109話 「白狼のソーマ」

剣魔学園に戻ってきてから2日目。 俺はクリスと共に中等部校舎へ向かっていた。

中等部の制服は今朝寮に教師が来て渡された。


「あ〜、久しぶりだな〜この感じ!」


「3年は長いからな。 当分は慣れるまで大変だろう」


確かに、学園生活というのは時間が決められている。 何時までに集合、何時に解散とかな。

ここ3年は時間に縛られることなくずっと修行してたから、クリスの言う通り、当分は大変かもしれない。


教室に着くと、既にセレナ、アリス、フィリアが揃っていた。


皆に挨拶をしてから席に着く。

初等部の時から席順は変わっておらず、それもまた懐かしく感じる。


「この席にルージュが居るのって凄い懐かしいよね!」


「ですね。 ずっとこの席は空いてましたから」


セレナとアリスが言う。

たった半年間しか剣魔学園に居なかったのに、こうして懐かしんでくれるのは凄く嬉しい事だ。


そう思っていると、クラス内の男子2人が立ち上がり、俺の元へやって来た。

そいつらは突然俺の胸ぐらを掴み、無理やり立ち上がらせる。


「え、ルージュさん!?」


「ちょっと君達! 何してるのさ!」


「風紀委員の前でいい度胸だな」


セレナ達が言うが、こいつらは全く聞いてないみたいだ。


「……俺に、何か用があるのか?」


俺がそう言うと、男子生徒は頷き、口を開いた。


「…ルージュ・アルカディア。 3年前、魔剣使いのローガを倒したのはお前だな?」


クラス内が騒つく。 これまで会話していた生徒も会話をやめ、俺達に注目している。


「そうだけど、それが何だ?」


「"白狼はくろう"様が、お前に会いたがっている」


「白狼…? 誰だ?」


チラッとクリスを見る。


「ソーマの事だ。 彼は白狼と呼ばれている」


クリスが教えてくれた。

白狼…ねぇ…二つ名みたいなものか。 厨二病みたいな二つ名だなぁ…


「ソーマが俺に? 丁度いい。 俺もソーマに用がある」


俺が言うと、セレナが立ち上がった。


「る、ルージュ駄目だよ! ソーマ君は凄く強くて…何されるか分からないよ!?」


ソーマが強い事なんて初めて会った時から分かってる。 だからこそ、会わなきゃいけない。

なぜソーマがこんな事を始めたのか、知りたいからだ。


「…着いて来い。 ルージュ・アルカディア」


胸ぐらから手を離し、2人が教室の扉へ向かう。 俺も机の横から剣を取り、歩き出すと、セレナが俺の腕を掴んできた。


「…ルージュ。 私も行く」


「いや、大丈夫だよ。 呼ばれたのは俺だけだし」


「でも!」


セレナが心配そうな目をする。 これだけで分かる。 ソーマは相当強いんだな。

セレナ達は3年前に比べて驚く程強くなった。 そんなセレナ達が警戒するんだ。

…覚悟はしておかなきゃな。


俺は、優しくセレナの頭に手を置く。


「大丈夫。 俺はソーマなんかに負けねぇよ」


それだけ言って、教室を出る。

2人に着いて校舎を出て、学園内をどんどん進んで行く。


…今思ったけど、これってサボりだよな。 しかも俺は初日…初日からサボりってどんな不良だよ……


大丈夫だよな…? これ暴徒って扱いにならないよな…?


「ここだ」


「中に入れ」


2人に言われ、前を見る。

すると、目の前には洞窟に入る穴があった。

剣魔学園はこんな所もあるのか……


…いや、よく見ると横に立ち入り禁止って書いてるな。 …って事は使われてない場所って事か。

隠れ家にするにはいい場所だな。


洞窟に1人で入ると、壁に松明が差してあり、中は明るかった。

そのまま進んで行くと、1つの人影が見えた。

人影はゆっくり立ち上がる。


「…来たか。 半端野郎」


「おー…懐かしい呼び名だ。 よく覚えてんな。 白狼さんよ」


半端野郎とは、入学試験の時にソーマに言われた言葉だ。

今まで忘れてたぞ俺。


「…魔剣使いを倒したらしいじゃねぇか」


「あぁ。 倒したぜ? なんだ? 褒めてくれんのか?」


徐々にソーマが近づいてきて、ようやくソーマの顔が見えた。

白い髪に整った顔立ち。 そして、ソーマの目は、明らかに俺の事を睨みつけていた。


「…倒したんなら、持ってるんだろ? 魔剣」


「…持ってたら…なんだ?」


そう言うと、ソーマが物凄いスピードで剣を抜き、俺に振り下ろしてきた。

俺も背中から剣を抜き、何とかソーマの初撃を防ぐ。


…やっぱり戦う事になったか…!


ソーマの腹を蹴って距離を取る。


「いきなり危ねぇだろ!」


「魔剣を俺に渡せ。 魔剣はテメェには使えねぇ」


魔剣を渡せ…だと…?


そう言うと、またソーマが向かってきた。 ソーマと戦っていると、いつの間にか洞窟の外に出ていた。

外に出ると、お互い同時に距離を取る。


俺は剣に炎を纏わせ、足に風を纏う。

それを見て、ソーマはフッと鼻で笑う。


「…変わらねぇな。 半端野郎。 結局は魔術頼り、剣術には自信がないみたいだなぁ!!」


ソーマが剣を地面に叩きつける。 すると、叩きつけた場所の地面が抉れ、衝撃波が俺の所まで飛んできた。


大炎斬だいえんざん!」


大炎斬と衝撃波がぶつかり合い、轟音が鳴り響く。

そんな中、ソーマは俺の元へ近づき、剣を振り下ろしてきた。

俺は後ろに飛んでかわしたが、ソーマはクルリと身体を捻り、俺に回し蹴りをしてきた。


「くっ…!」


飛ばされ、地面を転がっていく俺に、ソーマはまた地面に剣を叩きつけて衝撃波を撃ってきた。


「容赦ねぇ…なっ!!」


足に風魔法を纏わせ、その場から思い切り上に飛び上がる。

そして右手に雷魔法を纏わせ、ソーマに狙いを定める。


天雷てんらいッ!」


空中からソーマの元へ落下し、右手を突き出す。

天雷は落下のスピードを合わせた超高速の突きだ。

初見で避けられる奴は今まで居なかった。


…だが……


「…遅せぇ…」


ソーマは身体を少し横にずらして俺の天雷をかわし、俺の腹を蹴り上げた。


「ぐっ…!」


「おい。 お前、3年修行してたんだろ? こんな弱い奴に魔剣使いがやられる訳がねぇ…」


ソーマは俺の髪の毛を鷲掴み、睨みつける。


「…まだ、本気出してねぇだろ? 魔剣使いを倒した力、見せてみろよ」


『…ルージュ…僕イライラしてきたよ。 なんなのさコイツ! 』


…あぁ、奇遇だなグラビ。 俺もちょっとイライラしてきた。


「…部分龍化!」


両腕と右足を龍化させ、ソーマを睨みつける。

ソーマは俺の姿を見て目を見開く。


「いつまで鷲掴みしてんだよ! 痛てぇだろうが!」


ソーマの腹を右足で蹴る。 俺の右足はソーマの腹にめり込み、ソーマは地面を数回バウンドしながら飛んで行った。


「…来い、グラビ」


俺の右手に光が集まり、紫の剣が現れた。


『流石ルージュ! スカッとしたよ!』


だろ〜? さて、グラビ…死なない程度に痛めつけるぞ。


『おー!! って、なんかルージュ、悪役っぽいよ?』


そんな話をしている間に、ソーマが腹を抑えながら立ち上がる。


「行くぞグラビ! 俺を浮かせろ!」


『任せて〜!』


グラビが光り、俺の身体が宙に浮く。

俺は両腕を後ろに向け、突風ウィンドを撃つ。

すると、俺の身体は反動で思い切り前に進む。


あっという間にソーマに近づき、俺はその勢いのままソーマの腹に膝蹴りを食らわせる。


「ぐあっ…!?」


「まだまだ行くぜぇ! ゼロ距離で石連弾ロックマシンガン!」


倒れこみそうなソーマの服を掴み、背中に石連弾を全弾食らわせる。


「龍神武術・蒼連撃!」


よろけているソーマの背中に蒼連撃を食らわせると、ソーマは口から血を吐いて膝をついた。

俺はソーマから少し距離をとり、ソーマに話しかける。


「おいソーマ。 なんでお前こんな事してるんだ?

暴徒だかなんだか知らねぇけど、何がしたいんだよ」


ソーマはゆっくり立ち上がり、剣を杖代わりにし、俺を睨みつける。


「…黙…れ。 俺は強くならなきゃいけねぇんだ…。 まずはこの学園で1番にならなきゃ…生きてる意味がねぇ…」


「はぁ? お前は十分強いだろ? 何を焦ってんだよ」


「…1番にならなきゃダメなんだ…俺は…! 誰にも負けられねぇ…!

憑依・フェンリル!!」


ソーマの雰囲気が一瞬で変わった。


ソーマの白い髪は逆立ち、ソーマの爪は鋭く伸びた。

姿勢を低くして戦闘態勢に入ったソーマは、まるで野生の獣のようだ。


「…魔剣を…ヨコセ…! ハンパ野郎ォ!!!」


ソーマが一瞬で俺の元へ近づき、その鋭い爪で俺の腹を引っ掻いてきた。

俺の腹からは血が滴り落ちてくる。


全く見えなかった…!?


「なんだよ急に…!?」


「死ネェ!!!」


ソーマが高速で俺を引っ掻いてくる。

正面から、背後から、左右から。

何度も何度も。 俺は1度もソーマの姿を見る事が出来なかった。


ソーマの攻撃が止むと、俺は地面に膝をついた。 血を流し過ぎたせいか、意識が朦朧としてくる。


『…ルージュ…彼、憑依術を使えるみたいだ。 厄介だよ』


憑依術…? なんだそれ


『簡単に説明するよ? 憑依術っていうのは、空間魔術や封印魔術のような、特殊な魔術なんだ。

憑依術は、自分に他の生き物を憑依させて戦う魔術。 憑依させる生き物によって戦い方が変わるんだよ』


さっきアイツ、フェンリルって言ったよな…?


『うん。 フェンリルは狼の幻獣。 言ってしまえばレア物だ。

彼が白狼って呼ばれているのは、そのせいかもね』


「ハハハハハッ!! どうシタ!? 抵抗してミロよ!!」


『どうやら、彼はまだ憑依術を完璧には使いこなせてないみたいだ。

今の彼は獣を憑依させた人間じゃない。 獣に乗っ取られた人間だよ』


…ふむ…って事はアイツは今動物と変わりないって事か。


『そうなるね』


なら、勝機はある。


「ついて来い半端狼!!」


俺は挑発してから風加速を使って洞窟の中へ入った。

ソーマは俺を追って物凄い速さで走ってきた。


俺は走りながら自分の腹から流れる血を左手にベットリとくっつけ、ソーマの方を振り返る。


「ガアアアッ!! 」


俺が動きを止めた事で、ソーマは飛びかかってきた。

…やっぱり、速いだけで動きは単調だ。

狙ってくる場所が分かっているなら、簡単に避けられる。


右に1歩移動して躱すと、ソーマはバランスを崩して転ぶ。


俺はその隙をついてソーマの顔面を血のついた左手で思い切り殴った。


ソーマはそのまま吹き飛ぶ、ヨロヨロになりながら起き上がると、ソーマは鼻を抑えてジタバタしだした。


「ガアアッ!! あああアアアッ!! なんダこの匂いッ!」


「どうだソーマ。 血生臭いだろ? 狼はイヌ科、犬の嗅覚は人間の1億倍。

お前の鼻に直接血を塗りたくった! 匂いが気になって戦いに集中出来ないだろ!!」


両手で鼻を抑えているソーマの腹を思い切り蹴る。

ソーマは壁に激突する。


『うっわ〜…ルージュ、エグい事するね〜…』


仕方ないだろ? これ以上引っ掻かれたら出血多量で倒れちまうかもしれないし。


「んじゃ、俺は保健室行くから。 お前は憑依術が解けるまでここに居ろよ」


未だに鼻を抑えているソーマに背を向け、俺は中等部の保健室へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「2日間は寮で絶対安静にするように」


保健室の先生にそう言われ、俺はベッドの上で絶望していた。


「…え…え? あの…俺今まで旅に出てて、今日が久しぶりの学校なんですけど…」


「知りません。 こんな怪我した人を授業に出すわけにはいきません」


メガネをかけたお固そうな女性にそう言われ、俺は溜息をつく。


「マジかよぉ……楽しみにしてたのに…」


あ、そうだ。 グラビなら治せるだろ! 頼むよー!


『え〜? 出来るけど…あれ疲れるし、君の身体に負担がかるんだよ?

今は緊急事態でもないし、言われた通り2日間安静にしてるんだね』


最後の希望、グラビにも断られた。


…はぁ…2日間暇だなぁ〜…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2度目の人生を、楽しく生きる 〜青年編〜 皐月 遊 @bashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ