4-17 ラストバトル4
「視界を塞げば装置の起動を出来ない?
なるほど考えたわね。
でもね。」
パンディットはペロリと舌を出すと、ルナティックレインの霧を少し舐めとり、立ち上がった。
「?」
視界を遮っているはずだが、方向に迷いがない。もしかして見えているの?
「貴方が嗅覚で心眼を行うのと同じ。
私は味覚で心眼を行えるの。」
「何っ!?」
どうやって?!
この作品はどいつもこいつも変化球ばっかりだ。
「マヂカが言う?」
「うるさい。」
例の鼻心眼は一応、説明出来ているでしょ。
あの名前には不服だが。
とにかく、パンディットの足を止めないと。
私は構えた腕から、
「マジカル濃硫酸!!」
扇型に拡散させて理科を放つ。
心眼で位置情報を得ているとはいえ、光を捉えている目に比べ、(ヤタガラスの急降下攻撃をかわした私が言うのもなんだが)鼻や舌の情報はそれほど応答性が良くない。流石にこれはかわせまい!
(いや、それ以前に舌で位置情報を検知する方法って何なのさ?)
チカラの残り少ないパンディットにはこれでも十分な効果があるはずだ。
濃硫酸のミストがパンディットに降り注ぎ、ところどころ皮膚に火傷を作る、のだが、
「ふ。この程度?」
「えっ?!」
どうしてだ?自然治癒は追いついていないのにダメージが少ない、気がする。
「何か気づかない?」
「えっ、えーっと。」
「マヂカ、服装だよ。」
急遽、私は平日昼間のバラエティ番組並みに庶民目線なファッションチェックをしてみる。とは言っても、相手はスーツ姿だ。
・・・紺を基調とするフォーマルなスーツは首元にフリルのあしらわれたシルクのブラウス、タイトスカートにウールのジャケット。胸元にはおしゃれなコサージュが飾られており、オトナの魅力を演出します。
足元はダークグレーのストッキングに、ヒールが少し低めの白いパンプス。黒と白のコントラストが・・・って、
ねぇこのチェック、意味あるの?
あれ?そう言えば、下(市役所)で会った時と違うような・・・。
「着替えたの?」
「えぇ。」
いや、何のために?
「政治家は常に綺麗なスーツじゃないといけないとでも言いたいの?」
「そうじゃないよ。たぶんアレは。」
「ま、まさか・・・マジカル濃硫酸を中和するために、アルカリの服を?」
「ご明察。」
なんて奴だ!この短時間で私の攻撃に対応したっていうの?!でもアルカリの服って何?(自分で言っておいてなんだが。)
注:この作品はフィクションです。強アルカリ性の物質はタンパク質を溶かして皮膚に害がありますので、決して真似(?)をしないでください。
「えぇい!」
こうなったらなりふり構っていられない。私はマツリの見様見真似でパンディットに向かって上段回し蹴り・・・いや、中段回し蹴りをお見舞いする。
私はあんなに上まで脚を上げられません。
目が見えていないはずのパンディットにその攻撃は、
「フンッ!」
両腕でガシッと受け止められ、
「あ。」
全く通用しなかった。
「あら。随分と細くて白い脚ね。」
一見すると褒め言葉だが、蹴りを阻まれて言われるとそれはまた別の意味を持つ。日本語の難しいところだ。
それ以前に味覚でどうやって色まで見てるのよ?もしかして舐めたの?!
(注:くどいようですがフィクションです。)
「栄養不足と運動不足に血色不良。コレ、健康診断は大丈夫?」
余計なお世話だ。
「私は栄養のほとんどを脳みそで消費しているのよ!」
「でしょうね。」
「・・・。」
皮肉も通じない。
「貴方にはグレイベアードのような身体能力はありもしないでしょう。
ひ弱な理系女子だものね。」
「か弱い美少女と言いなさい!」
目の見えない相手に対して奇襲をかけたが、不発。脚を掴まれ、自由に動けない。
だけど、私の狙いは他にある。
私が脚を掴まれて動けないということは、掴んでいるパンディットも動けないということなのだ。だからさ!
「ケットシー!!」
「!?」
これは一対一の戦いではない。私が直接パンディットから鍵を奪う必要はないのである。
パンディットの使い魔はまだ見ていないが、私にはケットシーがいる。
パンディットの手首にぶら下がっている元素の鍵をめがけて、ケットシーは飛びついた。
「こいつ!」
慌てて振り払うが、鍵は手を離れ、甲高い金属音を立てて甲板に転がった。
飛行船は出来るだけ水平を保ち乗員を快適な空に旅に連れ出してくれる乗り物である。だが、完全な水平というわけではない。
元素の鍵は床を数回跳ね、甲板の僅かな傾斜に沿って床を滑った。
「ケットシー、拾って!」
「え、え、え。」
突然の展開に慌てるケットシーを尻目に、鍵は私たちの間をスーッと通り、タラップの手すりに引っかかって止まった。
ケットシーよりも私たちの方が近い位置にいる。
「・・・。」
そして、
息を呑むほどの無音がこの空間を支配して、
私の脚を押さえつける力が緩む。
それと同時に、私とパンディットは鍵に向かってダイブした。
懸命に腕を伸ばし、鍵に向かって私の手が・・・
届いた!
こういう時、私はたいてい競り負けるのだけど・・・。
今たしかにこの手に鍵はある。
「おぉ。おぉぉ。
10族元素の鍵だ。」
いや、この言い方だと一般の人に私の感動が伝わらないので、表現を追加しよう。
「うおぉぉお。
プラチナを生み出す、10族元素の鍵だ!」
「別に今更言い替えなくても。」
そう言ってケットシーが私の肩に飛び乗った。
あとは所有者の登録をするだけだが、ヤタガラスの時と違って、今回はケットシーが万全の状態ですぐそばにいる。
だから、私は、
してやったりの顔をパンディットの方に向ける。
しかしその瞬間、
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