に悪化します。
ここも、大伴大納言との差ですね。大伴大納言は、自分に起こった不幸への恨みをかぐや姫にぶつけますが、麿足は「自分が子供のようなことをした」と自省するのです。実際、やったことは愚かだったかもしれませんが、その後の考え方は、良い人なんだなあという印象ですね。
麿足が寝込んでいると知ったかぐや姫は、麿足にお見舞いの和歌を贈ります。かぐや姫から歌を贈ったのは、五人の中では麿足だけです。
かぐや姫の歌は「あなたを何年待っても待つ甲斐(貝)はないのでしょうか?」という内容で、無神経な感じもしますが、かぐや姫がちょっとデレているような感じもあります。それに対し、麿足は、瀕死ながら、ちゃんと返歌します。人に紙を持たせ、自分で筆を持って歌を書きつけるのです。
「子安貝はありませんでしたが、死にゆく私をどうか助けてください」
という内容の歌で、書き終わると同時に死んでしまいます。恋焦がれた人からの初めての歌……それこそ「死んでも」返歌しなくては、という気持ちだったでしょう。
かぐや姫はそれを聞き、可哀想に思ったそうです。
麿足は良く言えば素直、悪く言えばアホの子だと思います。でも、使用人たちの人望や、死ぬ前に自省するところはいい人だなあと。正直危なっかしさはありますが(実際死んでしまったし)、五人の中では一番いい人だなあと。
かぐや姫への最後の和歌は、恨みの気持ちがあるようにも捉えられますが、私としては、「あなたに会えたら、嬉しくて、命も助かるかもしれない。どうか会いに来て、私の命を救って欲しい」という願いが込められた歌だったんじゃないかなと思っています。
死んでしまったからよく思えるというのもあるかもしれませんが、惜しい人を亡くした、と思えます。
いかがでしたでしょうか! バレバレだと思いますが、私は麿足が大好きなので、かなりひいき目も入っているところがあります(笑)
この順位には異論あるぜ!!って方がいたら、遠慮なくコメント欄に書き込んでください。
私としては、「気まずくなって居眠りするおじいさん」と、「良い人オーラあふれる麿足」についてだけでも覚えていっていただければと思います!
読んでいただき、ありがとうございました。
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