9サイン会①~彼女たちも真実が気になるようです~

 今日は、待ちに待った「彼に惚れた少女たちは彼に全てを捧げる」の作者「現(うつつ)とうひ」のサイン会の日である。天気は雲一つない快晴だった。


 会場となる近くの本屋に向かう。飯島蓮人はこのサイン会で作者に聞きたいことがたくさんあった。たくさんありすぎた。そのため、その場ですべてを聞けるとも限らないので、わざわざ質問事項をメモするまでの用意周到さであった。


 サイン会の会場には一人で向かうことにした。クラスメイトの男子も当選していたが、一緒に行くことは断った。何せ、今日のサイン会で自分の前世についてわかるかもしれないのだ。その機会を前に、クラスメイトの男子などはただのごみである。これが、クラスメイトの女子だったら話は別だが、今回は男子なので、無視するに値する存在だと思っていた。



 サイン会は、本屋の開店から1時間後の午前11時からとなっていた。本屋は飯島蓮人の家の近くで、家から自転車で10分くらいで行ける場所だった。


 飯島蓮人はサイン会が待ちきれなくて、サイン会が始まる1時間以上前に本屋に到着していた。1時間以上ということで、本屋の開店する前から店の前で待機していた。


 しかし、サイン会を待ちわびている人は多かったようで、飯島蓮人の他にも開店前から店の前をうろうろとしている人が数人いた。今、人気の作家ということだけはあるだろう。


「ああ、今日で、今までの前世とこの本の謎が解けるというわけだ。もしかしたら、俺がいた前世に戻れる可能性も出てくるというわけだ。」


 独り言をつぶやきながらも、辛抱強く待っていると、その間にどんどん人は増えていき、開店10分前にはすでに行列ができるほどの人だかりになっていた。



「チッ。」


 舌打ちが聞こえたので、後ろを振り向くと、そこに見知った顔があった。九条華江と六ッ美佳純だった。どうやら、彼女たちもサイン会に応募して当選したようだ。



「まさか、あんたも来ていたとは思わなかった。最悪。」


「まあまあ、そんなに怒らないで。どうせ、あいつの目的なんてくだらないからね。私たちは私たちなりに「現(うつつ)とうひ」先生に質問をしよう。」


 飯島蓮人は思わず、二人に声をかけていた。金輪際声をかけるなと言われていたにも関わらず。



「お前たちも来ていたんだな。やっぱり、先生の本と俺たちの前世が何か関係ありそうだもんな。」


 白昼堂々、そんなことを言う男子高生に対して、周りの目は当然冷たい。彼女たちも周囲と同じような冷たい視線を飯島蓮人に投げかける。



「話しかけんなこのクズが。」


「前世とかキモいんだよ。」


「お、お前らだって、前世のことを覚えているじゃないか。どうして、俺だけこんな冷たい視線を浴びなきゃいけないんだ。」




「開店になります。順番にお入りください。」


 飯島蓮人の叫びは、店員の言葉によって、誰にも相手にされることなく、店の前で響き渡った。



仕方なく、飯島蓮人は店員の指示に従って、店内に入っていった。続いて、彼女やサイン会に当選したと思われる他の客もぞろぞろと店内に向かっていった。

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