第4章 新学期が始まりました

1転校生がやってきました~4人目のヒロイン登場~

 夏休みは終わりを告げた。9月1日ではないが、いよいよ二学期がスタートである。8月中であるにも関わらず、また嫌な学校生活が始まろうとしている。


 飯島蓮人は夏休みを振り返る。学校生活とは無縁の楽しい女子たちとのハーレム生活が送れると期待していたが、現実はそうではなかった。


 プールに夏祭りと夏のイベントごとには参加したが、圧倒的に女子との触れ合いが少なかった。これでは普段の高校生活と変わらない。勉強があるかないかの違いでしかない。さらには、前世でのヒロインであるモモカこと八代さくらからも嫌われていることが判明した。


 最悪の夏休みといっても過言ではなかった。とはいえ、サイン会に当選したという知らせがあっただけでもよかったというべきだろうか。


「はあ。」


 ため息をついた理由は他にもある。夏休みの宿題である。大量の宿題が各教科から出されていたが、もちろん飯島蓮人がやっているわけがなかった。夏休み前日に電話で忠告されていたにも関わらず、結局あのままふて寝をしてしまい、気づいたら朝だった。


 夏休みの宿題が終わっていない生徒は、それが終わるまで、毎日先生がつきっきりで放課後残って宿題をやらされるのである。それも、電話で聞いていたのだが、飯島蓮人は自分は大丈夫だと高をくくっていた。


過去に何人もの先輩がこの苦痛を味わったということを飯島蓮人は知らなかった。もっとも、先輩との付き合いがない飯島蓮人には知る由もなかった。そして、飯島蓮人は夏休みの居残りの仲間入りを果たそうとしていた。




「今日は転校生を紹介します。」


 夏休みの宿題をやっていないことをどのように言い訳して補習を逃げ切るかを真剣に考えていた飯島蓮人は、しかし担任の転校生という言葉に反応した。


 教室に入ってきたのは、女子生徒の服を着た男子だった。いや、男子が女装したようにしか見えなかった。


「六ツ美佳純です。今までイギリスにいました。両親の都合で日本に戻ってきました。よろしくお願いします。」


 自己紹介をした声を聞く限り、女性のようだが、にわかには信じられなかった。彼女は身長が男子生徒並みに会った。170cmは超えているだろう身長に、すらりとした手足、スレンダーな体つきは美少年のようだった。


 男子にしか見えない最大の理由は髪型にあった。ショートにしていて、片方の髪を耳にかけていた。襟足くらいのショートカットをしていた。顔もクール系だった。切れ長の瞳にきれいに整えられた太めの眉、すっと通った鼻梁に唇はつやつやだった。


 思わず見とれていると、転校生と目があった。六ツ美佳純は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに元の表情に戻り、挨拶を終えて席に着いた。


 ここで、前世では転校生が来た場合の席は決まっていた。飯島蓮人の隣である。そもそも、前世での飯島蓮人の席は窓際の一番後ろの席だったので、必然的にその隣の席になっていた。


 とはいえ、一学期の席替えの後から席は変わっていなかったので、そんな都合の良いことはおこらない。代わりに六ツ美佳純の席は、教壇にある真ん中の列の一番後ろの席になった。今まで奇数だったので、一番後ろの席の隣があいていた。そこに新しく机が用意されて、彼女はそこにおとなしく座った。




「あの子はカズサ……。どうして彼女までこの世界に……。」


 現在の飯島蓮人の隣の席は九条華江である。九条華江が困惑した声でつぶやく。カズサという言葉に飯島蓮人は敏感に反応する。


「カズサって、あのカズサだよな。ということは、これで4人そろったということ……。」


「4人ってどういうことかしら。私とりん以外にはこの学校にヒロインはいないはずでしょう。まさか他の高校で……。」


 九条華江の言葉を無視して、改めて六ツ美佳純を観察する。確かにカズサの面影はあるが、彼女はこんなにボーイッシュな感じだったのだろうか。男装をしてはいたが、もっと女の色気が出ていたような気がする。


 今の六ツ美佳純は完全に男だった。何か運動でもしていたのか、全身が黒く日焼けしていた。それにカズサはもっと胸が大きかったはずだ。


 容姿が違いすぎて、本当にカズサなのか、九条華江の勘違いではないかと疑いの目を向けた。



「では、朝のHRの続きを始めます。」


 九条華江はその視線に何か言いたそうにしていたが、担任の言葉に遮られて何も言ってこなかった。

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