3-12 ヨルムガンド編3

ヨルムガンドを袋小路に追い詰めたマツリたちをさらに外側から追い詰める位置取りで、黒のスーツ姿に仮面をつけた賢者が立っていた。

「パンディット。」


ヨルムガンドは暴走の原因である元素の鍵を持っていなかった。

あの晩、パンディットはヨルムンガンドを追っていた。このタイミングでパンディットに会うということは“既に鍵は回収済み”なのでは、とマツリの脳裏をよぎる。


「ヤタガラスの敵討ちが出来て、さぞ満足かしら?」

欧米人のような大きな動きをしながら、肩をすくめてマツリを見下ろし、どこか含み笑いをしながらそう言う。

「・・・鍵は何処?!」

「鍵?どうしたの?急に。

貴方、元素の鍵には興味ないでしょう。」

「・・・。」

言葉の節々には様々な含みがある。

「それとも、あの救世主様の入れ知恵かしら?」

「!?」

「純粋ゆえに、すぐオトナに唆され、利用される。

大方、ヤタガラスの追っていたのは暴走するヨルムガンドもしくは元素の鍵に関係しているとでも言われたんじゃない?」

「そ、そんなこと。」

「違うのかしら?」


元々、マツリ、いや賢者グレイベアードは群れをなさない孤独な魔法使いだ。


ヨルムガンドを追ったのはマツリ自身の意思。そして、ヤタガラスの意思を継ぐ。事の発端は間違っていない。元素の鍵はあくまでもついで。

そう言い聞かせていたはずだ。


パンディットの言う通り、これまでの経緯、理科世界管理局がヤタガラスに下した内容が非公開の任務。

そちらへの不信感もマツリは捨てることは出来なかった。


「・・・確かに、あのお姉さんや理科世界管理局を完全に信用することは出来ないのかもしれません。


ですが・・・・・・


裏でコソコソする貴方よりは、ずっとマシです!!」

マツリの発した強い言葉でパンディットは、

「あーら。

・・・残念ね。」

不敵な笑みを浮かべてそう言った。


「隠していてもそこの火の鳥には感づかれているでしょうから、見せておくわ。」

手のひらには元素の鍵がある。

ヨルムガンドから回収した10族の鍵だ。

「その鍵で何をするつもりなのですか?!」

「実験よ、実験。私も“賢者”だから。」

その言葉でマツリの不信感がより一層増す。

届きはしないが、反射的に伸びていたマツリの腕に反応して、

「おっと。あげないわよ。」

鍵を握りこぶしに隠して引っ込めた。

「この鍵が欲しいのなら、取りにおいでなさいな。

私の正体にはそろそろ察しがついているでしょう?」

パンディットは雨上がりの夕日をバックに逆光を作り、街の雑踏に姿を消す。ちょうどその時、街の中心部からは花火のような大きな爆発音が聞こえていた。

物理教の催し物だ。


ーーー

一歩も動けなかったマツリは、パンディットのいた方向をじっと見つめ、握り拳を作って、

「やはり、パンディットなんですか?」

俯きがちに呟いた。

言葉の意味を補足すると、ヤタガラスとヨルムガンドを暴走に至らしめた元凶が。という意味である。


「そんなの、最初からわかっていたことでしょ。

薄っぺらい、ぽっと出のラスボスなんて、たいした奴じゃない。

だから、あのオバサマは、ちょっと手強いかもね。」



賢者は仮面で顔を隠す。

パンディットは自分の正体がそろそろわかっている頃だと言ったが・・・。実はそうではない。

賢者としての契約過程を知られている、またその後、魔法少女となり仮面を外したマツリは、パンディットから顔を認識されている。

しかし、マツリたちの方からは、素顔を晒していない賢者パンディットの一般市民としての姿を未だ認識出来ずにいた。


つづく

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