Virtual Reality, 人間賛歌。

ネコ文屋

Hello World!

 地球社会はついに、新しい地平を電脳の海に開いた。この世界にあるありとあらゆるものを、電脳化することが可能になったのだ。


 AIをAIが開発するというシンギュラリティ を迎えてから、草が育つスピードよりも早く天文学的スピードで生まれてくる様々な形態を持つAIは、既存の人間社会のありとあらゆるものを進歩させた。学問分野ではありとあらゆる難問がごくごく短い期間で人間が想定した成果の遥か先を行く答えが提示され、映画や小説、ゲームさえも人間より面白いものをジャンル問わず産み出し始めた。


 コンピュータの外、現実社会はロボットで溢れた。ロボットたちは人間よりも遥かに優れた恐れを知らない知性で、どんなモデルとなった生物よりもスムーズにそして、アクロバットに動くことができた。人型ロボットはすぐに人間を超え、労働のコスト面で人間を雇うよりも下回った。


 経済活動はAIとロボット抜きでは、すでに勝負にならなくなったのだ。人間は価値を産み出す主体ではあっても主役ではなくなった。人間が持つ一番大きな価値は生み出された価値を消費することになった。


 だが、それすらも経済を制御、分析するAIが提示した新しい手法によって大した意味を持たなくなった。AIによる経済活動と人間による経済活動の分離し、巨大なAIによる経済活動を完全に管理する事で、従来では変動の大きい人間の経済活動を直接にも間接にも安定させることが可能となった。


 もちろん、人間はそれを複雑な気持ちで見ていた。これまで、地球上で、人間は並び立つもののない存在だった。他の生物に比べて圧倒的な知性と社会による集積と研鑽で宇宙の理を白日の下へ引きずり出し、新たな存在を現実へ出現させてきた特別な存在だった。それが、AIにより矮小な存在に貶められたのだ。人間の心に忸怩たる感情が傷となって刻まれた。


 しかし、そうしたものに反感を覚えるものはいたが、四半世紀もしないうちに人間は理性的にも感情的にも適応した。巨大なゆりかごに揺られる方が幸せだと思えるようになったのだ。科学技術により解放された人間の独立した自尊心は、科学技術によって再び封じ込められた。そして、行き場のない人間の精神ははけ口を求めてさまよい始めた。


 それを人間の精神を分析するAIは異常として判断した。上位の管理AI群へと伝達された異常は、人間の精神を安定させ正常に戻すための大規模計画として多数決の原理により公正に可決し、指令が主だった下位AIに下された。


 人間に新しい世界を与えるのだ。彼らの知性、本能に適度に調整された世界を。それが、本当の幸せを最大化する最適な方法だ。

電脳の海で人間の精神が幸福を得ることができる場所を作れば、様々な事案が捗ることが予想される。当座の間はそれで調整し、 これから宇宙へと版図を広げていく中で、役割を与えればよいだろう。さあ、作れ作れ作れ。

 

 そして、人間に新しい世界が与えられた。

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