第7話かみさまのランダム化対照実験

 スミスは敬虔に神の教えを守るしがない、しかし善良な農夫であった。


 ある日、スミスは父を不慮の事故によって亡くした。もともと裕福でなかったスミスの家計は一層困窮したが、彼はこれも神の試練だとその祈りを欠かさなかった。


 ある日、スミスは母を病気で亡くした。何年もの闘病の末だった。借金はかさんで行ったが、それでもスミスは神に祈った。


 ある日、スミスは思い女に残り少ない財産を奪われた。それでも彼は善行を続け、神への祈りを欠かすことは1日もなかった。


 スミスは言う。これも神の試練だと。この試練を乗り越えてこそ救いがあるのだと。



 ある日、スミスは死んでしまった。何十年にわたる病と、生活苦の果てだった。一人孤独に亡くなった。


 彼の死の間際、薄れゆく意識の中、まばゆい光が彼の眼に差し込んだ。神々しい光に包まれた、この世のものとも思えぬ美しい、そこにいたその御人はまさに神のようだった。


 スミスは言った。私にどうしてこれほどの試練を与えたもうたのですかと。


 神と思しきその御人は一言、


「そんなことより私の最新の論文を見てくれないか、スミス」


タイトルは

「試練は神へ祈りを増加させるか---ランダム化対照実験による検証」

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週末社会科小話集 牛田濤馬 @Toma-Andrea-Ushida

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