第4回 江戸の遊び心(狂歌百人一首)
突然ですが、みなさんは、「
社会風刺や滑稽さを詠み込んだ短歌で、近世、特に江戸時代に大流行したそうです。
有名なものだと、
「
「白河の清きに魚もすみかねてもとの濁りの田沼恋しき」
とかは、社会風刺を詠み込んだものですね。
ふざけているようで、「なるほど」とうなってしまうような、うまいことを言ってありますよね。知識がないと詠めないものもあります。
私が好きな平安時代とはちょっと時代は離れるので勉強中ですが、平安文学をモチーフとしたものがあるので、今回はその一部をご紹介します。
本題に入る前に。狂歌師さんって、名前も面白いんですよ。
・朱楽菅江→あけらかんこう、と読みます。名前の由来は「あっけらかん」からだそうで。
・宿屋飯盛→やどやのめしもり、です。そのまんまな感じですね。
・頭光→つむりのひかる、です。若ハゲだったそうです。
・文々舎蟹子丸→ぶんぶんしゃかにこまる。蚊に困っていたそうです。
・蔦唐丸→つたのからまる。からまってたんですね。
・門限面倒→もんげんめんどう。これもそのまんまな名前。
・多田人成→ただのひとなり。謙虚ですね。
さて、本題。紹介するのは、
まず、第1番の天智天皇。元の歌は、「秋の田のかりほの庵の苫をあらみ我が衣手はつゆにぬれつつ」です。それが狂歌バージョンになると、
◎秋の田のかりほの庵の歌がるたとりぞこなつて雪は降りつつ◎
おわかりでしょうか。これはかるたで、下の句を見間違えてお手付きしたときのことを詠んでいるんですよ。
光孝天皇の、「君がため春の野に出でて若菜摘む我が衣手に雪はふりつつ」の下の句と似ているから間違ったんですね。
11番 参議篁(小野篁)「わたのはら八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよあまの釣舟」
◎ここまでは漕ぎ出でけれどことづてを
なんだか遠慮がちな歌になりました。並べると、篁さんがちょっと高飛車に見えますね(笑)
16番 中納言行平(在原行平)「立別れ因幡の山の嶺におふるまつとし聞かば今帰りこむ」
◎行平は狐のまねをしられけり松としきけば今帰りこん◎
これは、最後の「来む(来よう)」を、狐の鳴き声の「コン」とかけたわけですね。
安直なようで、脳内再生しやすいので、ちょっと笑ってしまいます。
24番 菅家(菅原道真)「このたびは
◎このたびはぬさも取り敢えず手向山まだ其の上に
「急いでて手ぶらで来ちゃったんです、ごめんね」って感じでしょうか……。
26番 貞信公(藤原忠平)「小倉山みねのもみぢば心あらば今ひとたびの御幸またなん」
◎小倉山みねのもみぢば心あらば貞信公に御返歌をせん
紅葉に心があったら、御幸を待つ前に貞信公に返歌する方が先でしょう!という突っ込みですね。説得力はあります。
28番 源宗于「山里は冬ぞさびしさ増さりける人めも草もかれぬとおもへば」
◎山里は冬ぞさびしさまさりける
そりゃそうでしょうね!!と、思わず笑ってしまいますね
35番 紀貫之「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」
◎人はいざどこともしらず貫之がつらつらつらとよみし故郷は◎
「貫之」に「つらつらつら」という音を重ねた音の面白さがありますね。
歌意としては、貫之が詠んだふるさとってどこだよっていう話です
38番 右近「わすらるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな」
◎わすらるる身をば思はず誓ひてし人のいのちのせはばかりする◎
だんなさんに尽くす奥さんのイメージです。ちょっと寂しいですね。だんなさん振り返ってあげて!って気分になります。または、子どものために身を粉にする母とも読めるでしょうか。
53番 右大将道綱母(蜻蛉日記作者)「なげきつつひとりぬる夜のあくる間はいかに久しきものとかはしる」
◎酔ひつぶれひとりぬるよのあくるまはばかに久しきものとかはしる◎
夫が来ない切なさを詠んだ歌が、酔っ払いが酔いつぶれて一人でその辺で寝てるシチュエーションになってしまっています!
道綱ママが詠んだら激怒するでしょうね~!!
76番 法性寺入道前関白太政大臣「わたの原こぎ出でてみれば久方の雲井にまがふ沖つ白波」
◎法性寺入道さきの関白を半分ほどでおきつしら波◎
作者の名前が長すぎるんだよ!!という歌になっております。実際百人一首のかるたでもがっつり二行になっていますからね。ちなみにそんな太政大臣の本名は「藤原忠通」といいます。
87番 寂蓮法師「むらさめの露もまだひぬ槙の葉に霧たちのぼる秋の夕暮」
◎むらさめの道のわるさの下駄のはにはら立ちのぼる秋の夕暮れ◎
村雨で道が悪くなって下駄の歯が引っかかって腹が立つ夕暮れってことですね。
なんだかするっと読めてしまう自然さです。
さてさて、ダイジェストでお届けしましたが、最後に私が一番好きな歌をご紹介します!
8番 喜撰法師「我が庵は都のたつみしかぞ住む よを宇治山と人はいふなり」
◎わが庵はみやこの
見てくださいこの美しさ。
文字数ぴったりの上に、最後が「うじ」で終わってます。
もはや芸術的で、本当に考えた人(太田南畝)天才だなって思いました。
江戸時代は、ユーモアというか、いじり方が、庶民的な感覚と高尚な文学をうまく融合させているように感じますね。
古文は古文ですけれども、平安文学よりは読みやすいし、ギャグ的な要素が入っている物語もあります。江戸は専門ではないのですが、また面白い話があれば紹介したいと思っています。
それでは、今回もお読みいただき、ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます