第3話 凍れる都の道化
道化は、そこに立っていた。
ちょうど、古代の円形劇場のような屋外のステージで。
「このような場所で、またお会いできるとは…蒼の勇者様」
はたして、いつからなのか。
姿どころか、気配さえ感づかれずに。彼は舞台に現れた。
全てが凍りついた遺跡の、奥深くにて。
めいめいに得物を構えた冒険者たちに囲まれた上で武器を向けられ、鋭い視線でにらまれても。
彼は、平然とした態度を崩さない。
「…おぬし、なぜ凍っておらぬ」
まるで狐につままれたような顔で、
「アナタたちこそ、その格好で寒くないのですか?」
「蒼の民を知っているが、ローゼンブルク遺跡のことは知らない、か。」
独特な意匠の槍を構えた、キルトの男クワンダが油断無く問いを返す。
「ここは昔、『
「まあ、それは…」
道化の口元が、ニヤリと歪むのを。熟練の冒険者ふたりは見逃さなかった。
「本来この地は、踏み込む者をたちどころに氷像へと変えてしまう
「なので、お優しい女神アウロラ様は、わたくしたちにご加護を授けて呪いから守ってくれるんです。それだけじゃなくて、いつでも春のような暖かさですよ」
舞姫のまとう燐光は、ほの暗い遺跡内を冒険者たちの周囲だけ、明るく照らし出していて。
「あなたは、アウロラ様の加護を受けていない。むしろ寒気を感じる…」
道化の姿に、心の奥でひっかかる何かを感じながら…ミキは両手で自分自身を抱くようなしぐさをとった。
そんな舞姫を横目に見つつ、アリサは目の前の不審人物への警戒を強める。
「巫女であるミキが言う以上。おぬしが、いるだけで氷漬け確定の呪われた迷宮でも平然としておる…得体の知れぬ化物ということは明らかじゃな」
呪われたダンジョン。
もしもこの場に地球人がいたならば、それは「原発事故の跡地」という例えで説明されたかもしれない。
「そう言われましても」
おどけた様子で、道化は困ったような声をあげる。
「気づいたら、この凍った遺跡の中にいて。どういうわけか外には出れなくて、ようやく人を見かけたと思ったら、このありさまですよ」
両手を広げて、お手上げのポーズ。
「でも待ってください…そこのお嬢さん。アナタの顔、どこかで見たような」
ぞくり。
仮面の奥の瞳に、見つめられたとき。
胸元の古傷が疼くと共に、ミキの脳裏には忘れかけた忌まわしい記憶が蘇ってくるのだった。
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