0章 前回のあらすじと今回の起点2
バカな。
事件の首謀者の一人、ワイズマンは使い魔カーバンクルとの契約を解除され魔法に関する記憶を消されて単なる一般人となり、その行動は影ながら理科世界の管理局に監視されているはずだ。
だから、これはただ単に【東洋の猿面を付けた蒼いマントの人物】が写真に写り込んでいるに過ぎない。
「いや、それは結構無理があるでしょ。」
もちろんそんな偶然、あろうはずもない。
なら重要なのはこの写真がいつのものなのか、ということだ。ワイズマンがまだ健在の時の写真であれば、なんら不思議ではないのだから。
「ちなみにこの写真は昨日、撮ったものだよ。」
「むっ・・・。」
一応解説しておくと、使い魔であるこの化け猫、ケットシーは私の考えていることをある程度、思念で読み取ることが出来る。先程からケットシーがモノローグと会話しているのはそういう理由がある。ただ悔しいことに、私はこいつの考えを読み取ることは出来ないが。
っていうか、猫がどうやってカメラを使ったというの?
まぁ、写真の出どころなどどうでも良いか。
「それでぇ?ワイズマンが活動を開始したかもしれないから私に確認に行ってこい、と?」
「そうだよ。
あと出来れば、この写真の真相も探ってほしい。」
「嫌よ。面倒臭い。」
私は即答した。
「何でさ?!」
「最悪の場合、ワイズマンと戦闘になるし、元素の鍵を持っていても管理局に即時回収されて、使用には制限がある。
そんな任務。
リスクはあるけど、メリットはほとんどゼロじゃない。」
現在、私は化学使い、錬金術師としての能力を制限されている。微弱な上に制限がかけられている魔法使い・・・。本当に魔法使いなのだろうかとたまに疑いたくなる。
「また、お金の話?ホント、浅ましい。」
「うるさい。
自分は純粋です、みたいな言い方するんじゃないわよ。どうせアンタも管理局への労働奉仕とかでしょーが。」
この化け猫が正義感で動くわけがない。
「いいだろ別に。」
当たりだ。
「理由はどうあれ、僕の行動は世界平和のためだよ。」
「物は言いようね。全く。」
「じゃあ一応、私の見解を言うわ。
昨日、教授の講義を受けたけど、魔法的な何かを思い出している素ぶりとかは何も無かったわよ。ちなみに教授の講義は来週までない。
それにそもそも、そういう五感で感じるヤツって私、得意じゃないし。随時監視している専門家に聞いたら良いじゃないの?」
どうしてわざわざ私にそんなことを頼む必要があるのか?この時の私はそんな深い部分を考えていなかった。
だいたい、この化け猫から得られる情報はいつも肝心な部分が不足している。
「報告では、変化なしなんだよ。」
「じゃあ問題なしなんじゃ無い?」
変化なしと問題なしはイコールではないかもしれないが。
「いやだから、そうなるとあの写真に説明が・・・。」
「・・・はぁ、しょうがないわねぇ。
やってあげるわよ。」
もうほとんど下船しているが、乗りかかった船ではある。あの写真や、事件の顛末が気にならない訳でもないし。
「ところでさっきの夢もあんたの仕業?」
「夢?何のこと?」
私の使い魔ケットシーの特殊能力、ルナティックレインは幻覚の魔法だが、それは視覚を奪うというもので夢への介入など出来るものではない。それは理解しているつもりだけど。
夢の中で私に呼びかけてくるアイツはケットシーではない。いったい誰なのだろうか?
「いいえ。こっちの話。」
ざっと、ここまでの経緯と状況を踏まえて物語を初めてみたが、皆さんはご理解いただけただろうか。要約すると、私の任務は写真の人物が誰で、真相はどうなっているのかを突き止めること。
まぁワイズマンの正体はわかっているわけだし、簡単な任務だ。
そこまでを確認したところでケータイのアラームが時を告げる。
「あ、ヤバイ。もう時間だわ。」
「えっ?!ちょっと、まだ話は終わってないよ。」
「今日、実験講習の日なの。詳しい話は後で聞くから、ホラ。」
私はそう言って、いつもケットシーを入れていた大きめのリュックサックを開いた。
「世界の命運をかけた仕事を片手間にやるなんて・・・。」
「はいはい。」
ケットシーをリュックに押し込み顔だけ出した状態にする。
「春化には自覚が足りないんだと思う。」
「何も、やらないって言ってるワケじゃないでしょ。文句言わない。」
「まったくもー。」
コーヒーを飲み干して流し台におくと、
リュックサックを背負い、私は普通の大学生活を送るこの玄関に鍵をかけた。
そして、私、橘春化の魔法使いとしての新たな物語が幕を開けたのだった。
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