第5章 イベントてんこ盛りの冬休みのはずでした

1いつものごとく補習がありました~クリスマス当日はこうして終わったのだった~

 進路相談も終わり、やっと冬休みに入った。夏休みと同様に、休みだというのに補習という名の授業が行われることになっていた。


 ただえさえ夏休みよりも短い冬休みなのに、補習などしたら、さらに休みが減ってしまう。とはいえ、特別な理由がない限り、休むことは許されていなかったので、いやいや、しぶしぶ補習に赴く飯島蓮人だった。


 しかも、今日はクリスマス当日の12月25日。こんな大切な日にどうして学校に行かなければならないのか。


 昨日のクリスマスイブで、散々な目に遭った飯島蓮人は、本気で今日の補習を休もうかと考えていた。しかし、それを両親が許してはくれなかった。



 補習に向かうために、朝、電車に乗っていると、電車の広告がクリスマス一色に染め上げられていた。


 そう、世間は12月に入ってからクリスマス一色なのである。


 飯島蓮人は補習のことをすっかり忘れていた。今年の冬休みは12月22日の土曜日から1月6日の日曜日までとなっていた。


 クリスマスイブは休みだったが、クリスマス当日は補習となっていた。意味がわからなかった。


 そもそも、補習という言葉を使うのがおかしい。確かに補足の勉強をするという意味ではいいのかもしれないが、飯島蓮人にとって、補習という言葉は頭が悪い、成績の良くない生徒が受けるものというイメージがあった。


 そんなことを議論していても仕方がないが、とりあえず、クリスマス当日に補習があることがおかしい。


 


 しかし、今回は、飯島蓮人が男子にこのおかしさを追求することはなかった。すでに他の男子がこのことを嘆いていたからだ。


 教室に入ると、すでに補習についての不満を述べている男子がいたのだ。




「まったく、クリスマス当日も補習があるなんて、ほんと、進学校らしいよな。」


「そうそう、進学校だからこそだよな。お前はいいよな。塾に行っていないから。俺なんて、補習が終わったらそのまま、冬期講習が入っているんだぜ。世の中、そう甘くないんだ。むしろ厳しいよ。」


 はあ、とため息をつく男子たちの横では、女子たちもクリスマスの過ごし方を話している。


「私は彼氏とデートかな。まあ、午前中は補習があるから、夕方から一緒にイルミネーションを見ようと思って。」


「いいねえ、私は、彼氏がいないから家で過ごそうと思っているけど、でもケーキは食べるかな。」


 それぞれが思い思いにクリスマス当日の過ごし方を語っている。その中で、異彩を放っている女子たちがいた。いわずもがな、ヒロイン二人、九条華江と六ッ美佳純であった。



「クリスマスなんて滅んでしまえ。」


「サンタなんて死ねばいい。」


 物騒な発言をして、周囲の女子や男子までもが何事かと集まってくる。



「クリスマスに何か嫌な思い出でもあるのか。」


「それとも、クリスマスに親を殺されたか。」


 心配したクラスメイトが二人に話しかけている。




「別に、ただ、昔のクリスマスを思い出しただけで。」


「そうそう、ミニスカのサンタコスしたり、なぜか、一人の男子と4人の女子でクリスマスパーティしたり、未成年なのになぜか酒があって、それで泥酔して……。」


 

 きっと、前世を思い出しているのだろう。飯島蓮人は楽しかった前世のクリスマスを振り返る。彼女たちが言っているように、サンタコスやクリスマスパーティをして楽しんだ。飯島蓮人にとっては幸せな一日だった。





 補習を受けている最中に飯島蓮人は退屈過ぎて、机に伏して、前世のクリスマスを思い出していた。


 前世では、クリスマスは一年の中でも、夏のプール並みに最高なイベントだった。夏の水着、冬のミニスカサンタは、飯島蓮人にとっては至高のものであった。


 前世では、クリスマス当日は、4人のヒロインが皆思い思いのミニスカサンタのコスプレをしていた。下着が見えそうなくらい短い赤いミニスカートに、足は膝まであるこれまた赤いブーツ、上はこれでもかというほど胸を強調した赤い上着である。


 こんな格好を真冬にしていたら、暖かい部屋の中でも寒いと思うのだが、そんなことに頭が回る飯島蓮人ではなかった。彼女たちが自分の服装の破廉恥さに顔を赤らめている姿を見るのも目の保養だった。


 4人のヒロインと一緒にクリスマスパーティをしたのも、今となっては良い思い出である。彼女たちはサンタのコスプレをしているだけでなく、飯島蓮人にクリスマスプレゼントも用意してくれたのだ。


 飯島蓮人にとっては、彼女たちこそが、サンタだと信じるに値する存在だった。そもそも、本物のサンタとやらは、ひげむくじゃらのおじいさんであり、実際に目にしても、目の保養にもなりはしないし、見ても何も楽しいことがない。したがって、本物のサンタに出会っても、感動しない自信があった。



 未成年なのに、なぜか飲み物の中にお酒が混ざっていて、それと知らずに一気飲みしたヒロインたちが泥酔して、飯島蓮人に抱き着いてきたり、したったらずな言葉づかいで、日ごろの感謝を述べてきたり、普段とは違う様子のヒロインたちを見ることができた。




「はあ。」


 飯島蓮人はため息をつきつつも、黒板の文字をノートにのそのそと書き写す。写さないとのちのち大変なことはすでに学習済みである。



 飯島蓮人もクリスマス当日の計画を立てていたが、前日のクリスマスイブに受けたショックで、その計画はなくなった。


 結局、クリスマス当日は家で、家族とケーキを食べただけだった。



 次の日も、真面目に補習を受けるために、飯島蓮人は学校に行く。


 こうして、かったるい冬休みの補習は27日まで続いたのだった。


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