6夏祭りと花火~花火と告白はセットではありません~
当日、飯島蓮人は張り切って、女子ではないが、浴衣を着ていくことにした。浴衣を着て鏡の前でポーズを決めていると、妹がちょうどそばを通りかかった。
「うわあ。キモいからそのポーズやめてくれる。ていうか、お兄ちゃんも夏祭り行くんだね。誘ってくれる友達に感謝しないとだめだよ。」
そう話す妹もどうやら夏まつりに行くようだ。紺色の金魚模様のかわいらしい浴衣を着て、髪を結いあげていた。
「もし、私を見かけても絶対に声をかけないでよね。他人の振りすること。」
「相変わらず態度がかわいくないなあ。顔はかわいくて、浴衣もすごい似合っているのに、もったいないぞ。」
「ふんっ。」
飯島蓮人と妹は夏祭りに向かうのだった。
「すごい人だなあ。」
飯島蓮人は夏祭りに来る人の多さに驚いていた。しかし、同時に興奮した。今回は絶望を味わわずに済んだからだ。
女子はほとんどが浴衣を着ていた。そして、髪を結いあげている女子も多かったので、いつもは見ることができないうなじが露わになっていた。
女子の浴衣姿を拝むことができただけでも飯島蓮人は満足していた。欲を言えば、浴衣からもっと肩や足が露出していたらと思うこともあったが、そこまで高望みはしなかった。
浴衣は着物と同じで胸をあまり強調せず、どちらかというと寸胴の方がよく似合うとされている。
前世では肩がもっと露出していて、足ももっと見えていた。さらに、胸が強調されていた。それをヒロインたちは飯島蓮人の腕に押し付けてきて、最高に気分がよかった。
そんな気分をこの世界でも味わいたい。飯島蓮人と一緒に祭りを回ってくれそうな女子を探す。
キョロキョロと辺りを忙しなく観察している飯島蓮人に、祭りに誘った男子はため息をつく。
「目が血走っているぞ、飯島。そんなに探しても俺たちと一緒に回ってくれる女子なんていないんだから、いい加減あきらめたらどうだ。」
真剣に探している飯島蓮人にその言葉は届かない。もう一度ため息を吐いて、男子は屋台で何か食べるものでも買おうと歩き出した。
あたりを見回して気付いたことだが、どうやらこの世界でも夏祭りは告白イベント、もしくは恋人同士のイチャイチャの場だということだ。その場に自分だけが男子と来ていて寂しい思いをしているのだと思うと、悔しさと怒りがわいてきた。
現実はそうではなかった。もちろん、男女のカップルもいたにはいたが、友達同士で一緒に回っている人もいて、完全に飯島蓮人の偏見であった。
どうにかして、周りと同じように女子と回りたかった飯島蓮人は女子に手当たり次第声をかけることにした。
結果は惨敗だった。誰もかれもが不審そうな顔をして断ってきた。
「友達と来ているので。」
「彼氏と来ているので。」
「見ず知らずの人と回る意味がわからない。」
飯島蓮人は自分のどこが悪いのかわからなかった。基本的に前世での行動がすべてだと思っているので、この世界でも前世の常識が通用すると思っていた。
とぼとぼと仕方なくクラスの男子と歩いていると、花火の音が遠くで聞こえた。すでに祭りも終わりに差し掛かっている。
「ドンッ。」
飯島蓮人は誰かとぶつかった。すでにやけになっていたので、思わず声を荒げて罵った。
「何してんだよ。俺が彼女いなくて寂しい奴だと思ってるのかよ。どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって。」
「すいません。」
か弱い女性の声が聞こえた。慌ててぶつかった相手を見ると、浴衣を着ている若い女性だった。しかも、どこかで聞いたことがある声だった。
「もしかして……。」
「電車であった人ですよね。私は八代さくらといいます。お名前を教えていただいてもよろしいですか。」
「飯島蓮人です。」
ぶつかったのは、さくらと呼ばれていた、電車で飯島蓮人の顔を見て倒れた女子高生だった。
「飯島蓮人という名前なんですね。ここで会えたのも何かの縁でしょう。もしもあなたが……。」
「ドーン。ドーン。」
彼女の話の途中でタイミング悪く花火の音が重なった。空を見ると、大きな花火が上がっていた。今日は雲一つなく、風もあまり強くないので、絶好の花火日和だった。
「何か言いましたか。」
「いいえ。あなたとは詳しく話がしたかったのですよ。ぜひ、私と一緒に海にでも出かけませんか。」
「本当ですか。」
相手はもしかしたら、前世のヒロインであるモモカである。どうやら彼女は自分のことを嫌っていないようだ。海に誘ってくれるということはそういうことだろう。
「もし、本当にユウト本人だったら、殺してやる。」
ぼそっと物騒なことをつぶやいているのには気づかない飯島蓮人だった。
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