9サイン会に当選しました~いよいよ真相に迫ることができます~

 飯島蓮人は真剣にある一冊の本を読んでいた。自分が主人公であるライトノベルである。どうも、物語のヒロインと自分はこの世界に転生しているようだが、4人中、3人がユウトを嫌っている。その理由を知るために、すでに何度も読んでいる本をまた読み返していた。


 「彼に惚れた少女たちは彼に全てを捧げる」というタイトルで刊行されているのは、現在7巻にのぼる。


 次巻、最終巻と銘打って入るが、その最終巻がいまだに出版されていない。第一巻が最初に発売されたのは飯島蓮人が小学校の時だろう。すでに中学一年生の時には7巻目までが刊行されていた。その後の最終巻はいまだに発売されていない状態である。



「この後が気になるよなあ。」


 現在刊行されている7巻の最後は、卒業式当日に主人公のユウトが登校中にトラックにひかれるところまでとなっている。その後、ユウトはどうなったのか。卒業式は行われたのか。高校卒業後はどのような生活を送ることになったのかがわからない。


 先日のモモカといい、ヒロインにはこの世界で嫌われている。それを打開しようにも小説を読む限り、ユウトに落ち度はないと断言できた。


 何度も読んでいるので、小説が手元になくても、内容が頭の中に浮かんでくるようになった。読むのにも飽きたので、スマホで適当にネットサーフィンをしていると、一件のメッセージを受信した。



「サイン会のお申込みありがとうございました。抽選の結果。お客様は当選となりました。サイン会当日は本メールを受付にてご提示していただきますようお願い申し上げます。サイン会当日、作者本人があなたのお越しを楽しみにしております。」


 飯島蓮人が読んでいた「彼に惚れた少女たちは彼に全てを捧げる」の作者のサイン会の当選メールが届いた。作者の名前は「現(うつつ)とうひ」。男性か女性か、何歳なのかも謎で、今回初めての顔出しとなっていた。

 

 なぜ、このタイミングで顔出しをするサイン会を行い決心をしたのかは不明だが、これで、飯島蓮人とこの本の関係や、物語の続きはどうなっているかを直接本人に確認することができる。


 

 さっそく、クラスのオタクの男子に当選したかどうかを確認すると、どうやら人気があるようで、オタクグループ3人のうち1人しか当選していなかった。


 別にサイン会はもともと一人で行く予定だったので、男子が当選しようがしまいがどちらでもよかったのだが、今売れっ子の作家のようで、当選したということは運がいいということらしい。


「俺は当選したけど、飯島が当選するとは思っていなかった。当日は一緒に行こうぜ。」


「遠慮しておく。作者と少し話したいことがあるから、一人で行けよ。」


 一緒に行くと、その男子に合わせてしまい、貴重な作者との時間を奪われてしまうことも考えられる。自分から当選結果を聞いておきながらも、一人で行くと伝えた。


 サイン会は11月初めに行われることになっていた。場所はたまたま飯島蓮人が住んでいる地域にある本屋だった。これなら、交通費もかからずに済むので、ありがたかった。


 

 そういえば、ヒロインは4人いるはずだが、まだ3人しか出会っていない。残りの一人は男装女子だった。普段は男装をしているが、それでも美人で胸が大きく、とても男子とは思えなかった。


 出会って初めての頃はわからなかったが、一緒に過ごしていくうちに明らかに男子とは違う柔らかさや甘いにおい、きゃしゃな体に興奮してしまった。


 結局、男子を装ってはいたが、それもばれてしまい、ユウトのハーレムメンバーの一員に加わることになるのだが、果たして、この世界のカズサは、ユウトである飯島蓮人のことをどのように思っているのだろうか。


 どこにいるともわからない4人目のヒロイン、カズサのことを思い描くのであった。

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