第3話破れない契約
ここはとある会社の人事課。部長の不破は喜び勇んで部下の三田を呼び出す。
「お呼びでしょうか、不破部長」三田がそういうと、不破は机から桐の箱に入った黒い紙と白いペンを取り出し、机上に置いた。
「素晴らしいものを購入した。この紙とペンなのだが、」そういいながら桐の箱からなにやら羊皮紙のようなものに書かれた説明書のようなものを取り出した。その説明書には金文字でこう書いてあった。
"A person who breaks a contract written in this paper dies in forty seconds."
三田はその紙を一瞥して、「部長、中二病はやめてください。それに下手な英語で、漫画か何かの影響ですか?しかもつまらないことを高級そうな紙に。これ作るのにいくらかかったんです?」と一言二言。それに対して不破は
「三田くん。冗談じゃないんだ。書いてある英語が読めないのか?この紙に書いた契約を破ると40秒以内に死ぬと書いてあるんだぞ」とますます真剣な顔をしていう。
「それくらい読めますよ。読んだ上で中二病だと判定してるんです。用件はそれだけですか」と散々バカにした態度をとったのだが部長は諦めずに
「まあ待ちたまえ。この説明書が本当だとするとだねえ」と続けたので根負けして、そういえばこの人は脳内ファンタジーなんだったと不破の黒歴史を思い出しながら付き合うことにした。
「その説明書が本当だと、百歩譲って仮にそうしましょう。でなんですか?」
「この説明書が本当だとすると実に素敵だと思わないか?どんな契約もこれに書かせれば破ったやつは全て死ぬんだ。うまく契約を作りさえすれば裁判所でも弁護士も必要ないじゃないか。これは画期的だ」と熱っぽく不破は言う。
「それほとんど脅迫じゃないですか。その契約書を迫った時点で訴えられますよ」
「まあまあ聞いてくれ。この紙を法務部に持っていこうと思うんだがどうプレゼンしたらうまくいくだろうか。俺、うまくいったら出世できるかな」と危なそうなことをいう。
「それ法務部に持っていってどうするつもりですか?まさか、それを書いたら弁護士費用を安くできるとかいうつもりですか?仮に本当だったとしても法務部は反対しますよ。彼らの仕事を減らすやつですから、それ。」とツッコミを入れつつ、ああ何故この人が部長なのだろうか、人事部は一体何を考えているんだろう、そうかこの人が人事とか左右してるのか、この会社も終わりだなと嘆いている。その横で、「じゃあ財務部かなあ」と真剣に考え込んでいるので三田は哀れに思って、
「本当に効果を信じ込ませたいなら実験すればいいんですよ。契約を書いて、破ればいいんです」と冗談半分に真面目な顔で答えた。
「そうだと思って、実際に契約を書いてみたんだ」と部長は黒い紙をそっと三田に見せた。黒い紙には金文字で
「不破守と三田菊子は結婚する」
とだけ書かれていた。三田の顔に嫌悪感がにじみ出るか否やの刹那に不破は「三田くん。結婚してくれ」と言った。その瞬間は空調の音がクリアに聞こえた。
やがて三田は一言返事を言って部屋を後にした。説明書の二行目にはこう書かれていた。
"If a contract written in this paper remains unsigned for one hour, the person who writes the contract dies in the next ten seconds."
翌日、不破は当然のように元気に出社していた。
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