4-14 ラストバトル1

ーーー高度五百メートル。

飛行船はいわば気球であり、それほど速度の出るものではない。ゆっくりと上昇し、パンディットは街の中心を目指していた。


飛行船には“調合”に必要な薬品類と超大型の実験設備が積まれている。


この装置の動力源は元素の鍵。だが、機械の動作プロセスは全て人間社会の既存機器で行う。つまりオーバーテクノロジーと融合を果たした人類の機械である。

「“散布”できる高度まであと少し。

ようやくこれで・・・。」

積み込んだ装置の最終点検をしながらパンディットがそう呟く。

今日はその独り言がはっきりと聞こえるほど、空気の澄んだ静かな夜だった。


「タクシー。」


「?」

幻聴か?

こんな上空でタクシーを拾う声がする。

そんなバカな、そう思いながらもパンディットは周囲を見渡していた。

しかし周囲に人の姿はない。やはり幻聴。モスキートノイズなのだ。そう思うことにした。(注:モスキートノイズは幻聴ではありません!)


しかし、

「ヘイ、タクシー!!」

今度ははっきりと、そして方角、というよりも方向が把握できた。

声は飛行船の真下、そこから垂直に上がってくる真っ赤な風船からだった。

「なっ?!これは・・・。」

市役所の屋上に掲げられるアドバルーン。


ーーーーーー

私はどこかで見た大怪盗のごとく、ソレに捕まり追いかけてきたのだ。中にヘリウムを目一杯詰め込んで。


「いやぁ寒い寒い。

百メートル登ると気温が0.6度下がるっていうのは本当ね。(フェーン現象)

季節外れのクリスマスコスチュームで助かったわ。」

飛行船の甲板まで来ると、パンパンに膨れた風船をパンッと割り、華麗に一回転して・・・

ドシンッと、お尻から着地した。

「あいたたた。」

「出来ないことするもんじゃないね。」

「うるさい。化け猫。」

自身の身体能力の低さは理解しているつもりだけど。私だって主人公だもの。格好良いアクションシーンの一つや二つ欲しいと思うでしょ。


「マジカルマヂカ。」

「市長、ご機嫌いかが?」

「まさか風船で追いかけて来るなんて・・・。

メルヘンにもほどがあるわね。」

と殺意に満ちた顔で言う。怖かった。

「この作品、魔法少女なモンで。」


「何しに来たの?」

「邪魔をしに。」

私がそう言うと、心底嫌そうな顔をする。

「もう六月をだというのに、貴方はホント、五月のハエね。」

「・・・はぁ。」

とりあえず生返事をしてみるが・・・いや、意味わからんて。

求む、説明。

「五月のハエと書いて、

五月蝿い。(うるさい)。」

ケットシーが補足する。

「そんなことまで比喩?

もっとストレートにうるさいって言えばいいのに。」


「うるさいし、邪魔だわ。」


グハッ。本当にストレートに言うとは?!

市民に向かって罵声を浴びせるモンスター市長め。録音したからな!



冗談はさておき、本題に入ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る