11夏休みに入る前に~進学ってそんなに大事なことか~

 待ちに待った夏休みを一週間後に控えていた。飯島蓮人はすでに浮足立っていた。夏休みが来れば、こんなつまらない絶望だらけの生活から一カ月くらいおさらばできる。これを楽しみに思わないわけがない。


 夏休みの直前に行われた期末テストは、何とかクラスの平均点を採ることができた。ここで赤点を採ると、夏休みの補習が行われると聞いたため、飯島蓮人は死に物狂いで勉強した。そして、何とか赤点を回避することができた。


 夏休みに入る前に、三者面談が行われることになっていた。進路相談という名の三者面談が待っていた。担任と本人、保護者で今後の進路を話し合うようだ。


 高校卒業後の進路を高校1年生の時から話し合う意味がわからなかった飯島蓮人は、さぼろうかと思っていた。

 そもそも進路など、高校2年の終わりくらいからでも全然余裕だと思っていた。前世でも将来について全く考えていなかった。


 とはいえ、クラスの様子をうかがうと、殆どの生徒が自分の卒業後の進路についてすでに考えているようだった。

 そもそも、彼の通っている高校はいわゆる進学校と呼ばれる高校で、生徒のほとんどが大学や専門学校、短大に進学を希望している。就職するものはほとんどいないといっていい。

 

 進学すると決まっているので、進路は決まっているといえるだろう。あとはどこの学校を目指すかによって、勉強の仕方が変わってくるというわけだ。


 

 ほとんどが就職せずに進学を決めているといった状況に、飯島蓮人はカルチャーショックを受けた。

 確かに前世でも高校卒業後の進路について、考えている人間もちらほらいたが、たいていの人間は将来のことなど何も考えておらず、飯島蓮人と同じで、今が楽しければいいという考えの持ち主だった。


 結局、飯島蓮人は面談をさぼることはなかった。クラスの雰囲気にのまれて、さぼるという意志がそがれてしまったともいえるだろう。



 三者面談では、まず担任が普段の飯島蓮人の生活の様子や授業中の様子、成績について話された。そのほかに、今後の進路について、進学か就職かどちらにするのか、親の希望と本人の希望は一致しているのか、家では進路について話し合っているのか。様々なことが話し合われていた。


 そして、2年生に進級するにあたり、文理選択をしなければならないようで、どちらにするかも聞かれた。


 文理選択という言葉を飯島蓮人は初めて聞いた。一体何を決めなければならないのだろうか。担任と親の話を詳しく聞いた彼は、すぐに文系に進むことに決めた。


 

 理由は至極簡単で、文系の方が女子の人数が多いと聞いたからだ。飯島蓮人にとってそれだけで文系に進む十分な決め手となった。さらに進路についての答えもすぐに決まった。


 進学理由もいたって簡単である。大学に入って女子を侍らせたいという願望からだった。高校ではダメでも、大学ではうまくいくかもしれない。そんな思いが飯島蓮人を進学したいという思いに結びついたと言える。



「俺は、文系に進みます。そして、大学に進学します。」


 飯島蓮人のはっきりとした答えに担任も親も驚いていた。しかし、成績の悪い彼を見る限り、文系の方がよさそうだと思ったのだろう。二人は特に文句を言うことはなかった。しかし、まさか自分から大学に進学したいと言い出すとは思っていなかったのだろう。

 

 しかし、高校自体が進学を進めていたので、今回は特にどこの大学を進学するのかなどについては追及されなかった。


 

 飯島蓮人は将来について何も考えていなかったが、前世では高校3年まで過ごしてきた。卒業式前日に事故に遭ってしまったが、もし事故がなかったらどうしていただろうか。

 

 考えてみたが、その辺を飯島蓮人はよく覚えていなかった。しかし、おそらく大学進学が決まっていたと思う。特に進路で悩んでいた記憶がなかったので、きっと決まっていたのだろう。彼の頭で受かるところがあったということだ。

 

 

 担任と親が真剣に自分の進路について話し合っている光景を見ているうちに眠くなってきた飯島蓮人は、自分の進路相談なのに机に伏せて眠ってしまった。

 どうせ、進路など適当に決めても問題ないと、彼の前世での経験が言っていた。それに自分はすでに進路を宣言している。他に話すこともないと思っての行動だった。


 

 それが大間違いだと気付くのは、もっと後のことだった。

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