第5話賢いミダス
遥か昔、プリギアの都市ペシヌスにミダスと言う王がいた。ミダスは黄金を好み、国の黄金のほとんどを手中にしていた。ある日ミダスが黄金でできた靴で、黄金の衣を纏い、黄金でできた道を歩いていると酔っ払った人馬、セイレーノスが倒れていた。ミダスは彼の黄金でできた宮殿にセイレーノスを連れ帰り、黄金の盃に注がれた黄金のワインで気前よくもてなした。
セイレーノスは偉大な酒神デュオニッソスの養父であり、ミダスの歓待を知ったデュオニッソスは是非礼をしたいとミダスの宮殿に現れた。
デュオニッソスは彼の黄金の宮殿を眺め、またミダスが黄金でできた衣を纏い、黄金できた靴を履き、黄金でできた娘がいるのをみてこう言った。
「ミダス王よ、先日は養父であるセイレーノスをもてなしてくれたことを感謝する。礼として、何か授けようと思ったがそなたはたいそう黄金が好きなのであるな」
それに対してミダス王は「はい。私は黄金を愛しております」と答えた。デュオニッソスは続けて、
「ミダス王よ、それほどまでに黄金が好きなのであれば、そなたが受け取るもの全てが黄金になる力を授けよう」と申し出た。
これにはミダス王も驚いて、「このようなお力、本当にお受けしてよろしいのでしょうか」と受け取りそうになったのだが、その衣服の黄金の重みのためによろめき、その間立ち止まって考え、やがてデュオニッソスにこう答えた。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、そのようなお力、お受けすることができません」デュオニッソスはやや怪訝な顔をし、「なぜだ」と問うた。
ミダスが言うには「私は私の所有する黄金と引き換えに農夫たちから食料や労働を受け取っています。私はそれらに黄金以上の価値を覚えているゆえに彼らとそれを交換するのです。彼らから受け取るものが黄金になったからと言って私は何が嬉しいのでしょうか」
この言葉にデュオニッソスは彼の好意が踏みにじられたと激怒し、「私の好意を聞く気がないその耳は人の耳である必要がない、ロバの耳で十分だ」とミダスの耳をロバの耳に変えてしまった。
ミダスはその歪んだ醜い姿を黄金の鏡で見て嘆き悲しみ、デュオニッソスにこう懇願した。「このような半端な姿であるよりはむしろ全身をロバのものに変えていただきたい」デュオニッソスは彼を嘲笑し、その願いを聞き入れた。
後年、彼は黄金を纏い、人語を解すロバ、「賢いミダス」として有名になり、黄金の厩舎でその余生を過ごすこととなった。彼が本当に賢かったのかどうかは我々の知るところにない。
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