携帯のない生活ってどう思う。
俺はいつもの帰り道いつもと同じ面子で歩いていた。
まぁ、面子といって合計2人横に歩くのは残念なイケメン小野寺抗一だ。俺は少し調べたい物があり、携帯を右手に持って左手はポケットに入れながら歩いていた。対して小野寺というと携帯も触らず俺の隣を歩くだけだった。
学校から駅まで歩く間の約半分はそうしていただろうか、とうとう耐えきれなくなったのだろうか、小野寺が口を開いた。
「せんせーーーーーー、椎名君が携帯を触って喋ってくれませーーーーん」
俺は顔をあげ先生らしき人を探したが周りに歩くは同じく下校中の生徒だけ。こいつは何を言っているのやらと思いながら、いつも通りシカトをかまして歩いていると、急に小野寺が質問をふっかけてきた。
「なにを調べているんだい、ワトソン君」
なんかこの前も聞いたけどそのワトソン君ってなんだよ、と思いつつもさすがに無視もできないので適当に答える。
「地理の宿題でわからないところがあって、それ調べてる」
「携帯で、かい」
「携帯で、だよ」
「携帯で」
「うん、携帯で」
「んもーーー、現代っ子なんだから。教科書をよく見なさい。すぐに調べるんだから」
「いやお前も現代っ子だろ」
「細かいことはいいのなんの」
「使い道おかしいだろ」
「だから、細かいことはいいのよ」
男性でも女性でもない方々のような特徴のしゃべり方が気になったがそれこそ細かいのでスルー、俺はこいつより細かいことがおおざっぱな人間はいないと思う。
「なんなんだよ、すぐに調べることはいいことだろう」
「確かにいいことかもしれないわ、だけど今回の宿題で調べなければいけないことなんて無かったのよ。全部教科書をみたらわかる程度だったわ」
「え、まじかよ。結構読んだんだけどな。どこに載ってたの。後、そのしゃべり方いい加減にやめないか」
「仕方ないなー、君は教科書よく読んだって言ってるけど、本当によく読んだのかい」
「あぁ読んだとも、今日やった4ページところくまなくな」
「あーもう、全然だめだよ。そんなんじゃよく読んだに入らないぜ。よくみてごらんなさい、ここにリンクっていうマークがあるだろう、このリンクに書かれてあるページもしっかりとおさえないといけないよ。で、ほらリンクのページにとんだら、君のわかっていないところの答えが載っているでしょう」
「うっわ、本当だ。さすがに頭がいいだけあるな。気にくわないけど」
「気にくわないとはなんぞ、後これは別に頭がいいとか関係ないよ。教科書をしっているかしっていないかだよ。そしてなぜ君が教科書をしっていないかはね、ずばり、
すぐに調べているかだからよ」
「意味がわからん、すぐに調べているからってなんでだよ」
「だってそうじゃないか、君はわからないから教科書をよく見たと言っていたけど実際よく見れていなかったよね、まぁ、言ってみれば詰めが甘いわけだよ。すぐに携帯で調べられてそれに頼ってしまうから」
「なんだか説教されてるみたいだ。それも同じように携帯を触る人に携帯を触っていることに」
「そうだけど、あれだよ、もうちょっとアナログに頼ってみるのもいいんじゃないかなって。まぁそう言いたいわけだよ」
「アナログに頼るねぇ、もうこれになれちまってるしなぁ」
そう言いながら俺は携帯の画面を小野寺に向けた。
「じゃぁさ、一回考えてみよう、携帯のない生活をさ。携帯のない生活ってどう思うかなって考えてみるんだ。またおもしろいことがわかるかもしれない」
「ふむ携帯のない生活を考えるねぇ、確かに良い機会かもしれないし、あそこに向かうか」
今回はすんなりとトイレもウィトレスさんもきれいなファミレスへとむかった。いつも通り席に着き、いつもドリンクバーで居座ってすまないねと思いながらドリンクバーを頼む。
「さて、携帯のない生活だが、やっぱり難しいな、あまりにも今の俺たちの生活に自然的に入り込んでいて無いという状態を考えるのが難しすぎる」
「んー確かにねー、それは僕も同じかな。自分で言っておいてなんだけど難しいな」
「一回本気で失せば早いのかもな」
そう少し冗談っぽくいってみたら、小野寺は爽やかな笑顔でこう答える。
「たしかに、一回失せば早そうだけど、できっこないね。失せば流石に焦るよ」
「人によっては気絶しそうだな」
そんな冗談を言い合っているが、本当に難しい。今俺たちが携帯の無い状態を考えるのは正直至難の業といって良い。二人して考え込んでしまった。こんなことは初めてで、いつになく静かな二人をウェイトレスさんは心配そうに見つめるのだった。
その後も色々な方法を思いつくが今すぐに実践できるようなことはなく、とうとう小野寺がトイレに行く時間まできてしまった。いつもは話し合いも終盤という時の一番良いときに行くあいつがまだほとんど何も起きていない今行ったのだ。
これは深刻だ。
あいつがトイレの間も色々考えたがなぜかここにきてトイレが綺麗ということだけが頭を巡り、一度リセットするためにコーヒーを一口飲んだところで思いついた。
俺は天才かもしれない。
「うにょーーーー」
「えっ、怖っ。えっ、急にどうした。怖っ」
小野寺が帰ってきて何かを言うのは予想できていて、小野寺の姿が見えたときにはつっこむ準備はできていたのだがあまりにも奇異的なその言動に腰が抜けて立つこともできなかった。
「思いついたよ。椎名君」
「あ、あぁ、それでそんな声を出していたのか」
流石について行けない。
「そっちはどうだい何か思いついたかい」
「甘く見んじゃねえよ、実は俺も思いついた」「僕はね~」
「「携帯をまだ持って無かった時期を思い出す」」
「うわ、そこかぶるかよ。気持ち悪。後、聞いてすぐに喋るんじゃねえよ」
「酷い、そこは同じことを考えたうれしさに浸ろうじゃないか」
嫌に決まっているだろうと思いつつ、こいつのこういう話題に対応するのは時間の無駄なので何も言わない。その代わり侮蔑を表す顔をして、きっちり話しを進める。
「まぁお前も一緒のように考えていたから説明もいらないと思うが、俺は中学に入るまで携帯をもっていなかったから小学生の時のこと考えたら何かつかめるかもしれないと思ってな」
「僕もそうだね。小学生時代を考えると何かわかると思ったんだ」
小学校の頃は親は勿論携帯をもっていたが、俺は無いのがあたりまえだった。今とは真逆の状態でよく生きてこられた物だ。ふむ、そう考えると……
「恐ろしい物だな、携帯は」
そうつぶやいていた。
あまり小さな声でもなかったので小野寺にも聞こえたらしくこの言葉の真意に興味ありげな顔をしてこちらを見ている。
「そんな目で見るな、気持ちが悪い」
「なんだか今日は一段と酷いね、まぁいいけど、むしろご褒美さ」
「…………あぁまぁ恐ろしいというのはな、小学校の頃は無いのが当たり前だった携帯が今ではあるのが当たり前になっているって言うのがさ、具体的な理由はないのだが、そう、なんだろうな、感覚的にそれはもしかしたら恐ろしいことなのではと思ってな」
小野寺の反応にかなり戸惑ったがなんとか気を確かに持つことと無視することに成功した。そして恐ろしいと感じた訳も一応説明できた。
よくやった、俺。
「うーん、確かにね、言ってることは本当にわからなくもないね。完璧に賛同できるわけでもなく、ありえないとつっけかえすことも無い。まさにわからなくもない。小学校の頃の当たり前と今の当たり前って日常生活では大差ないのに、携帯という物は違和感無く確実に日常生活の核に入り込んでいるね。まるで時を要さない細胞内共生だね」
そう会話していく中で、小学校の頃の感覚をより取り戻ていくことにより、携帯が無くなったらということを現時点の状態でもかなり想像しやすくなっていき、ファーストインスピレーションの恐ろしいという感覚を軸に俺は携帯との向き合い方も考え始めていた。
「今急に携帯が無くなっていたらという話しに戻るんだが、実はこれは一番はじめに話したとおりなんだろうな」
小野寺が首をかしげたのでしっかりと説明する。
「最初俺たちは携帯が無くなったらどうなるか、想像できないっていったよな、まさにそうなんじゃないかってな。そこから携帯のない状態を想像するために携帯の無かった時を思い出した。当時の頃を思い出していくとたぶんお前もだと思うが、かなり想像しやすくなっただろう、今の時点で携帯が無くなったらどうなるか」
「そうか、なるほどね。想像でき無いほど不安になる。最初から想像できていなかったもんね。想像できないことを想像しただけで結果的には何も変わらないね」
「しかしまぁ、結果はかわらずとも俺たちは携帯という存在を初めて意識するこができたからこれは大きいことじゃないか。携帯が当たり前になりすぎているが、携帯にも貴重だった頃がある」
「そうだね、今でこそ携帯を持っていない人の方が少ないけど、一昔前は違った、これって今がその一昔前になっても同じかもしれないということを示唆しているのかもしれないね」
「そうだな、確かいまじゃ、携帯のように一人が一人のロボットを持つようになるとかいわれているんだもんな。その時代が来る前に今一度携帯について向き合った方が良いはずだ」
「携帯と向き合うなんて普通に考えれば本当にばからしい話しだけど、当たり前と向き合うって結構大切だもんね。携帯だけに限らずだけど、言ってみれば、今の日本が表面上平和って言うことをどれだけ幸せに感じられるかとかもっぱりこの平和とどれだけ向き合っているかで変わるもんだしね」
「何かと向き合うだけで何かの価値は確実に変わってくるものだな、大きくても小さくても。携帯も扱い方が大切だな、もっと上手に扱わないといつか携帯を使っているはずが携帯に使われているような、そんなことが起こっても仕方ない気がしてきた」
「はー今日はなんだか真面目に考えすぎておなかすいちゃったよー、よし、牡蠣フライ定食一つお願いします」
「あ、ずるいぞ、つーかよくそんな金あるな俺は……ミニサラダ一つ…………」
持ち合わせの少なさに絶望しつつおなかをすこしでも満たそうとミニサラダを頼むのだった。
「なぁ牡蠣フライ一つくれないか」
「じゃぁ僕のこと大好きって言ってくれたら良いよ」
小野寺は偶に意地悪なことを言う、もしかしたら本当に言ってほしいだけかもしれないがそこは、まあ、おいといて。
「マジで勘弁してください。ミニサラダで我慢します」
こいつに大好きですというくらいならウェイトレスさんには失礼だがウェイトレスさんに急に告白する方がましだ。
やってきたミニサラダは意外と量が多くて夕飯までの戦力としては十分だった。
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