2体育祭の準備~先輩に会うことができました~

 補習が午前中に終わり、午後から体育祭の準備が待っていた。屋上や裏庭で弁当を食べることができない状況にも慣れてきた飯島蓮人は、現在、数人の男子と一緒に弁当を食べていた。


「この後は、先輩たちと顔合わせかあ。俺たちはマスコット係だから、そんなに怖そうな先輩はいないと思うけど、応援団の先輩とかはやばいかもな。」


「絶対やばいだろ。練習も厳しそうだしな。それより、俺たちの団は何のマスコットを作るのかねえ。楽な奴がいいよな。」


「あんまり複雑だと面倒だしな。でも、わざわざ夏休みに準備するのもどうかと思うけどな。本当、面倒なことが多いよなあ。」


 飯島蓮人と一緒に弁当を食べているのは、クラスの中間にいるグループである。リア充とまではいかないが、そこそこの高校生活を送っているグループである。その割には、体育祭にあまり乗り気ではないようだ。


 飯島蓮人は彼らの会話に加わることなく、一人、黙々と弁当を食べていた。そんな会話などどうでもよかったのだ。飯島蓮人にとっては、先輩が美人で自分に好意を持って近づいてきてくれればそれだけでよかった。



 弁当を食べ終わり、それぞれの自分の担当する係りや応援団の集合場所に散っていく。飯島蓮人もその流れに乗って、教室から移動しようとした。すると、九条華江が声をかけてきた。


「どうせ、また前世みたいに先輩とイチャイチャできると思っているのだろうけど、そううまくいかないわよ。」


 飯島蓮人の返事は聞かずにそのまま彼女はクラスメイトの女子と教室から出ていった。文句を言うだけ言って、返事も聞かずに去っていく。九条華江は飯島蓮人を嫌っていたはずだ。それなのにわざわざ声をかけてくるという状況を、自分に都合がいいように解釈する飯島蓮人だった。


「あいつもツンデレだな。俺に構ってほしくて、わざとツンな態度をとっているんだな。実はまだ俺のことが好きだったりして。かわいい奴め。」


 彼のつぶやきは誰にも聞こえることはなかった。



 集合場所の教室には各学年のマスコット係の生徒が集まり始めていた。ざっと見渡すが、これといった美人は教室内にいなかった。その時点で、飯島蓮人のテンションは急降下していった。


「遅れてすいません。」


 ほとんどの生徒が集まったともいえる中、遅れて一人の生徒が教室に駆け込んできた。


「ヒトミ先輩だ。」


 駆け込んできたのは女子生徒だった。そして、飯島蓮人にとっては見覚えがある生徒だった。飯島蓮人は、前世の4人のヒロイン以外にもたくさんの女子生徒を侍らせていた。その中の一人にとてもよく似ていた。もちろん、髪の色や目の色は違っていたが、間違えるはずはなかった。

 

 彼女は、黒ぶちのメガネをかけ、黒髪を頭の上でお団子にしていた。顔にはそばかすがあるものの、可愛らしい顔をしていた。そして、身長は低く、高校生には見えなかった。


 思わず声を出してしまった彼は、教室中から注目を浴びてしまった。ヒトミ先輩だと思われる女子生徒は、飯島蓮人をじっと見つめると、首をかしげた。


「君は誰かと勘違いをしているようだ。確かに私はヒトミという名前だが、君とは初めて会うと思うのだが。」


 どうやら、ヒロイン4人のように前世の記憶は持っていなかったようだ。とはいえ、名前は同じなので、おそらく前世での先輩に違いないと確信した。


 まさか、ここでも前世の記憶の中の人物に会えるとは思っていなかった。美人な女子の先輩がいて、自分に声をかけてくれるだけで満足しようと思っていた彼にとっては、とてもうれしい出来事だった。


 

 うれしすぎて浮かれてしまい、その後のマスコットについての制作過程や準備する日程などの話はまるで聞いていなかった飯島蓮人だった。

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