②??→星川美鈴パート「いっ、一万八千ッ!?」
◇キャスト◆
あおい
※今回より、未成年者の喫煙描写が含まれます。
未成年者によるタバコの喫煙は法律で固く禁じられております故、一切の真似事が無いようよろしくお願い致します。
―――――――――――――――――――
十八時を回った日没間際。
「わぁったよ。明日は行くから、もう勘弁してくれよ……」
そんな灯りよりも目立つ、金の長髪が
頭頂部で一つにまとめた長身の制服女子高校生は、周囲の大人から視線を浴びながらも、スマートフォンを片手に通話中だ。しつこい指摘ばかりを受けるせいで、うんざりと制服のリボンをぶら下げている。
(もぉ~!
「欠席じゃねぇだけまだマシだろ……」
(遅刻も早退も、三回で欠席一回分だってことはわかってるでしょ!?)
「へいへい……じゃーまた明日ー」
(あーちょっと!! 待って愛華ちゃん!! まだ続きがあ……)
「……無理に決まってんだろ……バカ
独り言まで放った上空は妙に曇りがちで、星一つ
途中で切った
『ウチらが、活動再開だなんて……県のテッペンだんて……』
最後は呆れたように鼻で笑い、派手に彩られたスマートフォンを着崩した制服胸ポケットにしまった。すると、周りの視線から逃れるようと建物の狭間へ向かい、年齢不相応な赤黒の箱とライターを取り出す。
『ウチらはもう、
その瞳には、希望の欠片など一切残っていなかった。決して納得している訳ではないのだが、未来への諦めを抱いている。去年、前代未聞な事件を起こしてしまったが
『――犯罪者集団が戻れる訳ねぇんだよ……ウチも、みんなも……翔子だって』
苦き過去を即座に思い出すほど、心内まで
『つまんねぇな……こんな人生も、早く終わっちまえばいいのに……』
確かに一年前も険しい生活ではあった。が、痛いほど刻まれている記憶は、更に
『何ならあんとき、全部終わらせときゃあ良かったな……生きる価値なんてねぇんだからよ……』
かつての二人を脳裏に宿し、大きくため息を吐いて忘れようとした。二度と会うこともないだろうと赤黒箱を空け、口許に一本を送ろうとしたときだった。
――「こっちにゃあこっちにゃあ!!」
――「はぁ~……マジで来ちった……帰りどうしたらイイんだよ……」
――「あんまり遅いと帰りのバスも無いかもっすね……」
『――っ! この声、この喋り方、まさか……』
突如口を開けてしまい、聞こえてきた空間へ目を送った。あれほど避けていた表道にすぐ向かい、建物の隙間から声主を覗いてみる。すると、十メートル離れた地点に他校生三人の後ろ姿が窺え、思わず不適の笑みを浮かべた。
『へぇ~、マジかよ……こんなことあるんだな』
一人は、麗しきロングブラウンを揺らす御嬢様系。
また一人は、黒髪を纏う長身且つ肩が富む姉貴系。
もう一人の背が低いツインテール少女は見覚えがなかったが、主要たる二人に関しては顔を見ずとも
笹浦二高の制服だということも。
『こんなとこで再会だなんて……フフ、神様も残酷だわ。やっぱウチらには、絶ち切れねぇ因縁があるみてぇだな』
こちらに一切気づかなかった三人は愉快のまま、そばのスポーツ用品店を潜っていく。要件は知らないが、今は正直どうでも良かった。
『お前も、そう思うだろ……?』
姿が消えたとはいえ、愛華は壁越しで恐ろしい眼光を向け続けていた。先ほど手放してしまった一本を唇で挟み、ライターを光らせながら嘲笑う。
『――なぁ……唯?』
◇美鈴、グローブを買う◆
「へぇ~……結構でけぇんだなぁ」
「そっすね……」
入店した美鈴は先輩の唯と揃って、広々しい空間内に唖然としていた。
数多くのスポーツコーナーを設けた店内は、端から端までの距離が百メートル近く、奥行きも背伸びですら見通せない。どんなアスリートも受け入れているように、品数豊富である。
高さ自体も二階建ての構造で、見上げればロッククライミングの凹凸壁、会員制で利用できるジムルーム、フードコートさえも目に訪れる。
スポーツ用品店という割には、何でも買い揃えられる大型スーパーと近似していた。
「……迷子にならねぇように、と」
「ゆ、唯先輩? どうかしたっすか?」
「え、あいや……武者震いってやつだよ……美鈴もはぐれねぇようにな」
「は、はぐ……はいッス!!」
あまり慣れていないせいか、唯の拳が静かに振動していたが、反って嬉しさを覚えた美鈴は得意の空想を膨らます。
『よ~く考えれば、これは唯先輩とのデート!! しかもうちに心配の一言!! アッハハァ~ん幸せっす~唯先輩!! うち笹浦市で生きてて良かったっす~』
本題を完全に忘れ、乙女の胸が高鳴っていた。
バスで来るまでの間は運命的にも唯と相席し、時おり放つクールな横顔に見とれてしまった。母親の牛島恵に携帯電話で帰宅時間を知らせていたが、その家庭想いの優しさこそチャームポイントと言えるだろう。
格好良さと優しさを兼ね備えた、初対面当時から憧れている先輩だ。
『アッハハァ~ん~唯せんぱ~い うち、歩くの疲れたからオンブしてほしいっす~。なんなら抱っこだって構わないっすから~ははぁ』
「ミ~スズン! 行くにゃあよ?」
「あ、きらら先輩……そ、そっすよね……」
一声で我に帰った途端、ツインテールが
『そっすそっす! 今はどうやってグローブを買うべきか考えないとッス!! ……はぁ~』
後輩が先輩の前で生意気にも買って良いかと悩みながら、三人で案内表に従い“ベースボールコーナー”を目指した。ソフトボール関係の商品も野球の
「……あそこにゃあ!!」
グローブやスパイクの修理も行うカウンター前には、棚と壁に数々のグローブとバットにスパイク、練習着や新球が所狭しと陳列されている。また野球史に残る偉人の紹介写真が掲載されており、直筆のサインユニフォームまで飾られていた。
「へぇ~……グローブって、こんなに種類あんだな……」
「ポジション毎に形も違うし、色も黒以外にこんなあるんすね」
設置されたテレビのプロ野球放送が響く中、美鈴と唯は色とりどりのグローブたちを見上げていた。
打者に対してボールの握りを隠すべく、外から中身が見えないような網付けのピッチャー用グローブ。
捕球の際に痛みを軽減する厚革で、横姿がたらこ唇に似ているキャッチャーミットと、先端が少し長くなったファーストミット。
捕った打球をすぐ持ち換えられるように作られた、一回り小さめの内野用グローブ。
広い守備範囲を促す長い指先で、自身の顔も隠せそうな外野用グローブ。
またミットではないが、全ポジションに適応するオールラウンドと呼ばれる標準型も存在する。
「みんなキラキラしてんな~」
「はいっす。キラキラでピカピカしてるっす」
「鼻をプーンにゃあ」
普段は石灰や砂ぼこりで染まった体育倉庫グローブを使用してるため、新品が発光体の如く窺えた。知識がまともに無い未経験者でも憧れ衝動に駆られ、一つ一つとゆっくり対面していく。
「……おっ! これ、カッコいいじゃねぇかぁ~」
微笑んだ唯が手に取った一品は、黒にホワイトラインが走る、内野用よりも少し大きいオールラウンドグローブだ。十字形の網にも惚れたようで、“試用可”の看板も確認できたため早速左手を差し込む。
「すげぇ~! ザラザラしてねぇしサイコー! 美鈴も入れてみろよ?」
「……ホントっす! 指一本一本が優しく包まれてるカンジっすね!」
握りづらい固さは否めないが、甲に当たるクッション毛の肌触りが魅力的だった。革質も上々で
「これで、一万五千っすか……」
「いッ! 一万以上!? マジかよ……」
高級品の値札を確認すると、やはり険しさへ移り変わる。驚き叫んだ唯もガックリと肩を落とし、結局棚に戻すことにした。
「また会えたら会おうな……黒グローブ」
「唯先輩……ホントに気に入ったんすね」
「ミスズンは、どんなグローブが欲しいにゃあ?」
「うちはファーストっすから、やっぱり中島先輩のような、長いファーストミットを買おうと……」
「え? 美鈴は買うの?」
「ア゛ッ……」
思わぬ展開に引き込まれてしまった。突発的な事故でもあったために、身体の震えが瞬時に現れる。
「そ、その……唯先輩すみませんッス!!」
「い、いきなりなんだよ……?」
「いやその……実はうち、本気でグローブを買おうと思ってて……」
「べ、別にイイじゃんか」
「ほ、ホントっすか!? 生意気だと思わないっすか!?」
「なんで生意気なんだよ? オレは、美鈴は計画的で貯金ができるイイ
「い、イイ
想像と違った思想観念を伝えられ、徐々に緊張が
「
「唯先輩……グズッ……ありがとうございますッス!!」
「え……何故の涙?」
素敵な先輩の前で感極まり、不意に流れ出た乙女の
「唯先輩……これからもよろしくっす!」
「へへ! まぁ良くわかんねぇけど、サンキューな。さてと、じゃあ本命のファーストミット探そうぜ!」
「ウッス!!」
いよいよファーストミット選びが三人係りで安心して始まった。一つ一つ目と手で感触を確かめ、右手に
「ファーストミットって、でかくていいよなぁ……」
「
「だったら、みんなファーストミットにしちまえば、いいんじゃね?」
「唯さすがにゃあ!! それだけで博士号獲得にゃあよ!!」
「それが、どうもダメらしいんすよ……ルールでは、ファーストとキャッチャーだけしか認められてないらしくて、他のポジションは禁止なんだそうっす。篠原先輩がそう言ってたっす」
――――――――――――――
オフィシャルソフトボールルール 3-3項
1.グラブは、すべてのプレイヤーが使用してよいが、ミットは捕手と一塁手だけが使用できる。
2.投手が使用するグラブは、グラブのひもを含め、多色でもよいが、球以外の色でなければいけない。
3.他のプレイヤーは、どのような色のグラブを使用してもよい。
《効果》3項
野手が不正用具で打者・打者走者・走者に対してプレイをした場合は、攻撃側の監督に選択権が与えられる。
(1)打球を処理した場合
プレイの結果を生かすか、打ち直し(打撃完了前のボールカウント)をする。
(2)送球を処理した場合
プレイの結果を生かすか、投球時に占めていた塁に戻らなければならない。
――――――――――――――
「そ、そんにゃあー!! 単位不足の留年ガビンにゃあ……」
「なるほどな~……
様々な話題を盛り上げながらも、グローブ選びは思いの外スムーズに進行した。求める左利き用は断然少なく、ポジションも限定していたことが要因なのだろう。選択肢が三つとまで絞ることができたが。
「う~ん……最後の一手が決まらないっす……」
一つ目は赤基調のホワイトラインで、二つ目がブラウン一色、そして三つ目が黒とブルーラインを並べた美鈴。しかし、ここにきて候補から決めることができず、苦悩の時間が開催してしまう。
「……お二人とも。時間を掛けてしまって、ホントに申し訳ないっす……」
「気にすんなって。大きい買い物なんだから、決めづらいのも無理ねぇよ」
「そうにゃあ。ミスズンはゆっくり考えてくれていいにゃあよ」
二人から温かく返答されたが、悩める少女に眉間の皺が残る。右手を嵌めて感触を確かめるも、全て同じような心地良さを感じた。一体どれが一番適しているのかなど、皆目不明で立ち竦んでしまう。
『ソフトボールの経験なんて全くないウチが、グローブ選びなんてまだ早かったのかなぁ……?』
決定要因を見出だせず、大きなため息で肩を落としていた。
「……唯先輩ときらら先輩だったら、どうやって決めますか?」
一人では決められないならば、先輩の意見も参考にしたい。すると唯ときららは一度互いの目を会わせ、自分のことのように真剣に考えてくれた。
「う~ん……オレは、形が一番カッコいいと思ったやつだなぁ……きららは?」
「デザインも大切だけど、きららはやっぱり色重視にゃあ。好きな色で選ぶのもアリだと思うにゃあよ!」
「形と色、っすか……」
表情に浮かんでいた厚い雲が少し薄まり、美鈴は三つの相棒候補を再注目した。唯が指摘してくれた形については、全て同じだと判断できる。
あとはきららが助言してくれた配色だが。
「ミスズンは、何色が好きにゃあ?」
「色、うちっすか? う~ん……」
好色など今まで考えたことがなく、きららからの問いに渋い顔のまま答えられなかった。従順たる
らしさを見つけきれてないことが、今回のグローブ選びを困難にしているに違いない。
『……』
「……唯だったら、何色がいいにゃあ?」
考えあぐねた心内を見抜いたのだろうか。美鈴が黙り込むときららが唯へバトンを渡した。
「オレだったら……やっぱり黒とかネイビー系かな? こーいう暗めな感じだと、自然と落ち着け……」
「……じゃあこれでっ!!」
咄嗟に大声で言葉尻を被せてしまい、愛する先輩を驚かせてしまった。他者の意見を丸飲みと言われても仕方がないが、今の美鈴にはこれ以外の選択肢がなかったのだ。
「ほ、ホントにこれでイイのかよ? 美鈴の好きなやつを選べばいいじゃんか?」
「こ、これがイイッス!! ウチも黒と青が好きっすから!!」
候補の中から手に取ったファーストミットは、口周りが青で染められ、他の広い箇所は黒で彩られている。
気になる御値段とは。
「いっ、一万八千ッ!?」
「み、美鈴? も、もももう少し見て選んでもいいんだぞ? 時間のことは気にしなくていいからさ、アハハ~……」
二万円近くの出費は、女子高校生にとって死活問題だ。貯金があるとはいえ、美鈴も緊張の血流が全身へ
「いえッ! 黒と青のミットはこれしかないんで、これで決まりッス!! ゆ、唯先輩の好みはウチの好みなので、完全に決まりッス!!」
台詞は
あまり納得してない顔色の唯がため息を漏らした反面、どこか嬉しそうなきららに、肩に手を添えられる。
「では、ミスズンさん!」
待ってましたと言わんばかり告げ、開会宣言の如く紡ぐ。
「このグローブ、買いますにゃあ? それとも、買いませんにゃあ?」
どこかの番組を真似た決まり文句に、更なる重圧へ追いやられる。きららの温かな視線も感じられないまま、美鈴は固唾を飲み込んでグローブを見つめた。
『うちは今、二万円近くの高級品を買おうとしているんだ……』
震える指先で開けた長財布。中味には確かに二人の福沢諭吉がどっしり構えていたが、所持者はそれどころではなかった。想像を遥かに超えたプレッシャーで、静かに冷や汗を垂らす。
『……ヤバい、声が出しづらい、息もしづらい……』
心臓の鼓動まで窺える聴覚。
心身共々の汗すら感じ取れる味覚。
『買う? 買わない? 買う? 買わない? ……』
瞳を閉じた自問自答の
「――か、買います!!」
「オ~……」
「さすがミスズンにゃあ!!」
覚悟で放った緊迫の一言には、唯からは唖然とした拍手、またきららからは称賛の万歳を
「……唯先輩、きらら先輩。長々とお付き合いしていただき、ありがとうございましたっす!」
「いやいや、なんか感動した……美鈴スゲェ~よ!」
「ナイスガッツにゃあ!!」
「じゃあ早速、レジに向かおうにゃあ!!」
「ウッス!!」
自身も選んだ黄色グローブを握り締めるきららが先陣を切り、美鈴も前向きに歩み始める。一人だけが購入無しと思われたが。
「……ところで、唯のグローブはドコにゃあ?」
「え……いや、さっき置いてきたけど……オレは買えねぇからな! 金欠だし、帰りのバス代でいっぱいいっぱいだし……」
「気にすることないにゃあ!!」
「な、なんでだよ……?」
困り果てたハの字で返した唯には、美鈴も同感だった。無理強いにも購入させるのかと疑いかけたが、胸を張る猫型御嬢様の
「きららが二人の分、
「「へ……エエエエェェェェ~!?」」
本人曰く、無理矢理バスに乗せた時から決めていたそうだ。
驚愕を取り払えない二人は無論遠慮を示すが、胸ポケットから取り出された一枚のカードを見せられ更に硬直してしまう。
「こ、こここれは……禁断の、クレジットカードっす!」
「クレカだ……ももモノホンのクレカだよこれ!! お前いつもこんなの持ち歩いてたのかよ?」
「そうですけど、にゃにか? そんな驚くことないと思うにゃあよ?」
「いやいやいやいや! だったら尚更自分で買うからイイっすよ!」
「美鈴の言う通りだぞ、きらら! カードの使い過ぎで借金まみれになった人、テレビで何人もやってたんだから!」
財閥嬢とはいえ、気持ちだけで嬉しかった。しかし反論には反論が返され、想定外だった平行線が辿る。
「余所は余所、きららん
「あちょっと! きらら先輩!!」
「アイア~イにゃあ」
「いやいや待ってっす~!!」
ファーストミットをも掴み取り、きららは振り向かずまっすぐレジへ進んだ。取り乱した美鈴も、慌てふためく唯も走り出し後を追おうとした、その時である。
――バシッ……バシッ……
「にゃあ?」
「な、何すかこの音?」
「グローブの、音?」
三人には聞き覚えのある音色だった。棚越しから聞こえた物音に反応し、足場と視点を一致させる。無論陳列棚が視界を
「……っ! 笑い声も聞こえるっす」
「同じ女だな……」
「なんか面白そうだから、行ってみようにゃあ!」
「おい、きらら!?」
「あ、待ってっす~!!」
レジからベクトルを換え、きららの後を唯、続いて美鈴の順で連なる。
時刻も予定より遅く、明日からは初めての合宿もある。先輩をも待たせてしまったために、可能ならば早急に事を済ませたいことが本音だったが。
「待ってっす~ウォット! ……ふわぁ~」
棚端まで来た瞬間二人の急ブレーキで、美鈴の顔が唯の背中に収まった。ラベンダーの安らかな香りに包まれたが、何一つ応答されなかったことに違和感を覚える。
「あ、あの唯センパ……」
「……ねぇ唯? あの人たちって……」
「あぁ……間違いねぇ」
言葉尻を被せたきららに返答した唯。目前の光景に集中していることが声質からも窺える。
美鈴も二人の背中から覗き見ると、約十メートル先に間を開けた二名の女子が映った。学校名までは未見解だが、着崩した制服及び背丈からは高校生だと認識できる。
『あ、あの人たち……』
しかし最も印象深かった面は、彼女たちの髪色、そして現在進行形の行動だった。
まず髪色は、手前でマスクを着用した小さな一人がディープブルー。また奥でハシャぐもう一人がワインレッドで彩られていた。間違いなく校則に反した髪染めである。
そして現在進行形の行動とは、店内としては考えられぬものだった。業務妨害極まりなく、グローブとボールまで使用していたのだから。
『――店内でキャッチボールって……』
通路で繰り広げられる愉快なキャッチボール。無論周囲がネットで囲まれている訳でもない。ただ我が物顔で店内商品及び空間を、私用の如く扱っていたのだ。
「ねー
「そんなこと言わないで、あおいー! これからこれからー! さぁいくよー!」
帰り際の遭遇してしまった、異様な高校生――
苗字までは
――――――――――
愛華「……道、迷ったな😥」
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