1-5 ヤタガラス編4

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数日後の講義。内容は薬品の基礎概論。

私は実験で同じ班だった子(キャンパスメイト)の一人から、例の飛び級生を紹介された。

飛び級生はもちろん、御察しの通り・・・。

「天才少女、花園茉理ちゃんよ。」

興味無さそうにこちらをチラリと確認するだけの素ぶりを見せる。天才にありがちな、世間を冷めた目で見てしまうアレだ。だが、茉理ちゃんは私を見ると驚いた様子で目を見開いた。

「・・・あの時の。」

「ど、どうも。橘春化です。」

間違いない。変面の魔法使いはこの子なのだ。

「茉理ちゃんはね、理科だけこっちで受講してる飛び級生で、帰国子女で、バレエ習ってて、小ちゃくて、可愛いんだよー。」

「いや、最後の方のやつ、あんたの主観入ってない?」

「でも、事実だ!」

自分のことではないというのに、大きくもない胸を張ってそんなことを言う。


天才少女、花園茉理。

中学生と言っていたが、思った以上に身体は小さく、また痩せている。これは生物魔法を使用することの弊害だろう。(生物魔法には自身の成長などに必要な栄養素などを使用して瞬間的に身体能力を向上させる。

成長の止まった成人であれば体内に蓄えたエネルギー源である脂肪を使用するので究極のダイエット法と言えるが、成長期の魔法少女には大きな負担となるのである。)

白いレースをあしらった小さなリボン付きのカッターシャツと黒いプリーツスカートは付属校の制服である。そんな制服以上に、彼女の幼さを際立たせているのは童顔である顔立ちだ。丸顔で顎、鼻が小さく肌は色白。

本人もそれを理解しているようで、その幼さをリカバーする意味合いのまっすぐな長い黒髪が特徴的だった。私は少し癖っ毛なので羨ましい。


ジロジロと観察する私に対して、向こうも同じように“値踏み”をしている。


こちらの使い魔がケットシーであることは知られているが、私はこの子の魔法使いとしての情報をまだほとんど知らない。

なので、

「ねぇ、茉理ちゃん。この後、一緒に食堂行かない?」

こちらからアプローチをかけてみる。

「いえ、午後は中等部の方で授業もありますから付属校へ戻って給食をいただきます。」

あ、給食か。中学生だもんね。


茉理ちゃんはササっと勉強道具一式を学生カバンにしまい込むと背中に担いで、教室を出て行ってしまった。

「可愛げの無い子だよね。」

「何言っているの?あのツンデレ具合が絶妙なんじゃない!!」

「いや、ツンデレって・・・。

デレの要素、今のところ無いんじゃない?

どっちかと言うと、しっかり者の優等生って感じだけど。」

「・・・・・・それも良いわね。」

「・・・。」



その後、バイトがあるというこのキャンパスメイトとも別れ、私は一人帰路に着いた。


『ヤタガラスは私の事案です。元素の鍵を回収したらきちんと管理局へ返還しますから、もう構わないで下さい!』

『あぁーそうですか!お邪魔しましたっ!!』

ああは言ったが、暴走したヤタガラスを放置するわけにはいかない。


「春化。ヤタガラスの件は、どうするつもりなの?」

リュックから顔を出したケットシーが言う。ヤタガラスのことはワイズマンの調査の件からは外れており、本来であれば管理局の“専門家たち”に任されている事案だろう。それなのに専門家たちを見かけなかった。これは管理局がヤタガラスを感知していないか、あの子が管理局に許可を得ているかのどちらかだ。


「ケットシー。ちょっと、カトブレパスに連絡とってくれる?」

「・・・良いけど。マジデに協力してもらうの?」

マジデとはこの街にいるもう一人の魔法少女。

その使い魔が一つ目の牛、化け猫よりもよっぽど役に立つ召喚獣カトブレパスなのである。

「いいえ。極力、あの子に負担はかけたくない。」

魔法少女の仕事が日々の生活に支障をきたす。

テストの結果というはっきりとした残酷な形で。大学生活の私なんかよりも高校生のあの子の方がダイレクトに反映される。だから使い魔のカトブレパスにだけ、協力を仰ぐのである。

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