終章

茉理の回想6

「いいかい茉理。この世界は食物連鎖で成り立っているんだよ。」

「ごぼうとか寒天だね!」

「それは食物繊維。母さんのお通じに効くやつだ。」

夕飯に出た小鉢のきんぴらごぼうには意図がある。父はそう踏んでいた。

「あなた・・・。」

余計なことは言わなくていい。母の笑顔が怖かった。

「ごめんなさい。」


「それで食物連鎖って、なーに?」

一家団欒。リビングソファであぐらをかく父の膝の上を陣取り、反り返るような姿勢で幼い茉理が聞いた。


『人間は自分たちのことしか考えないけれど、

この世界には数え切れないほどの沢山の生き物がいる。

土の中の微生物。

土を栄養にする植物。

その植物を食べる草食動物。

草食動物を食べる肉食動物。


弱肉強食の世界。


食べる者がそれぞれピラミッドのように数を減らしながら命の階段を登る。』


「それじゃあ、肉食動物は誰にも食べられないの?」

「いやいや、そうじゃないんだよ。世界はもっと上手く出来ている。

生物には当然、寿命があってね。死んだら微生物、菌類、細菌類によって養分として分解されて土に還る。

そうやってまたそれを植物が栄養にする。その繰り返しで星の命はずっと巡っている。

それが食物連鎖だ。」

「そっかぁ~。『りんねてんしょう』と一緒だね。」

「おやおや、そんなムズカシイ言葉どこで覚えたんだ?」


命は巡る。

生命は遺伝子を持って子を成し、次の世代を構成する。

これは上位下位など関係ない完成されたシステムの形。


・・・

目覚めたのは、ベッドの上。

回想は霧のような水蒸気となって形を失った。

それと同じく、夜の長雨が薄靄(うすもや)に変わり、湿気と寝汗がシャツを肌に吸い付かせていた。

「なんで今更、あの頃の夢なんか・・・?」

体を起こして周囲を確認する。

フェニックスが“鳥籠の上”を陣取り、羽を休めて寝息を立てている。

普段と変わらない茉理の部屋だ。

一年で一番日の長い夏至まであと数日ということもあり、外は既に色づき始めていた。

まもなく日の出である。

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