2.FOOL'S MATE
演奏が終わった。拍手もそこそこに、俺はステージ裏へと向かう。
「あ、おい!」
ゴイが止めようと声をかけてくるが、俺は歩みを止めない。
いた。
ラディコ、といっただろうか、エルフのギタリストがステージ上の片付けも程々に、ギグバック(元の世界で見たものと殆ど変わらない)を背負って帰ろうとしている。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
「? 誰だよ」
ガラが悪い。エルフ特有の金髪も相まってヤンキーみたいだ。
「いや、悪い。どうしても声を掛けたくてな」
「ナンパなら間に合ってるよ」
「そうじゃないんだ。……ステージ、本当に良かったよ。カッコ良かった」
俺がそう言うと、ラディコは軽く驚いたような表情を返した。
「珍しいな。みんな、俺のギターは騒音みたいだとか、適当弾いてんじゃねえとか、散々なのに」
「そうなのか?」
「ああ、残念ながらそういう声も多いな」
俺は好きだが、と遅れて付いてきたゴイが返事する。
「でもま、良かったよ。最後に俺のファンに、それも二人も会えたんだからな」
「待ってくれ」
一息ついて、準備していた台詞を言う。――きっと、この言葉が、俺達の人生を変える。
「俺んとこ来ないか」
「は?」
「ラディコ、お前は本当にカッコ良かった。一目惚れだ。このまま別れたくない。俺と一緒に来てくれ」
「なっ」
なぜか赤面するラディコに構わず、最後まで続ける。
「バンドやろうぜ」
沈黙があった。確かに、すぐに決断できるものではないだろう。
「……それは、人間の言葉でいうところのプロポーズ、なのか?」
「は?」
何か、致命的なズレがある。
「バンド……楽団、の方が通じるのか? とにかく、俺はお前とやりたいんだ」
そう付け足すと、さっきまで赤面していたはずのラディコが俺をにらんでいた。
「てめえ、紛らわしい言い方してんじゃねえ!」
ヤンキーみたいな怒り方はやめてくれ。怖い。
「よくわからんが怒るな。綺麗な顔が台無しだぞ」
「……なんなんだコイツ」
俺に直接言っても無駄だと思ったのか、ゴイにその矛先を向ける。とはいえ、ゴイも俺のことは拾ったばかりで何も知らないわけで、「さあ?」としか返さなかった。
「俺は……一度、死んだんだ」
あの夜、元の世界でのことを思い出す。
「憧れをひとつ、それも一番大きなやつを失って、俺は死んだ。彷徨って、気付いたらこの近くの森で倒れていた」
これは本音だ。心からの。
「ゴイに拾われて一命を取り留め、流されるままにここに来て、ステージを観た。ラギーナというか、俺にとっては、ラディコのステージを、だ」
二人は俺の話を黙って聴いている。
「何をすればいいのか、何がしたいのか、何が出来るのか。見失っていたし、あのままだと自暴自棄になってもおかしくなかった。だけど」
「……それが、楽団だって?」
「そうだ。お前と、いや、お前をスターにするのが俺の役目だと思ったんだ」
俺は手を差し出す。――この世界でも、握手は信頼の証だと信じて。
「俺と来てくれ」
「……ま、他に行くあてがあるわけでもねえしな」
俺の手を握り返したのは思ったより華奢な手で、あまりギタリストという感じでもないな、ということを思ったりした。
「いや、おい」
と、綺麗に話がまとまりかけたところでゴイが混ざってくる。
「……その話、俺は入ってないのか?」
「ん、ああ、お前も来るか」
「お前も、ってなあ……これでも、ズロロ族一の太鼓の名手なんだぞ俺は」
ああ、なんとなくわかる。こいつドラマーって感じの見た目してるもんな。いや雷様でなく。
「でもいいのか、長旅をすることになるぞ。まずは……」
そこまで言って、そういや具体的にどうするか決めていなかったなと思い至る。
「ラディコ、そのギターはどこで手に入れたんだ?」
「ん、コイツか? 師匠のお下がりだな。確かデージマのものだったと思う」
なんとなくそんな気はしていたが、やっぱりそうか。
「……まずはデージマだ。楽器を揃える」
ゴイは少しだけ考える素振りをして、「わかった、デージマだな?」と確認してきた。
「俺は一度家に帰って支度をしてくる。旅の許可も取ってくるから、先に行っててくれ。そうだな……『灰色の銀貨亭』という宿屋があるから、そこで待ち合わせよう」
「わかった」
俺は異存なく頷いたのだが、ラディコは再び赤面していた。
「……てことは俺、しばらくコイツと二人で旅するのか……?」
忙しいやつだ。
【連載凍結中】美形に転生したので異世界でヴィジュアル系バンドを組むことにしました 黒岡衛星 @crouka
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