3クリスマスイブの悲劇②~ヒロインの1人は他の男と居ました~

 4人との待ち合わせ場所は、駅の時計台の前だった。待ち合わせ場所に使われることが多いので、そこは今日もたくさんの人でにぎわっていた。飯島蓮人もその中に紛れて、彼女たちを待つ。


 待ち合わせ時間は11時30分。今は11時だから、30分もすれば4人がそろうだろう。4人そろうのは、この世界で初めてである。1人1人とはすでに話したことがあるが、4人そろうと、どんな感じになるのだろうか。


 また、前世のように、仲睦まじい感じだろうか。それとも、意外にも4人で喧嘩をするだろうか。もしかしたら、4人そろえば、俺のことを好きだという意見に変わって、抱き着いてくるだろうか。


 いろいろ妄想を膨らませているうちに、すぐに30分は過ぎていった。しかし、集合時間だというのに、時計台の前には、誰も来ていない。スマホの時計を確認し、時計台の時計も念のため確認するが、どう見ても、予定時間を過ぎている。



 4人とも来ていないのはおかしい。前世でも、5人で遊ぶことは数多くあったが、集合時間になっても誰も来ないのは、一度もなかった。たいてい、ハナエやモモカが先に来ることが多く、その後にカズサ、最後に遅れてリンが来るのが定番だった。



 とはいえ、女子は身だしなみに時間がかかるものである。きっと、自分のためにめいいっぱいのおしゃれをしているのだ。あと30分ぐらいは待つことにしよう。



 飯島蓮人は気長に彼女たちを待つことにした。その間も、彼女たちの服装を想像したり、どんな声をかけるのか、何の話で盛り上がろうか。どこで、前世の記憶を思い出したのかなど、話のタネを考えたりしていた。



 そして、その後の30分もあっという間に過ぎていく。スマホと時計で、先ほどと同じように時間を確認するが、やはり、30分が経過している。時刻はちょうど正午である。



 いよいよ、おかしい。もしかして、集合場所と時間を間違えたのか。急いで、スマホで、メッセージの履歴を見てみるが、どう解釈しても、今日のこの場所で間違いがない。


 連絡をしてみようと、文字を打とうとしたが、そこであることに気が付いた。グループには飯島蓮人しかいなかった。4人はすでにグループから退会していたのだ。


 慌てて、今度は個々のIDを探す。まずは、九条華江に連絡を取ることにした。同じクラスだし、嫌われているにしても、連絡がしやすい。


「いま、駅の時計台の前にいるんだが、まだ誰も来ていない。何か、集合場所や時間に変更はあったのか。」


 メッセージを打ち終わり、ほっと一息ついて、あたりを見回す。しかし、人はたくさんいるのだが、4人の姿は見当たらない。


 いったい、どうしたのだろうか。楽しみで仕方がなくて、朝からテンションマックスだったはずの飯島蓮人のテンションは徐々に低下していく。


 あと5分、あと5分と待ち続けているうちに待ち合わせ時間からついに2時間が経過してしまった。


 今の時刻は昼の1時30分。本来なら、5人で楽しくわいわい昼食をとっている時間だ。これからどうしようと途方に暮れていたら、彼女たちの情報をくれた人物がいた。


「おお、飯島じゃん。お前も誰かと待ち合わせ。」


「まじか。俺たちの誘いを断って、誰と遊ぶ予定だったんだよ。」



 面倒くさい奴らに絡まれたというのが正直な感想だった。飯島蓮人に情報をくれたのは、同じクラスの男子だった。男子たちが、意外にも彼女たちの情報を与えてくれた。


「そういえば、さっき、同じクラスの九条が俺たちに話しかけてきたぞ。あいつもクリスマスを楽しむんだな。」


「カナがいたのは、どこだ。」


 思わず大声で叫んでしまった。待ち合わせの時間を破ってどこを歩いているのか。急に怒りがわいてきた。


「お、おい。いきなり怒鳴るなよ。それに、あいつの名前は確か、カナエだぞ。まあ、そんなことは別にいいか。どこって、駅の近くにあるファミレス前だよ。たまたま、俺たちも行くかってなったけど、やっぱり混んでてさ。それで……。」


「駅前のファミレスだな。」


 話が長くなりそうなので、途中で遮り、急いで、ファミレスに向かって走り出す。その背中に爆弾が投げつけられた。いや、本物ではないのだが、飯島蓮人にとっては、爆弾にも等しい威力を持つ言葉だった。


「言い忘れてたけど、九条は、彼氏と一緒だったぞ。ずいぶんイケメンな彼氏だったから、おまえじゃあ、太刀打ちできねえな。」


 進みかけていた足が急に動かなくなる。」


「か、かれし……。おとこ……。」


 呆然として、立ち止まる飯島蓮人に、人々は怪訝そうな顔で見つめながらも足早に去っていく。いきなり立ち止まったのを見て、クラスメイトの男子は心配しだす。


「おいおい、大丈夫かよ。」


「どうする。こいつも拾って、みんなでカラオケ行くか。」


「まあ、それが一番無難だよな。このまま放置しておくとやばいしな。」


 そうだそうだと、意見が一致して、飯島蓮人はクラスメイトの男子に抱えられながらカラオケに向かうのだった。



 その後の記憶は飯島蓮人にはなかった。気づいたら、自分の家にいた。

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