第74話 天地創世の試練(前)

 日本では、八月の最終週に入った頃。猛暑も一段落し、夜は熱帯夜から解放されたことで。夢渡りでバルハリアへ向かうために布団で寝るのがようやく、楽に感じられるようになってきた。

 

 ネットでは面白そうな時代劇映画の宣伝も目に入ってくるが、出来るだけ八月中に小説の執筆に一区切りつけたいので、我慢している。最近はバルハリアで冒険しては、それをネタに地球で小説を書く。この繰り返しだった。


 チャンバラや国盗り合戦だけが時代劇ではないし、戦場だけを描くのが戦争映画でもない。私はむしろ、戦場の最前線以外を描いた「背景設定に戦争がある映画」の方が好きだ。経済という側面から、戦国時代や江戸時代を捉え直した新解釈の歴史ものは、現代人にとっても学ぶ側面が大きい。正しく温故知新、古きをたずねて新しきを知るだ。

 第二次世界大戦ものの映画をよく見るようになったのは、戦争を表面的にしか捉えていないM Pミリタリー・パレード社のP B Wプレイバイウェブ に対する強い反発からだった。そこからスタートして、私は戦争に対する独自の見方を養っていった。


 市井に生きる、無名の一般人にとって。戦争とは巨大な困難であり理不尽だ。軍人であれば、より大きな理不尽にさらされるだろう。その大いなる冬の時代を、当時の人々はどう生き抜いたか。どのように助け合ったか。

 そこには、時代や世界が違っても変わらない人間の本質が描かれている。暗闇の中の光。こんな世の中でも、生きるに値する希望は残されていると。


 今の日本だって、直接どこかの国と戦争してるわけじゃない。世の中から捨てられた、不要だと評されることさえある氷河期世代の私たちも、その恩恵をしっかり受けている。

 やれ平和主義だ、戦争反対だと唱えるだけで本当の平和は守れない。弱肉強食のハゲタカ、良心無き無法者に対して「平和を望むならば、戦いに備えよSi Vis Pacem, Para Bellum」と日々備えてくれている自衛隊の人たちのおかげで保たれている平和があるからこそ。私も呑気に作家の夢を追えるわけだ。ADHDの私にも、まだ希望はある。


 ステレオタイプな魔王討伐なんかとっくに陳腐化して、それでは本当に世界を救えないと分かり切った今、勇者の定義も多様であるべきだ。血筋も戦闘力も、地球人か異世界人かも関係無い。自分の中の小さな勇気を奮い起こし、仲間と手を取りあって目の前の困難に立ち向かえるか。たったそれだけだ。世界を救うようなスケールでなくても、全く構わない。

 いつかユッフィーも、氷都市を去るときが来るだろう。地球人の人生の時間は限られているのだから。その後も、地球とバルハリアの未来…ひいては多元宇宙の繁栄のために勇者を育て、両方の世界を行き来して問題解決に当たれる基盤をつくる。地球では、爪弾き者だった自分がだ。


 大きな理想を掲げて上を向いていれば、無職だという現在の自分の悩みも小さいものだと笑えもしよう。そんなことを思いながら風呂に浸かる。

 布団で横になって、タオルケットだけをかけて眠りに入ると。バルハリアで目を覚ます前に、あのケルベルスが夢を介してメッセージを送ってきた。


「最深部へ到達したな、地上の冒険者たちよ」


 前回同様、異世界テレビフリズスキャルヴ経由でもメッセージは届いており。地球組は夢で、バルハリア組は異世界テレビを通して同時刻に同じ内容のメッセージを見ている。


「前回、我は星獣たちを揺籃の星窟から解き放つことを求め。その返礼として、地上の民の未来のために協力すると申し出たな。そして、ここまででお前たちの力は見せてもらった」


 地上侵略の意思は無いと、ケルベルスは断言した。それでも彼の目的は、未だ謎に包まれている。


「お前たちは洞窟の最深部に到達し、三つの扉を見たであろう。これより創世の試練を執り行い、我ら星獣たちのために『自由なる大地』を地底に創造しようと思う」


 文字通りの、天地創造。ケルベルスはそう言い切った。それは女神アウロラでさえ成し得ていない、まさに神の御業。バルハリアを創造した古の神々はすでに去り、アウロラは唯一残った下位の神に過ぎないからだ。


「何と、大それたことを」


 異世界テレビの映像を注視しながら、年配の女性が顔をしかめる。彼女はアウロラ神殿の長であり、全ての巫女たちの頂点に立つエルルやミキの上司だ。そして地球人の品行に苦言を呈し、勇者候補生制度に異論を唱え、予備役冒険者の起用を提唱した排外派の筆頭でもあった。

 女神アウロラへの敬愛は誰より強いのだが、それ故に彼女が一番でないと気が済まないのだ。だから本音は、冒険者にもアバターボディを使わせたくなかった。


「この惑星バルハリアの地の底深くに、幾星霜にも渡って染み込んだ星からの光。その莫大な星霊力と、神の器たるアバターボディを持ってすれば。地底世界の創造すら十分に可能であろう。だがそこに、ひとつ問題があった」


 氷都市長のリリアナが、メッセージに耳を澄ませている。もし、ケルベルスの言う通りに新たな地底世界が誕生すれば、この氷都市と自らがCEOを務めるオティス商会にどれほどの豊かな恵みをもたらすか。そこは間違いなく、フィンブルヴィンテルの影響外の土地になるだろう。揺籃の星窟がそうなのだから。

 そうなれば、バルハリアの主神と崇められた女神アウロラへの精神的な依存は薄れる。それはアウロラ神殿の宗教的権威の失墜を意味する。だが、それも時代の流れだ。改革派であるリリアナは、そう考えていた。大いなる冬からの解放こそ、市民の悲願なのだ。停滞したままの世界を維持するなど論外だ。


(オティスお祖父様から、最前線の芳しくない知らせも入っている。後方の氷都市で新たな勇者を育て、庭師ガーデナーたちの身勝手な「剪定」を阻止せんとする百万の勇者ミリオンズブレイブに援軍を送るためにも。我らは立ち止まってなどいられないな)


 だいたい、女神アウロラ本人だって。自分はフリズスキャルヴのオペレーターに過ぎないと明言している。だけど、大いなる冬フィンブルヴィンテルを生きるバルハリアの人々にとって、今は心の拠り所。だから女神に祭り上げられている。

 もし、地球人の一神教の信者が氷都市を訪れたら。アウロラは自分を決して神だとは名乗らないだろう。相手の主張する「ただひとつの神」に敬意を払い、頭を垂れることさえするだろう。それほど異教に寛容な人格者なのだ。


「我らは人間とのつながりを得て、個我と知性に目覚めた。だがそれはまだ、生まれたての赤子のように幼いものだ」


(えっ!?)


 ケルベルスの発言に、夢の中でユッフィーたちが。あるいは氷都市で映像に注視している者たちが驚きの色を見せる。


「そんな無知な幼子が天地創造を行い、世界のありようを定義するなど、危ういにもほどがあろう。我らにも、そのくらいの思慮はある」


 アウロラ神殿の長も、その言葉で表情を変えていた。知らず知らずのうちに、母性を刺激されているのだ。


「なるほど。誰の影響かは知りませんが、少しは分別をわきまえているようですね」


 次にケルベルスが語り、冒険者たちに求めたことに。メッセージを見ている誰もが驚愕を隠せなかった。


「そこで我は、地底世界のあり方を試練に臨む冒険者たちに委ねると決めた。お前たちは多元宇宙の各世界で数々の苦難を経験し、世の理不尽に抗い、理想の明日を求めて己を磨いてきたのだろう?それを今こそ、地底世界に描くのだ」


 ケルベルスは、自分たちとつながりを持った地球人や氷都市に集った英雄や難民たちの、苦難の記憶にも触れていたのだ。


「お前たちが地底世界の創世神となり、神話にその名を刻む。さすれば我ら星獣は、その子として祖先への感謝と誇りを抱きながら。自由な大地で生きていけるだろう」


 冒険者たちよ、未来を創れ。


 そのメッセージは、単に氷都市民だけでなく。開国から150年余り、歴史の荒波に翻弄され続けてアイデンティティが揺らいできた日本人へ檄を飛ばすような。そんな意図にすら聞こえてくる。ユッフィー自身、深読みしすぎだろうと思いながらも。バルハリアと現代日本は、それだけの類似点を持った世界なのだ。


「試練の内容について説明するぞ。我らとお前たちの対決は、古の英雄ヘラクレスの成し遂げた『十二の功業』になぞらえた魔術儀式になっている。そこでお前たちは、己の勇気と知恵と信ずるものを示し、十二個の『黄金の果実』を実らせるのだ」


 星座のケルベルス座は、ヘルクレス座の一部として取り込まれることで幻の星座となった。それを意識しているのだろう。そして、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスを特徴づけ、最大最強の存在たらしめている十二の冒険。それ相応の困難が伴うのは間違いない。

 地底世界の創造は、その実らせた黄金の果実のパワーを解放して行うという。


「こりゃ、大変そうだね」


 ミハイルが肩をすくめた。その様子を見て、アリサもあごに手をやる。


「…災いの種カラミティシードにも似ておるな」


 妖刀使いであり、氷都市への危険物持ち込みを阻止する入国審査官のアリサが未知のアイテムに警戒心を抱く。

 願いを叶えるタイプの秘宝は、邪な者の手に渡ったり、願いの内容によっては破滅的な結果をもたらす。だからこそ、使い手の資質を試す試練を設けたのだろう。


「災いの種は、人々の負の感情を吸い上げて育ち。極めて歪んだ形で願いを叶える危険なものでした。でも…」

「そういうんじゃないよね、ケルベルスくんのは」


 ミキもレティスも、かつて百万の勇者の一員として。はじまりの地で欲に取り憑かれて人間性を失った者たちによる、血にまみれた災いの種の争奪戦を見てきた。

 そして道化の企みで多元宇宙に災いの種が拡散させられてしまった今、おそらくどこかの異世界で同様の争いは際限無く繰り返されている。多くの罪無き人々を巻き込みながら。


「黄金の果実がみんなを幸せにするか、不和のリンゴになるかは。ボクたちの心がけ次第ってことでしょ?だったら、かつてバルハリアを襲った大いなる冬フィンブルヴィンテルの二の舞にはさせない」

「当然だ」


 マリスとクロノが、顔を見合わせてうなずいた。


「ケルベルスのところへたどり着くには、三つの扉を通る必要がある。そこから先は、パーティが三つに分断されることを想定しておくべきだろう」


 そう言うクワンダの背には、白い狼の星獣が描かれていた。クロノから話を聞き、決戦に備えてリーフに頼んだものだった。すでに、星獣として実体化可能な星霊力もチャージされている。


「お前たちが、星獣たちの大群を突破する場面から。すでに試練は始まっている。残りは我と直接対面したとき、現地で伝えるとしよう」


 最後に念を押すように、ケルベルスは伝えた。


「お前たちには、選ぶ自由がある。このまま準備を整えて試練に臨むも良いし、未知の不確定要素を警戒して試練を受けないのも良い。どちらにせよ、心に迷いを残したまま、半端な覚悟で来られても困るのでな」


 ユッフィーたちが氷都市で目覚める。すぐにエルルと状況確認を済ませようとするが、イーノファミリーの部屋に彼女の姿は無かった。


「エルルちゃん、どこ行ったんだろ?」


 メルが首をかしげると、玄関の呼鈴が鳴った。


「はいですの!」

「みんな起きてる?エルルちゃんとミキちゃんなら、神殿から呼び出しがかかって。いま出かけてるよ」


 ユッフィーが応対すると、マリスが部屋を訪ねてきていた。クロノも一緒だ。


「何かしら。私たちも神殿に行っていい?」

「一応言っとくけど、神殿長さんは地球人嫌いの排外派だよ」


 アウロラからの呼び出しならば、異世界テレビを使うはずだ。ミカの疑問に、マリスがコネで手に入れた情報を告げる。


「なら、外で目立たないように待てばいいの」


 モモの提案に、一同がうなずく。ユッフィーたちは手早く身支度を済ませ、神殿へ向かった。


「舞姫ミキ、召集に応じ参上しました」

「神殿長さまぁ、お呼びですかぁ?」

「巫女エルル、舞姫ミキ。今日あなた方をここへ呼んだのは、他でもありません」


 アウロラ神殿の長の部屋で、エルルとミキが気難しい顔をした年配の女性と対面している。衣装からして、明らかに格上の聖職者だ。


「ケルベルスと名乗る者からの伝言は、聞いていますね」

「はいですぅ!」

「ええ」


 しばし、神殿長が気難しい表情のままで沈黙が流れる。ミキは心配になって、エルルの顔を見るも。だいじょうぶですよぉとばかりに、エルルは微笑んで。


「神殿長さまぁ!わたしぃ、アウロラ様の悲願を果たすぅこのビッグチャンスにぃ、ミキちゃんと力を合わせて勇者様がたのお力になってきますぅ!!」


 まぶしいばかりの笑顔で、エルルは胸のうちを語った。そばで聞いてるミキが圧倒されるほどのポジティブさだ。


「エルル先輩と、皆様方は…私が守りますから。クワンダおじさまにアリサさん、レティちゃんにリーフさんだって一緒です」


 悩むより、前を向こう。控え目ながらも地に足のついた様子で、ミキがしっかりと答えた。ふたりの様子に、神殿長も安心して肩の力を抜く。


「では巫女エルル、舞姫ミキに命じます。アウロラ様の名代として試練に挑み、あのケルベルスなる幼子を正しい道へと導き。必ず無事に帰って来るのですよ」


 神殿長は、孤児となっている巫女たちの親代わりでもある。エルルもミキも、親を無くしている。母として純粋に、娘の身を案じているのだろう。特にこのふたりは、目の中に入れても痛くない「姉妹」だった。

 おそらく、地球人たちにあまり好意的でないのも。娘たちがどこの馬の骨ともつかない男に騙されないようにとの親心なのかも知れない。頑張れイーノ。


「もちのロンですぅ!」

「はい、必ず!」


 神殿長が、ふたりをまとめてハグする。エルルとミキも抱き返しながら、お互い顔を見合わせて絆を深め合った。


「いいお母さんじゃない、神殿長様って」


 アウロラ神殿前で、エルルやミキと合流したユッフィーたちがふたりの話を聞いている。事情を知ったミカが、エルルに微笑んでいる。


「ユッフィーは、お母様から信頼を勝ち取らないとね」


 モモが冗談めいた笑みを浮かべて、ユッフィーの肩を肘で小突く。ユッフィーは演技も忘れて、中の人イーノの素が出た様子であわてていた。


「だぁいじょぶですよぉ、あなたぁでしたらぁ」


 一応どこで誰が聞いてるか分からないので、エルルはイーノの名でなく「あなた」と呼んで陽気に笑った。


「氷都市は同性婚OKだろ?いっそエルルとユッフィーでくっついてもいいんじゃないか」

「私たちも祝福するわよ」


 クロノが珍しく冗談を言うと、噂をすれば何とやらでその同性カップルなオリヒメとゾーラが来ていた。マリスが連絡したのだ。


「エルル様。あなたはファミリーの要ですわ。必ず全員で、お守り致します」


 ユッフィーがエルルを見上げる。イーノとしてもユッフィーとしても大切な人だ。エルルもユッフィーの手を取って、お互いに視線を通わせた。


「あたしらが付いてるんだから、泥舟に乗ったつもりでいてね」

「そうそう、オレっちが固めて石の舟にするっすからね!」


 メルとゾーラがジョークを言い合って、意気投合した。


「途中までになるけど。愛弟子のミキちゃんと、その大親友エルルちゃんのために。ぼくもグラサン大尉としての力、存分に振るうよ」


 アニメのコスプレみたいなノースリーブの軍服姿で、ミハイルもやって来た。


「ミハイル先生!?」


 いつもは、ミハイルがミキの我流の格闘フィギュアスケートに驚かされているが。今度は、ミハイルの趣味にミキが驚いていた。


「パンちゃん、じゃあ行ってくるの」

「レティちゃん、がんばってなの!」


 全体的に和風なビッグファミリーの部屋で、レティスがパンとハグを交わしている。その様子をビッグたち三人と、クシナダも見守っていた。


「留守はお任せくださいませ」


 クシナダが丁寧に頭を下げると。


「ちょっくら暴れてくらぁ」


 軽い散歩にでも行くかのように、ビッグが片手半剣バスタードソードを背負う。その隣で、ポンタがやや不満そうな顔をしていた。


「我々の格好、何でこの色なんです?」


 ビッグ、ジュウゾウ、ポンタの三人は真っ赤なサーフパンツにパーカー姿だ。かなり目立っていた。


「ミハイルなんか、金ピカの機体じゃねぇか。うちMP社のロゴだって赤いだろ」

「敵の注意を引くのが目的なら、悪くはないだろう」


 派手好きのビッグの趣味なのか、はたまたジュウゾウの言うように今回の突入支援に適したカラーなのか。


「危ない目には、あいたくないものですね」


 ビッグたちは、ケルベルスとは直接対決しない。三つの小隊が扉にたどり着くのを支援するだけだ。氷都市で作戦会議をするまでもなく、最深部の三つの扉を見れば。それは明らかだった。


 ミハイルとM Pミリタリー・パレード社の三人は、創世の試練の初期段階に関わるだけ。それはケルベルスが勝手に決めて通告してきたことだ。解釈によっては面倒事に関わらなくて済むとも言えるし、地底世界の創造に関わる資格無しと判断され活躍の機会を奪われたとも言える。

 ポンタの解釈は前者で、ビッグの解釈は後者だった。一方でジュウゾウはどちらでも構わない、今できることを淡々とこなすスタンスだ。


「それじゃ、行こっか」


 レティスが三人を見る。それを合図に、ビッグたちも部屋を出た。


 紋章院の一室。クワンダ、アリサ、リーフが集まった一同を前に出発前のブリーフィングを行っている。


「揺籃の星窟用の、転移紋章石の試作品ができました。ですが今回は突入支援を行うミハイル隊だけに非常用として配備し、突入部隊は携行しないものとします」


 リーフがミハイルに、改良された転移紋章石を手渡す。


「転移紋章石の存在を、ケルベルスに知られているからですわね」


 クロノから、三つの扉に刻まれた文言のことを聞いていたユッフィーが確認のために質問をする。

 ケルベルスは、つながりを持った相手の知識や記憶に触れている。ユッフィーやオリヒメにも星獣の相棒がいる以上は、当然の想定だ。


「試練が始まったら、最後まで付き合えって言われてますからね」

「単にボスと戦って、倒せばいいわけでもないからな」


 クロノがケルベルスの意図を推理する。これは何かを壊したり殺すのではなく、世界をつくるための戦いであると。


 社長が認めるかどうかは分からないが。マンネリ打破のために、こんな趣向の新作PBWも悪くないかもしれない。ふと、ポンタの頭にそんな考えが浮かんでいた。


「ぼくたちでクワンダ、マリスちゃん、ユッフィーちゃんたちの突入を支援するって基本方針は変わらないよね?派手に暴れたら、突入を見届けてから撤退するよ」


 揺籃の星窟内の環境に適応させた、機体マキナの説明をリーフから聞き終えると。ミハイルは作戦の要点を確認する。


「ああ」

「引き際を見誤らぬようにの」


 クワンダとアリサも、ミハイルを見てうなずく。


「社長が暴走したら、引きずってでも帰る。そこは任せろ」


 アリサとジュウゾウから、ビッグに強い視線が飛ぶ。


「お前ら、そんなにオレが心配か。クシナダといい、オレも慕われてるな」


 何食わぬ顔でビッグが笑う。ポンタも苦笑を浮かべていた。この性格に振り回されて、どれだけ苦労したか。MP社がどれほど漂流を続けてきたか。それでも彼を排除することだけは、ポンタやジュウゾウの頭の中には無かった。

 今は、その行動力を頼りにしよう。ユッフィーとクロノも顔を見合わせる。


「ケルベロスさぁんたちへの対応はぁ、わたしぃにおまかせですぅ!」


 エルルが、手にした竪琴ライアーをかき鳴らす。


 もし、ケルベルスが地球人の神話知識に基づいて「素直に」「忠実に」地獄の番犬ケルベロスを再現しているなら、エルルの得意の竪琴で眠らせることが可能かもしれない。それはすでに検証済みだった。

 ユッフィーたちが地球へ帰っている間、エルルは一度クワンダ隊に同行してケルベロス相手に効果を確かめていた。


「せっかく眠らせたのにぃ、起こしちゃダメですよぉ?」

「銃使いは注意が必要だな」


 エルルの注意喚起に、ジュウゾウがミハイルと顔を見合わせる。


「なあに、ぼくには他に得意技があるからね」


 作戦前の確認は済んだ。後は実行あるのみだ。

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