1-4 ヤタガラス編3

ーーー

「私はマジカルマヂカ。」

倒れている少女に手を差し伸べて、私はそう名乗った。

「・・・。

本当に魔法少女なのですか?・・・その歳で。」

「うぐぐっ。

いろいろあってね。これでも今は賢者よ。」

この辺は話すと長いので気になる方は前回の物語を参照してほしい。

「いろいろ、ですか。

でも、マジカルを名乗っているのに賢者というのは法則としてありうるのだろうか、しかし、それはつまり・・・ブツブツ。」

小声で何やらブツブツと独り言をつぶやく少女の言葉はそのほとんどが聞き取れなかった。

まぁ良い。話を進めよう。

「私は理科世界管理局の任務で紛失している元素の鍵の回収をしているんだけど、今の召喚獣は暴走していたわよね。」

「・・・はい。ですから、私が正常化を図ろうとしていました。」

それで返り討ちにあったというわけか。


「相手は空を飛ぶし、強力なかぎ爪は三本、加えて元素の鍵もあるとなれば・・・。

勝算はありそうなの?

貴方のチカラは身体能力向上系の生物学みたいだけど。」

私がそう言うと少女は少し顔をしかめた。この問いかけに何か気に入らない点があったということだ。

「倒す以外の方法を思いつこうとは思わないんですか?」

「えっ?」

言われてみて初めて、私はこれまでの暴走した召喚獣を打ち払うことで乗り越えてきたことに気がついた。

戦う以外の選択肢を最初から排除している。科学はあらゆる選択肢を可能にするためにあるのに・・・。


「ヤタガラスは意図的に暴走させられており、問題点を取り除くことによって正常化が可能。私はそう考えています。」

「えっ?」

正常化、どういう意味だろう?

暴走した召喚獣は撃破すると魔法力を失い、理科世界で眠りにつくはずだ。そのまま正常化するという事例など私は知らない。

いや、撃破する以外の特殊な例でいうなら、私は二件知っている。


一つ目は魔法少女の契約状態で、召喚獣と契約者が共に暴走してしまった状態。この状態は無制限に理科(魔法)を現実世界に流し続ける最も憂慮される事態であり、管理局による強制的な魔法契約の解除【処分】が実行される。

処分を行うと契約者は意識不明。召喚獣は封印される。

処分後の両名の回復方法などは依然として判明していないらしい。よって、この方法は正常化したとは呼べないだろう。


二つ目は単独で暴走状態の召喚獣に対して無理やり魔法契約をして、使い魔とする方法だ。かなり強引なやり方で、この場合は契約をする者にかなりの負担がある。私はかつてこの方法で暴走した召喚獣を正常化することに成功しているが、それには潤沢な魔法の素質を持った契約者となる人間が必要である。

見たところ、少女はすでに理科のチカラを保有しているので、別途ヤタガラスと契約する人物が必要になると思うのだが・・・うーむ。

「やっぱり無理だよ。」

「・・・もう、良いです。」


闇夜を明るく照らしていた満月に、入道雲の切れ端が横切り、地面に影を作る。まるで、話に区切りをつけるように。



「そういえばあなた、名前は?」

いまさらだけど。

「・・・。」

少女は俯いたまま何も答えなかった。

「助けてあげたんだから、名前くらい名乗ってくれても・・・。」

「助け・・・ですか?

そんなもの、私は頼んでいないです!」

「な!」

「それどころか貴方のせいでヤタガラスには逃げられました。おびき出すのに一週間もかかったのに。

むしろ迷惑しています。」

なにこの子、顔は可愛いのに・・・

「可愛くない。」

「ヤタガラスは私の事案です。元素の鍵を回収したらきちんと管理局へ返還しますから、もう構わないで下さい!」

そういうと少女は布の仮面を一枚被り、私に背を向けた。仮面の表情は、怒を現すものだった。

「あぁーそうですか!お邪魔しましたっ!!」

声を荒げて言ってみるが、少女はこちらを振り向くどころか何のリアクションもせずスタスタと行ってしまった。

感じ悪い。


ここまでの顛末を黙って見ていた化け猫が顔を覗かせる。

「あーあ。怒らせちゃった。」

「何なのよ、まったく。」

「ヤタガラスとあの子の事情だね。」

「どういうことよ?」

「一方的なモノの考え方の押し付けは良くない。常識を常識と思ってはいけない。

科学の基本でしょ?」

「・・・。」

もっともらしいこと言うぐらいならアンタ、会話に参加しなさいよ。

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