5文化祭の出し物決め~メイド喫茶は二次元の定番です~

 体育祭が終わったと思ったら、今度は文化祭の準備が始まった。文化祭といったら、出し物は一つしかないと、飯島蓮人は張り切っていた。


 学活の時間に文化祭でやるクラスの出し物を決めることになった。クラスの委員長が教壇に立ち、何をやりたいかクラスで話し合うことになった。



「では、文化祭で、うちのクラスがやる出し物を決めたいと思います。やりたいものがある人は挙手してください。」


 すぐに飯島蓮人は手を挙げた。あまりのやる気にクラスメイトは驚いた。いつもやる気のない絶望した顔をしている男子が今日はどうしたのだろうか、いったい、今度は何を企んでいるのだろうか。そんな不安をよそに飯島蓮人は席を立ち、声高らかに宣言する。



「メイド喫茶がやりたいです。文化祭の出し物といったらこれしかないでしょう。これがダメならコスプレ喫茶でも構いません。」


 言い切った、と満足げに席に着いた。一方、クラスメイトはドン引きである。今時、そんな漫画やアニメ、ラノベみたいなベタな出し物を提案する人がいるとは思わなかった。仕方なく、クラス代表として、委員長が飯島蓮人に現実を教える。



「ええと、それは喫茶をやるということで、給仕するのがメイド姿の女子ということだよね。たぶん、それは無理だと思う。理由は……。」


 まずは、メイド喫茶の内容を確認する。それから続けて、その出し物をやるのは現実的に厳しいことを伝えた。


 喫茶店をやるということは、食品を売るということであり、それには面倒くさい申請がいる。それが通ったとしても、問題はメイド服をどうするかということ、女子はそれをやりたがるのかという問題などを簡潔に説明した。



 その言葉に飯島蓮人は言葉を失った。前世では文化祭での定番の出し物だった。とりあえず、かわいい女子がメイド服やコスプレをして喫茶店のウエイトレスをしている姿は眼福だった。飯島蓮人はそれが見たくて提案したようなものだ。


 それなのにどうして、そんなに簡単に自分の提案を却下するのか、理由がわからない。もっと詳しく説明してもらわなければ納得できない。



「納得できない。これは文化際の定番の出し物だろう。どうしてダメなのか、もっと具体的に説明してもらわないとあきらめられない。」


 飯島蓮人のあきらめない態度にクラスメイトが口々に思ったことを話し出す。



「飯島って、本当に頭が二次元に偏っているよな。今時、メイド喫茶なんて発言する奴が本当にいるとは思わなかった。でもまあ、お前なら言いかねないとは思っていたけどな。」


「予想を裏切らないよな。お前って。いい加減、現実と二次元の区別つけない、いつか、犯罪を起こしそうで怖いな。」


 男子だけではなく、女子からも批判の声が相次いだ。



「バカみたい。そんなのがまかり通るとしたら、私は今ここで、首をつって死ねるわね。」


「同感だ。せっかく、こんな女子にやさしい世界に来たのに前世と同じことが起きるようなら死も覚悟しなければならないな。」


 話していたのは九条華江と六ッ美佳純だった。新学期に入り、席替えが行われ、彼女たちは窓際の一番後ろとその前の前後の席になったのだった。どうやら、飯島蓮人の知らないうちに二人は仲良くなっていたようだ。前世とかなんとか言っているので、もしかしたら六ツ美佳純もヒロインの一人なのかもしれない。


 ちなみに飯島蓮人の席は真ん中の列の一番後ろだった。彼女たちとは席が近くなった。



 クラスメイトの批判と、委員長の判断により、飯島蓮人の話はなかったことにされた。そして、そのまま文化祭の出し物決めの話し合いは続くのだった。


 その後も飯島蓮人は次々に提案を繰り返した。メイド喫茶がダメなら、ロミオとジュリエットの劇はどうか、お化け屋敷はどうかなど、前世での定番の文化祭の出し物を推薦した。


 劇は脚本、衣装、練習時間などの問題があり却下されたが、お化け屋敷の案は候補の一つになった。


 

 クラスメイトは面倒くさいのが嫌なのか、そもそもこの時間さえも面倒くさいのか、飯島蓮人以外が発言することはなかった。お通夜みたいな暗い雰囲気がクラスにはあった。



「文化祭なんて面倒なこと、なければいいのに。」


「だよなあ、こんなのやるくらいなら授業して方がよほどためになるよな。」


 

 文化祭より、勉強を優先するような発言をする生徒までいた。


 


 結局、飯島蓮人の案はお化け屋敷が採用されたが、クラスメイトの一人の女子がぼそりとつぶやいた、バルーンアートの展示という案の方が、クラスメイトの支持を集めた。そのため、飯島蓮人のクラスはバルーンアートを教室に飾るという地味な出し物に決まったのだった。

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