4-13 最終章6
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五階、市長室。
内装はいたってシンプルで、飾り気のないデスクの上にパソコンと書類棚があるだけ。特許によって大金を稼いでいる感じは全くしない。(そういう意味では、私利私欲のない理想的な市長であると言える。)
施設の最上階と説明をしたが、ここはいわゆる屋上ヘリポート併設の部屋で、フロアも下と比べて格段に狭い。
館内放送のスピーカーもここにはなく、モスキートノイズはしなかった。
「マジデ。もう大丈夫みたい。助かったわ。」
高周波ブレードのエリアから全員が解放されて、ようやく一息つく。
「・・・私、まだちょっと気持ち悪いです。」
「うぅ・・・。」
「フェニックス、大丈夫?」
特にマツリとフェニックスのダメージは深刻だ。
赤い炎の鳥の顔色が思いのほか青い。
「この中じゃ私が一番若いからね。キツイわ。」
「若い?転生と誕生が同義であるとワシは思わんがのぅ。だいたい、フェニックスはワシよりも年長じゃろう。」
「・・・フン。
ジジイにこの苦しみは分からないでしょうね。」
「お主の方が年長じゃと言うておろう!」
「私は生まれたばかりの生娘よ!」
「生娘などと自分で言うな。この阿婆擦れが!」
「もう、やめなってば。」
こんなところでも喧嘩を始める二人。実は仲良いんじゃない?
だが、ゆっくりしてもいられない。
パンディットの姿は見当たらず、またこの部屋には隠れるところもないので、外の屋上へ行ったのだろうと推測できる。
ここの屋上はヘリポートだ。
何をするのか知らないけれど、実験は空で行うと言っていたので、空に逃げられたら厄介だ。だから私たちは急いで外へ出た。
そこにあったのは、とにかく大きな風船、ゴンドラの上にで回るプロペラ、空気を温め密度の小さいガスを発せさせるためのバーナー。
そう、これは飛行船だ。
すでに離陸していて、タラップはここから約三メートルの高さ。パンディットの姿もある。
そして、身を乗り出し私たちを見下ろすようにして、
「アーッハッハッハッハ。残念ながら一足遅れね。」
高々と勝利宣言をする。
マズイ。このままだと逃げられる。
何か策を・・・と、私が思案するよりも先に、
「パンディットーッ!!」
「?!」
跳躍力にチカラを付与したマツリが目一杯ジャンプをする。
この間にも飛行船の高度は上昇し、地面から離れて行っている。(魔法による不正があるが)マツリの走り高跳びは国際大会なら間違いなく世界記録ものだろう。
「と、どっ、けぇーっ!!」
懸命に腕を伸ばし飛行船のタラップに向かってマツリが飛びかかる。
「ちょっと、グレイベアード!?」
これは着地のことを考えない、命の危険を孕んだジャンプ。流石のパンディットも動揺する。
跳躍の高さは十分だった。
しかし、
無情にもタラップの手すりは前後の方向へあと少し足りなかった。
鉛直投げ上げ運動において最高到達地点で物体は一瞬静止する。そしてそのあとは自由落下。
地球上の生命、いや、全物質に共通した運動法則である。
「くっ。」
絶叫マシンの最上段に来た数秒のふわりとした感覚がマツリを襲う。
遊園地の乗り物と決定的に違うのは、安全面の担保が何一つないということだった。
空中において飛行能力を持たない人間は手足をどうバタつかせても無力。風を切る翼のようなものがない限り、アクションゲームのような空中での前後移動はそう簡単に出来ないのである。
自由落下の初速はゼロだが、それは加速度的に増していき、自分と地面との距離はどんどん近くなっていく。
ジャンプの飛び移りの失敗を想定していなかったマツリにはこの状況を乗り切る術がない。
「・・・。」
心の中でヤタガラスに謝罪をしながら、死を悟り、目を瞑る。
視界はそこまでだが、
その瞬間、ガシッとクレーンのアームのようなものが肩に食い込んだ感触があった。
猛禽類の爪がマツリの肩を掴んでいたのである。
「全く、アンタ、高いところ苦手なくせに、どうして考えもなしに飛び込んだりするの?!
二度はないわよ。拾った命でも大事にしなさいな!」
「フェニックス!
このまま私を抱えて、上昇してください。」
「無茶言うんじゃないわよ!!」
フェニックスの羽ばたきはマツリの身体をゆっくりと地面に降ろすことで精一杯だった。
マツリの無事を確認したパンディットは胸をなでおろし、私たちに向かって、
「新世界で会いましょう。
それでは御機嫌よう。」
などと言う。
ごきげんようなんて挨拶、現実世界で使うの初めて聞いたわ。
「どうしましょうか?マヂカさん。」
「うーん。」
空に逃げられると厄介だとは思っていたが、追う手段がないわけではない。ここが市役所の屋上なら、“アレ”があるはずだ。市長室の奥は予想通り倉庫になっており、ガサゴソといくつかの段ボールをかき分けると・・・。
「あった。」
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