⑥星川美鈴→田村信次パート「まだ、わからないから……それが理由かな」

◇キャスト◆

星川ほしかわ美鈴みすず

牛島うしじまゆい

植本うえもときらら

田村たむら信次しんじ

大和田おおわだ慶助けいすけ

濱野はまの美依茅びぃち

小瀬谷こせやあおい

内海うつみ空飛くうと

―――――――――――――――――――

 今から約一ヶ月前。笹浦二高女子ソフトボールが誕生したばかりの頃である。


 町外れに設立されたゲームセンター“ニャプコン”では、メダルゲームはもちろんUFOキャッチャーやデータカードゲーム、通信対戦ができるボードゲームや音楽体感型ゲームなどが取り入れられている。店内に入った途端には大盛況を意味するかの如く、機材とゲーマーたちが声を張り上げる日常だ。


 ゲーム環境が広がる一方で、端にはバッティングセンターも設けられている設備。

 一回十五球を百円で行える点は良いものの、やはりゲームセンター特有の騒がしさが漏れてくるため人気は少ない。


 本日も無人エリアと化した空間は、野球投手の立体映像裏からの機械音だけが響き渡り、一種の工場現場のようになっていた。


「貸切りじゃねぇか!」

「一人もいないっすね!!」

「やりたい放題にゃあ!!」


 当時貝塚かいづか唯を先頭に、美鈴もきららと同時にガラス扉から入室する。

 無断欠席の末に制服で来店した三人だが、解放感が故にボルテージが高まり、ストレス解消目的のバッティングが早足で始まる。


「さ、早速やってやるっす! 唯先輩にイイトコを……」

「じゃあきららも相席にゃあ!!」


 まずは美鈴ときららが各々の打席へ入る。緊張の面立ちを見せる左打者と、自信に満ち溢れた右打者が向かい合うように構える。

 すると、プロ野球選手の映像に合わせて白球が投じられた。


「にゃあー!!」

――ブルン……


「フッ!!」

――カキーン!!


 大きな空振りを繰り返すきららとは反面、美鈴は何度もバットに当て続ける。終盤では金属バットの芯で見事に捉え、勢いある打球を空中へ運んだ。


「やるなぁ美鈴!」

「いえいえマグレっすよ、テヘヘ」


『ヨッシャー!! 唯先輩に褒められた~!! 何コレ最高ッス!!』


「オレもきららと同じでなかなか当たんねぇしな~……」

「うちができるなら唯先輩だって当てられるっすよ!! 良かったらどうぞっす!!」


 躊躇ためらう先輩ではあったが、美鈴は唯へバットを渡して退く。

 右打席でバットを肩に乗せ、まだまだ棒立ちに近い構え方で映像投手と相対した。


――コーン……

「いってぇ~」


 無事に当てられたが、インコース直球をバット根本に直撃させてしまった。両手に大きな痺れが襲っているようで、何度も上下へ振り扇ぐ。


「唯先輩!! お怪我は!? なんなら救急車を!!」

「平気平気このぐらい。どうってことねぇから」


 苦笑いで最終球を過ごすことになったが、一球毎に対するスイングは力強かった。さすが一つ上の先輩だと、彼女の勇ましさで更に好意が吹き出そうだ。


「うぅ~、なんかモヤモヤすんな~」

「唯先輩スゴいっすよ!! ウチは唯先輩ほど上手くスイングできませんっしたもん!!」


「そうにゃあ。きららなんか一球も当てることできなかったにゃあ~」

「逆に凄いな、ソレ……」


 互いに笑い合う三人の声は、この機械空間を染めていた。


 人としての温かさが広がると、唯が再び挑戦するようだ。制服ポケットから百円玉を取り出し、より意気込みながら投入口へ入れようとしたときだった。



――「ムダムダー! 下手なんだからやめときなってー」



 突如、三人には聞き覚えのない女声が届いた。

 相手をさげすんだ奏者へ振り向くと、入り口扉に他校制服を纏う二人のジャージ女子と目が合う。異次元とも思わせる姿に驚きながら。


『な、なんだあの人たち……てか、ホントに高校生なの……?』


 身長高き一人は、背中まで伸ばした長髪をワインレッドに染め、愉快気に立ち振る舞う――恐らく彼女が声主に違いない。


 またもう一人の小さき者は、男子のような短髪をディープブルーに溶かし、小顔の口を白マスクで隠していた。


「ねぇあおい、あの制服ってドコ?」

「笹二じゃね? 美依茅の頭じゃ絶対いけない高校だよ」


「なんだよー、アタシそんなにアホじゃないもーんだ! この前の因数分解の単元テスト、八十点とったんだからなー!」

「単元テストで、かい……しかも因数分解って、中三で習ったやつじゃん。あおいたちもう高二なんだけど……」



「おい! 今下手っつったヤツ、テメェか?」

「ゆ、唯先輩……」

「待って唯!」


 笑顔の欠片も残さず睨み返した唯。ネットを潜り美依茅とあおいの元へ向かおうとしたが、きららに手を掴まれ立ち止まる。


「テメェだよな? 言ったのは」

「うんっ! そうだけど、なんでそんなにキレてんの? あのスイング見る限り未経験っぽいし、事実じゃん」


「チッ……テメェ゛!」

「唯!」

「唯先輩!!」


 込み上げる怒涛のまま手を振りほどき、ついに相手の目前まで訪れてしまう。一触即発の展開以外何物でもない。


「……くの待ってたんなら悪かったよ。でもよ、ドコの誰だか知らねぇヤツに、バカにされる筋合いはねぇ」


「アタシらだってー、ドコの誰だか知らないヤツに、怒鳴られる筋合いないんですけど」

「つーか目障り。うっさいし邪魔」


「あ゛あ゛?」


 あおいの反論も加わり、唯の片頬がピクピクと上下する。美鈴たちもそばまで立ち寄るが、一度ため息を見せた美依茅が更なる追い討ちを仕掛ける。


「身体が開きすぎてフォームは成ってないし、ボールを捉える瞬間にだって目ぇ離してるんだもん。正直、話にならないよー」


「コッチはコッチで楽しくやってんだ! 口出しすんじゃねぇよ!」

「まぁまぁー気持ちはわかるよ。でもさー、口出しでもしないとー……」


 歯軋りを続ける唯は今にも飛び出しそうで、美鈴もつい静止できる体勢に移ろう。が、酷評の苦笑いを浮かべていた美李茅の表情が、突如不敵な笑みへと変貌し荒立つ。



「――見苦しくて、見てるコッチが辛いんだよねー……下手過ぎて」



「て、テメェッ!!」

「唯ッ!!やめてッ!!」

「唯先輩!! ストップストップッス!!」


 二人がかりで両腕を捉えたものの、獰猛なまでに解かれてしまう。

 眉を立て尖らす唯は、未だに軽蔑の目を向ける美依茅ヘ詰め寄り、即座に胸ぐらを掴り絞めたときだった。



――「コラッ!! やめなさいッ!!」


『――っ! 警察だ……』



 入り口扉から声を投げた者は、このゲームセンターの男性店員と巡回中の男性警察官だった。


「お~っと! あおい逃げるよー!」

「はぁ~、マジだりぃわ……」


「お、おいッ!! 待ちやがれ!!」


 今度は美依茅が解放を強制し、男性衆とは反対の通路へ走り去ってしまう。


「あのヤ゛ロウ……」

「唯先輩大丈夫っすよ! うちらには警察が付いてるっすから」


 こちらは正真正銘の被害者だ。防犯カメラもあるため、身分もすぐに判明される。仕返しとは異なるが、相手二人にはきっと注意や罰が降るだろう。


 美鈴はそう信じて安心していた。

 しかし、男性二人の厳しい顔つきが依然変わらず、過った嫌な予感が現実化されてしまう。



「三人で殴りかかろうとしてたね……話を聴かせてもらうよ」



「んだよ!? 放せ!! 美鈴ときららは関係ねぇだろうが!!」

「ちょ、ちょっと待ってほしいッス!! うちらは何もしてないッス!! ケンカ売ってきたのはアッチっすよ!!」


 抗えば抗うほど耳を傾けてもらえなかった。制服で来ていたため学校もすぐ知られ、これから職員へ連絡を入れるそうだ。



『なんでうちらが……? 被害者なのに……』



 戸惑いを怒号でしか表せなかった唯。

 人格が変わってしまったように黙り込むきらら。

 そして無罪を必死に主張する美鈴も続けたが、その努力は水の泡と化する。


 こうして店内に取り押さえられてしまい、笹浦第二高等学校へと通報された。



 ◇美鈴、グローブを買う◆



「そうだったんだ……何も知らなくて、ホントに申し訳ない」


 当時の内容を詳細まで知らなかった信次は改めて真実を知り、車内後部座席の唯たちに頭を下げ謝罪した。


「オメェは悪くねぇだろ……むしろその後はいろいろ助けられて……感謝してんだからよ」

「牛島……」


「チッ……ムカつくな、その警察サツ

「慶助まで……」


 ふと声を鳴らした運転手の慶助だが、以降は沈黙し安全運転を心掛ける。警察に対する特別な感情があるからだろう。


「釘裂のヤツらは、あんなイカれた連中ばっかりだ。そんなヤツらも、同じくソフトボールをやってんだと」

「あの日と、今日来てたたちかい?」


「あぁ。でも、いくら練習試合をしたいっつわれても、オレは仲間たちのことを思って反対する……怪我なんて起こされちゃ、たまったもんじゃねぇからな」


 唯の静かな言葉に、信次は思わず返せなかった。無知であるが故に上手い台詞が見当たらず、苦悩を浮かべうつむく。


「な、なぁ……あの城、だよな……?」


 片言だった慶助に起こされるように前を向くと、壮大な植本家が近づいてきた。


 流石は財閥家と言わんばかりに、広い庭と玄関通路の噴水が誇張している。家と呼ぶより屋敷に相応しく、赤煉瓦れんがの門前で停車した。


「三人とも、ホントにココで大丈夫なの?」

「あぁ。こっからは、きららの執事が自宅まで送ってくれるそうだからよ」


 きららだけでなく唯と美鈴も降車し、後部座席が無人になる。


 各自宅まで連れていきたかったが、何を言われるかわからない昨今だ。異性として気を遣ってくれた判断なのだろうと察し、感謝を胸に納得を示す。


「だったらお嬢ちゃん方、ちょっと待ってくれ」


 すると何故だか、慶助まで運転席から離れた。ワンボックスカーの大きなバックドアを開け、収納された数々のグローブケースを指差す。



「――びと言っちゃあなんだが、好きなの一つずつ持ってきな」



 それは一人の従業員からのサプライズだった。無論三人は驚き固まり、わかりやすくも成功していた。


「そういえばグローブ買うつもりが、忘れてたっすけど……」

「い、いいのかよ? グローブってメッチャ高いのに……」


「だってお前ら、今日グローブ買うために来てたんだろ?」

「そ、そうだけど……」


「ならいいじゃねぇか……えっと確かコレが、二つ結びのお嬢ちゃんが買おうとしてたやつだな。ホレ」

「えっ!? マジで貰っていいっすか!?」


 まずは美鈴へ、青と黒で彩られたファーストミットが授与される。本人の求めていたグローブまで用意していたとは、正に神対応と言えるだろう。


「あ、ありがとうございますっす……ホントに欲しかったんで、嬉しいっす」


「へへ……んで、茶髪のお嬢ちゃんが、この黄色いやつだっけな」

「あ、その……ありがと、ございます……」


 どこか落ち着かないきららではあったが、無事に外野用グローブが渡された。


 そして残る最後の唯。

 しかし、当初二人のように購入目的のグローブを見つけていなかった。

 慶助もどれかを選らばせようとしたが、実は本人の中で既に決まっていたらしい。


「コイツ……アイツらに潰された、コイツがいい……」


「え? 良いのかよそれで? もはや売り物になんねーって内海に言われたんだぞ?」


 唯が取り出した一品は、妙に足跡が着いたホワイトライン入りの黒グローブだったが。


「オレは、コイツがいいんだ……どんな傷があろうと、コイツがいいって思ったんだ」


「……そっか。そりゃあグローブも喜ぶこった」


 唯にもグローブが手渡され、今宵三つのグローブが笹二ソフト部に贈られた。自信を表すようにバックドアを雄々しくも優しく閉め、再び運転席へ戻る。


「田村、今日も世話になった……」

「ボクは何もしてないよ。明日の合宿、来れそう?」


「あぁ。遅刻しねぇようにする……それから、慶助……」

「また呼び捨てかよ……」


 助手席窓を開け、三人のソフト部員が一人の店員を見つめる。代表して唯が一歩出て、胸に秘めた覚悟を顕にしながらグローブを包む。



「ありがとな……この恩は、ぜってぇ忘れねぇから」


「……フッ。馴れ馴れしい女だなーオメェは」



 その言葉を最後に、信次たちが乗る車が走り出す。

 また明日学校で会うこと、またこれからも恩恵を忘れぬと約束を交わして、やがて三人が見えなく遠退いていった。


「……慶助、ボクからもありがと。慶助がいなかったら、事態はもっと悪かったかもしれない」


「今さら何だよ? 昔っからそうしてきた仲だろ?」

「……うん、そうだね」


 信次宅を目的地に変えた現在。


 思い返せば、こうして二人きりになる時間は久方ぶりだった。この間学校で話したが、再会劇のあまり一瞬に思える。


『慶助は、ボクにとっても恩人……それは昔も、今も』


 幾多もの星たちが輝きを放つ中、空いた国道を駆け抜けていく。赤信号ではポンピングブレーキで停まり、発車の際はアクセルをゆっくり踏んで加速。長年優良ドライバーであったことが受け取れる。


「牛島、唯か……」


 指先をハンドルにトントンと叩き続ける慶助が、疑問の眉間を集めていた。再び赤信号で停車させられてしまうと、ふと銀のネックレスを眺める。


「……まさか、気になってるの?」


「別にそういう意味じゃねぇよ! ただ……」

「ただ……?」


「似てるなって、思っただけだ……あの人と」

「あの人……?」


 まばたきを繰り返して傾げると、慶助はネックレスを片手でぎゅっと握り締める。


「……お前だって、あの人んことは覚えてんだろ? ほら、共にボコボコにされたあの日だよ」


「……さぁ~誰のことやら。そんなの日常茶飯事過ぎて、思い当たらないよ」

「チッ、つれねぇなぁ……」


 呆れたため息を漏らした慶助はネックレスを離し、ハンドルを両手で握り直す。


「それにしても、お前もお前だよな」

「ん? なにが?」


「どうして生徒のために……いや、他人のためにここまでガンバるのか、正直オレにはわかんねぇよ」


 ルームミラーに映りこんだ荷台の段ボールたちを覗きながら告げられると、微笑みを灯した信次は夜空へ視線を移す。


「そういう慶助だって、仲裁してくれたんでしょ?」


「今回みてぇに襲われてるなら話は別だ。それに店内だったし……けど、お前は違うだろ。学校の外まで出向いて助けるだなんて……助けなんだよ」


「そうかなぁ~……」


 好きでやってきたつもりだ。

 だからこそ胸に大義など無く、呼吸をするかのように行ってきた。


 しかし改めて考えると、なぜ人助けを今日まで続けてこられたかわからない。信次は点々と散り光る星たちを見つめながら脳を回した。



「まだ、わからないから……それが理由かな」



「はぁ?」

「慶助、赤」

「お、おぅ……」


 赤信号で停まっていたとはいえ、呆れたように面を向けられてしまった。


 辺りの街灯もまばらになってきた暗く静かな道中で、信次は尚持論を説く。


「ボクも考えたことがある……なぜ人は、人を助けることを善とするのか。なぜ人は、人と支え合うべきなのか……正直今の時代、一人でも生きていける時代さ……いや、きっと一人の方が楽なのかもしれない」


「……そうだな」


「人を助ける意味なんて、胸を張って言えたもんじゃない……でもだからこそ、人助けをしなきゃって思うんだ。自分の手の届く範囲だけでも、誰かの力になれたらなって」


「ますます意味わかんねぇよ……」


 ため息を溢した慶助からはついに目を逸らされ、赤信号ばかり集中された。車内にまで及ぶ停止光を浴びながらも、信次は一方通行的に見つめ紡ぐ。



「――その答えを見つけるために、ボクは人として人を助ける……それが今言えることだよ。偽善者と言われても、バカだアホだと言われても構わない……かつての慶助のように」



 叶恵にも言われた過去を思い出し、覚悟の意思表示を曝した。

 迷いの観念など毛頭無かったが、青信号へ換わった直後に親友がいよいよ本音を吐露する。



「――警察辞める直前、やっぱお前と相談するべきだったな……」



「慶助、やっぱり辞職してたんだ……」

「フ……まぁもう過ぎたことだ。今は今を精いっぱい生きなきゃな……心配にゃ~及ばねぇよ」


 彼が警察官として働くことは、高校卒業時には確かに聞いていた。

 己は教諭を目指すため進学すると、夢を語り合った仲なのだから。


 しかし、“虹色スポーツ”の店員として再会した日から、嫌な察しはついていた。

 内容も内容のため本人の口から聞こうと準備していたが、改めて窺うとやはり心苦しい。


「……ほら、お前ん家見えてきたぞ」


 細道を入ったところで、信次が住まうアパートが目に訪れた。一人暮らしには充分な広さだが、薄汚れた外見は年季が入っている。


「今日はホントにありがと」

「口癖か。何べん言う気だよ」


 駐車場で降車し、ドアミラー越しで別れのときだった。しばらく再会できない訳ではなく、ただ一日の終了を意味する見送りである。


 しかし信次は話題の悪さを気にかけ、手を振る動作を拒んでしまう。後味が悪く、慶助をこのまま一人帰らせることに懸念覚えた。



『どうせ終えるなら、笑顔で終えるべきだ……』



 刹那、眉が自信と共に立ち上がる。


「あのさ慶助! せっかくだからさ、久々にコレやらない?」


 微笑みを宿したまま、左拳を慶助へ向け出す。



よくナイスやったファイト、慶助」



 それは、少年時代に二人だけがやっていた儀式の合図。


 事ある毎の最後に行い、気と心を締め括るための、男同士の絆が現す儀礼である。


「フッ、よせよ。もうガキじゃねぇんだから」

「いいじゃんか、減るもんじゃないし。それに、今やることに意味がある気がしたからさ」


「……チッ、わぁったよ」


 半ば嫌々だろうが、慶助も右拳を型どった。


 しばらく世に出ていなかった友情のシーンが、今宵大人となった二人に放送される。


 信次が構え待つ左拳に、慶助が軽く向け放った右拳を当てることで。



「――よくナイスやったファイト、慶助」

「――お前ユーもなトゥー、信次」



 大した代物ではない。誰でも可能でありふれたやり取りに過ぎず、品の無い男臭ささえ臭う。


 しかし、今現在微笑みながら行った二人には、特別な時間が流れていた。

 初めて出会った小学生当時。

共に荒れた中学生当時。

共に夢へ向かった高校生当時の思い出たちが伴奏して。


「……んじゃ、後ろの荷物は、明日学校に届ければいいんだな?」

「うん。悪いね」


「御得意さんの意見だ。無視する訳にゃいかねぇだろ……じゃあな、相棒」

「うん、またね」


 その会話を最後に、慶助は車を走らせ去っていった。

 決して口には出さなかったが、荷物の代わりにエールだと受け取れる言葉を置いていったようだ。



『――さぁ! 明日からいよいよ合宿だ!!』



 まだ創部間もない笹二ソフト部による、初の合宿がついに始動する。

―――――――――――――――――――

後日の虹色スポーツ店

慶助「ろ、六万!?😲何かの間違いだろ!?」

空飛「ファーストミット\17800

   外野グローブ\24800

   オールラウンド\14800

   合計\57400で間違いありませんよ😔」

慶助「……頼む、マケてくれ🙏」

空飛「昨日の売り上げとして入ってますし、今さら値引きしたら店長に怒られますよ?」

慶助「店長ボス……バレたら殺される😣」

空飛「あ、それから壁の修繕費も後で払えって言ってましたけど……😓」

慶助「チクショ、今月分の家賃払えっかな……?😢」


慶助、グローブを買う(笑)


次回

十八球目

◇合宿で見えた亀裂◆

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