8生徒会選挙~生徒会は誰もやりたがりません~
生徒会が交代する季節がやってきた。飯島蓮人はかねてから生徒会に入ろうと考えていた。選挙に立候補しようと意気込んでいたのだが、そこでまたこの世界の現実について知ることになる。
「俺は今度の生徒会選挙に立候補する。」
昼休みに一緒に弁当を食べている男子に宣言すると、失笑された。宣言を聞いていたクラスメイトから、あきれたような哀れみの視線を浴びることになった。
「飯島が生徒会に立候補するのって、僕の言葉のせいだよね。僕が生徒会に入れば制服とか、校則とか変えられるとか言ったからだ……。」
5月に行われた身だしなみ検査の際に、生徒会をすすめた男子が申し訳なさそうな顔で、同じグループの男子に話しかけていた。
「まあ、お前が言ったって、言わなくたって、遅かれ早かれ、調べればわかることだし、お前のせいじゃないって。」
話しかけられた男子は、なぜか、その男子の肩に手をやり、自分を責めるなと慰めている。
「俺は何か、おかしなことを言っただろうか。」
飯島蓮人には彼らの行動が理解できなかった。自分はただ、今度の生徒会選挙に立候補するといっただけである。それのどこがおかしいのだろう。
「また、いつもの二次元と現実をごちゃまぜにしているってことか。」
「ほんと、あきないわよねえ。」
これまたいつものようにクラスメイトが好き勝手に飯島蓮人に対して、率直な意見を口々に言い合う。さらには、現実的なことを指摘するクラスメイトもいた。
「ちなみに生徒会に入っても、そう簡単に制服とか校則と変えることはできないからね。いろいろ手続きを踏まないといけないし、生徒や先生の支持を集めなくちゃならない。僕たちが卒業してからやっと実現することだってあり得る。」
そして、彼が最も生徒会に入りたかった理由を木っ端みじんに打ち砕く発言をするクラスメイトもいた。
「まさかとは思うけど、生徒会に入れば、何をやっても許されるとかありえないからね。授業でなくてもいいとか、豪華な生徒会室とか、先生よりすごい権力者になれるとか、そんなこと考えてるなら、やめた方が身のためだと思うよ。うちの生徒会、もしくは公立の高校で、生徒会の権力がすごいということはないと思うから。むしろ、権力なんてないに等しい。」
さらっと、飯島蓮人にとって、聞き捨てならないことを言われた気がした。確認のために問い返す。
「生徒会に権力がないのは本当なのか。授業免除とか、豪華な生徒会室は……。」
「やっぱりか、わかっていたけど、頭のてっぺんから骨の髄まで中二病の塊なんだな。もう、更生不可の重傷ときた。」
クラスのあちこちから、大きなため息がこぼれた。
とはいえ、飯島蓮人に何とか真実は伝えておかねばならないと思ったのだろう。心優しいクラスメイトが親切に現実を教えてくれた。
「生徒会の仕事といえば、学校行事の企画・運営、募金活動の推進、ボランティア活動、あいさつ運動の促進、それと、先生たちの雑用係とかかな。とりあえず、地味な仕事が多いよね。それに面倒くさい仕事だよね。慈善活動ができる人じゃないと厳しいと思うよ。」
「だから、先輩曰く、毎年、立候補者を集めるだけでも手一杯なんだって。先生たちが無理やりやってくれってお願いしているってうわさもあるくらいだし。まあ、そんな地味で面倒な仕事なんて誰もやりたがらないよね。」
その後も現実の生徒会と二次元の生徒会の違いを永遠とも言える時間話された。ただし、あくまで飯島蓮人が感じた体感時間であって、実際には5分もかかっていないだろう。
結局、飯島蓮人はクラスメイトの生徒会についての情報を聞いて、それならと今回は立候補を見送ることにした。
生徒会選挙の立候補期間が終わり、選挙活動期間に入った。しかし、クラスメイトの男子が言っていたように立候補したのは会長、副会長、書記に会計に一人ずつしかいなかった。
当然、一人ずつしか立候補していないのだから、選挙活動もやる気のないものとなる。当選するのは確実といえるのにわざわざ一生懸命演説をする必要もないということだろう。
立候補者の顔をみたが、誰もかれもが、死んだ魚の目のようなやる気のない生徒だった。こんなやる気のなさそうな、覇気のない生徒に生徒会をやらせて学校運営が成り立つのか不思議なくらいだった。
これはクラスメイトの言い分は本当だったと言わざるを得ない。立候補しなくてよかったと心から思った。
そして、信任投票がおこなわれ、立候補した全員が新たな生徒会に選ばれたのだった。
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