⑤星川美鈴→田村信次パート「ゆ、唯先輩ときらら先輩には、もう乱暴なことはさせないッス!!」
◇キャスト◆
―――――――――――――――――――
「久しぶりだな……唯」
「愛華……」
「それに、植本きららも……」
「ら……鮫津さん……」
もうじき閉店時間を迎えるスポーツ用品店――虹色スポーツでは、レジ閉め作業や清掃作業で静観としていた。
しかし、野球&ソフトボールコーナーは特別異質な空間で、三人の笹二女子生徒と一人の店員は、揃って釘工女子生徒の一人を見つめている。
『鮫津愛華……聞いたことないけど、もしかして唯先輩ときらら先輩の友だち? でも、なんか……』
唯と同程度のスレンダーで、長い金髪を際立たせる女子高校生。
美鈴自身知らない相手だが、どうやら唯ときららには接点があるようだ。が、異様な緊張感から考える辺り、あまり望ましい再会とは思えない。
「フフ、
「ちょ、ちょっと待ってほしいッス!!」
「あん……?」
果敢にも愛華の目前に出向いた美鈴は、唯を守るように両腕を拡げて立ちはだかる。短いツインテールですら微動していたが。
「ゆ、唯先輩ときらら先輩には、もう乱暴なことはさせないッス!!」
先程は相手が男子だったため足を止めていた。しかし、今回は歳上とはいえ同性だ。先輩を守るべく、後輩が身を呈して防衛する。
『どんな関係か知らないけど、もう唯先輩たちに嫌な思いはさせないっ!』
顔は強ばりを放っていたが、すると愛華にゆっくり寄られる。身長の低い美鈴と顔を会わせるように膝を折り、対照的にニッコリと目線を合わせられる。
「へぇ、これはこれは、頼もしい後輩じゃねぇか……ねぇ、お名前は?」
「ほ、ほほ星川美鈴っす……」
「星川美鈴ちゃんっていうんだぁ。可愛い名前だねぇ」
「え、あ、ありがとうございま、す……」
「フフフ……大丈夫だよ、美鈴ちゃん……」
声のトーンすら高く上げ、登場時の
「――ビビりには、興味ねぇから゛よ」
「――ッ!!」
全身に鳥肌が浮き立ち、言葉も出ないまま固まってしまう。やがて痙攣が発生してしまい、隠していた恐怖心が剥き出しだった。
『たった一言が、こんなに恐いなんて……』
「フフ。それにしても、ずいぶんとギャラリーがたくさんいるなぁ……ねぇ、アンタは誰?」
「ん、
美鈴に興味を無くしたように横目で逸らすと、茫然と眺めていた慶助に向かう。
「オッサン、唯の何かなの? さっき、仲裁してたけどさ」
「なんでもねぇ赤の他人だよ。仕事終わって帰ろうとしたら、男が女に殴られそうになってたんだ。ただそれを止めに入っただけだ」
「へぇ、オッサン、優しいんだねぇ。ボロボロだけど正義のヒーローみたい」
「ネエちゃんこそ何モンだ?
「フフ……俗にいう腐れ縁ってやつだよ」
「愛華……」
依然として敵意剥き出しの視線を送る愛華に、唯が一声投じた。同様、怯えた立ち振舞いの先輩像が見て取れる。
「フフ。何怖がってんだよ? 三年前とはまるで真逆だな」
「愛華……なんで、そんなに変わっちまったんだよ?」
『三年前……? 変わった……? どういうことっすか……?』
三年前と言えば、まだ美鈴が唯と出会っていない頃。
何も知らされていない身として、沈黙しながら耳を傾ける。
「いや、変えられたんだよ。どっかの、茶髪女のせいでさぁ」
「きららは、何もしてねぇだろ? お前の勘違いなんだって」
「さぁね~。少なくとも、ウチらの間に入ってきたのは間違いねぇだろ? おかげで、お前と同じ高校にだって行けなくしたんだしよ」
「違う! きららがオレに勉強を教えていたのは、オレがお願いしたからだ! きららは何も悪くない!」
「でもウチらは離ればなれ……変わりねぇだろ?」
「そ、それは……」
「そういうの、略奪っつうんだぜ?」
「……」
きららを巻き込んだ二人の会話は、唯が黙りこんだことで幕を閉じた。辛そうに視線を落とし、肩も大きく沈んでいく。
『唯先輩の旧友なのは確か……でも今は、絶対違う……』
友とは呼びがたい腐れ縁。
詳細まではわからないが、仲違いに至ったことは明確だ。解決の道がまるで見えず、不穏な空気の濃度が増す。
「……ところでさ、なんでここにいんの? 部活でも始めたんけ?」
「後輩がグローブを買うから、それを手伝ってただけだ……笹二で、ソフトボール部やってんだよ」
「ソフト部……フフッ、へぇ~そうなんだ~」
「な、なんだよ……?」
「いや、相変わらず運命の神様ってやつは残酷なヤツなんだな~と思ってさ……」
「はぁ……?」
暗黒な笑みを続けると、愛華は美依茅とあおいの間に戻る。
邪悪なオーラを三人がかりで放たれると、頭すら働かなかった。しかし、笹二ソフト部の三人は最後の息を飲まされる。
「――ウチらも、やってんよ……釘工ソフト部でさ」
『――ッ!! ソフト部……こんな人たちまで、やってるなんて……』
電気が流れるような感触が走る。それは心臓に悪く、身体が受け付けようとしない、甚だしく危険な電気ショックだった。
可能ならば二度と再会したくない相手だけに、初めてソフトボール部に入ったことを悔いる。
「また今年から部活動再開できるんだ。折角だからさ、近々練習試合でもやろーよ」
「――ッ!! そんな……」
「愛華……」
「鮫津さん……」
無論笹二からの返答はなかった。勝手に決められる立場でもなければ、一戦など交えたら怪我する恐れさえある敵だ。今はまだ黙りこくるしかなかった。
――「え? 君たち、釘工ソフト部なの?」
すると沈黙を破った者は、意外にも店員の空飛だ。当初は酷い仕打ちを受けていたが、今はどこか嬉しそうに眼鏡越しで光らせている。
「なんだよ店員さん、今ごろ知ったの~? スパースター様だぞ~」
「ハハハ! そっかー、それは悪いことをしてしまったね」
「内海、空飛……あ、もしかして……」
得意気な美依茅の後、あおいが気付いたように空飛を眺める。何者かと考えようとしたが、瞬時に愛華が場を乱す。
「ヤバい……美依茅、あおい、逃げるぞ」
早口と人一倍の冷や汗を放ち、愛華はそそくさと疾走する。すぐに赤青コンビも追っていくが、もはや邪悪な威圧感が微塵も受け取れなかった。
「なんだよー愛華ー。今からおもしろくなるトコだったんじゃねーのー?」
「うっせぇバカ!! オメェらこそ
「やっぱりね~」
『行っちゃった……なんか
おどおどした眼鏡店員の何に怯えたのかはわからない。
とはいえ、美鈴たちにとっての一難は去ったようだ。ありふれた平和が突然戻ったことで、肩の力が一気に抜ける。
「わりぃな、きらら、それに美鈴も……嫌な思いさせちまって……」
「唯先輩……」
「ううん、唯は悪くない……
いつもネコ語が消えていたきららも気になったが、美鈴は唯の謝罪姿を心苦しく見てしまう。少なくともこの場では何も悪いことをしていないのにと、照明から離れた角通路で揃って俯いていた。
「……取り合えず、お前ら三人に怪我はねぇみてぇだな」
「大和田……」
「呼び捨てかよ。まだヤクザって言われてる方が気が楽だっつー……」
「……アンタも、それに店員も……わりぃ」
慶助の言葉尻を被せ再び頭を下げた先輩。その後ろ姿はとても小さく窺え、もはや別人とまで思える。
「さっき連絡が取れてな……もうじき、田村のやつが来る」
「――っ! そんな……」
「心配すんな、ただお前らを家まで送迎させるだけだ。それに今回は
「そ、そっか……わりぃ」
「何度もやめろよ。謝られるようなことしてねぇっつうの」
「……わりぃ」
きっと慶助というヤクザ風男性は、異性から頭を下げられることが苦手なのだろう。しかし、未だに謝意を見せる唯は顕在で、重い雰囲気のまま信次を待つことになった。
『唯先輩……
◇美鈴、グローブを買う◆
「おまたせ、みんな!」
息を切らした信次は数分後に到着し、唯たちとは本日二度目の面会だ。“蛍の光”が流れる店内から出ると駐車場の外灯も一部消え、閉店間際であると言える。
「無事みたいだね」
「あぁ……わりぃ、田村」
「信次、別にコイツら、わりぃことした訳じゃねぇんだ。された側だし、しかも手も出してねぇ」
一歩前に出た慶助が唯たちをカバーすると、信次自身も少し安心できた。元来、暴力を嫌い平和を愛する生徒として覚えてる彼女らだ。まして旧友の言葉など容易く信じられる。
「さ、明日は朝早いから帰ろ! 慶助も頼む!」
「頼むって……まさかお前、まだ車持ってなかったのかよ!?」
「いや~だって、維持費やら税金やら高いしさ」
「公務員のクセに……」
渋々ではあったが、フリーターの慶助が運転係を務めてくれるようだ。
社用の白いワンボックスカー前に移動し、早速三人を後部座席に乗せる。
信次も助手席に座るといざ出発したが、車内の雰囲気は著しく重かった。
「チッ……なんでお前んとこの生徒はみんなこーなんだよ?」
「あ、舞園のときも済まなかったね。でも今の彼女はとても生き生きとしてる。慶助の協力があってだよ」
「強制的にな……どっかの
既に笹二ソフト部との接点が多い旧友と盛り上げようとするが、後部座席からの声は漏れなかった。
ふと三人の様子をミラーで覗くも、いっこうに晴れる兆しが見えない。
「唯……ゴメン」
すると雫を顕にしたきららが、唯の片腕に抱き着く。
「オレがわりぃんだ……きらら、美鈴も、ホントにわりぃ」
一方の唯は反対側の美鈴を抱き締め、三人の寄り添い姿が公にされた。しかし大きな悲哀から生まれた景色故に、見れば見るほど心が痛まる。
「……なぁ、田村」
「ん?」
何かを決心したように、唯の眉は立ち構えていた。思わず傾げながら問うと、遠いようで近い一つの過去を呼び覚まされる。
「オレたちが、ゲーセンで問題起こしたときのこと、覚えてっか……?」
「うん、ボクが君たちを初めて迎えに行ったときだね。他校生と喧嘩になりそうだったって聞いたけど、それがどうかしたかい?」
あのときがきっかけで三人が入部してくれたと言っても過言ではない。
徐々に微笑みを戻す信次は柔らかに応答したが、唯の表情がより険しく赴いた。一呼吸の間を空け、まだ知らされていなかった
「――あのとき絡んできたのは、今日と同じ二人組なんだ……」
―――――――――――――――――――
空飛「まだ先だけど、妹をよろしくです👮」
美依茅「その名も、
愛華「メッチャおっかねーから😱」
あおい「それは愛華だけが思ってることだよ😏」
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