なぜパンツを履くのだろうか。

 それはつもの帰り道のこと、俺は小野寺と他愛ない会話をしながら歩いている。男子二人で話していたら自然と猥的な話しになるものであり、それは俺と小野寺でも例外ではない。しかし、一つだけ世間とは違うところがある。それはそういう話しを振ってくるのはいつも小野寺であるということだ。


 まぁ小野寺に比べてまだ子供なだけで少し恥ずかしいのかもしれないが。


「なあおい、話し聞いてるのかよ」

 どうやら一人で考えすぎていたようで、小野寺に注意されてしまう。


「あぁ、すまん考え事をしていた。正直なにもきいていなかったよ」


 まぁ普段から小野寺の話しはあまり聞いていないのでさほど罪悪感のない調子で謝罪の言葉を述べる。罪悪感のなさにきづいたのだろう小野寺は少し落ち込んだ様子だったがすぐに元気を取り戻しこう言うのだ。


「はっはーん、お前さんも男だねぇ、あれだろ、あれ、どうせ、あれなんだろ。エッチなこと考えていたんだろう。いいさいいさ皆まで言うなわかるよー、わかるとも、なぜなら私も男子だもの。なーに恥ずかしがることはないさ。それにしても君がねぇ、いつもあまりエロスなはなしを振ってこないということは、さてはむっつりだな。むっつり。こんのむっつりスケベめ」


 いやー、うざい。かつてここまでうっとうしい彼がいただろうか、結構あるな。まぁ常時うざいがそれはおいといて、ほんとにうざいな。たぶん今顔に、うざいんだよてめぇ、って書いてあるに違いない。


「いやん、そんな顔しないで、かわいいお顔が台無しよ」


 そんなこと言われたらもっとひどい顔になるだろうがと思いつつも俺は小野寺に向けてこう言う。


「やめてくれ、マジできもい。あとさっきからうっとうしいったらありゃしないんだ。そろそろきれてもおかしくない」


「まったく君はおっかないな……わかったよ、やめるからさ、何考えていたか教えてよ。ふふふ、あれだろ前に歩く女の子みてなぜパンツを履くのだろうとか思ってたんだろうけど」


「いやお前、やめる気ないだろう。あとそんなこと考えねえよ、そもそもスカート履いてるからパンツ履いてるかどうかもわからんのになぜパンツのことを考えるんだよ。それだったらまずは、なぜズボンやスカートを履くか考えるだろ」


「なるほど、じゃぁなぜズボンやスカートを履くかを考えていたわけだ。違うか」


「違うよ」


「違うのか」


「うん」


 なぜかしばらく沈黙が続く。なんだかこんなこと前にもあったような気がしてならないが、話しを続ける。


「なぁ小野寺、そんなに、俺とズボンやスカートを履くのかを話したいのか」


 なんだこの質問は、と後から思ったのだが賽は投げられたとはこのことだろう。


「したいね」


 回答にかかる時間は3秒もない、下手したら1秒もあるかどうかだろう。


「即答だな……。はぁわかったよそれじゃ行くか、久々に」


「そうだな、思えば最近あまり行ってなかったな。いい機会だし、いっぱい話し合おうぜ」


 そう二人で目を合わせてから歩き出す。俺は仕方ないなという風な仕草をしているが実を言うとまんざらでもない。こいつと話しあいをするのは久々だし、なにより楽しいからである。


 こいつとほぼ毎日話しあいをしないわけはファミレスが少し遠回りだからという点が大きい。たしかに遠くないしむしろ近いのだが男子高校生ってたいていめんどくさがりだろ。


 あと家が好き。


 そんなわけでネタができても行かないことがある。まぁ今回のようにすげえしょうもないネタでも気分がのればファミレスにいったりするのだが。


 学校から駅までが歩いて10分。駅からそのファミレスまでが歩いて5分だ。そう、駅についてから5分歩くのが億劫でしかたがないのである。

 だが今日は違う。二人の気分が合致したことにより足取りは軽いと思われたのだが…………


「うっわ、帰りたい」


 小野寺が絶対に言ってはいけないことを言うのだ。


「お前、それいっちゃならんだろ、てかさっき即答したのはどこのどいつだよ」


「は、しらね、ヨーロッパらへんじゃあねえの」


「それはドイツだろうが」


 帰りたいとかいいながらも足は止めずにそんな会話をしていたのでそうこうしているうちに俺たちはちゃっかりファミレスについて、とりあえずドリンクバーを頼み、いよいよ本題に突入する。


「さて、ここのウェイトレスがなぜこんなにかわいいかだったっけ」


「お前の脳の中でどんな改竄がおこったらその話題にすり替えられるんだよ。お前が話したいっていったんだろ。えっと確か、そうだ。なぜズボンやスカートを履くのか。だろ」


「そうだ、そうだ、よく覚えていたな、やっぱり君はむっつりなのだね」


「どうしてそうなるよ、お前より記憶力がいいだけだ」


「ほう、言ってくれるね、僕よりテストの点はぁ……低いというのに」


「うっ、それはそれ、これはこれだよ」


 そう、小野寺はこうみえて頭がいいそしてさわやかな笑顔も持っていて男女関係なく意外と人気がある。まぁこの通りうっとうしいのが玉に瑕なわけだが。


「まぁ、いいだろう。今回は大目に見てやろう、次はないからな次は」


 いやまぁそもそも大目に見られるようなことも言ってないしあとお前口調安定しなさすぎだろ、と思うのだが口ににだすのも面倒なので俺は口には出さずそのまま話題を進める。


「とりあえず、お前の意見がききたい、なぜズボンやスカートを履くのか。まぁ俺は今回ふっかけられただけで意見という意見をもっていないからな、お前の意見を聞きながら考えるとするよ」


「ふむ……そうだね。僕の意見も大切だがそもそもなぜ服を着るかということを考えようじゃないか。一般的な、ね」


「あぁ、えっと寒さを和らげるためとかか」


「そうだね、寒さを和らげるのは大切だ。あとはやはり現代においてという点に限定されるがTPOをわきまえるべくというのが大きいな。TPOの中に寒さを和らげるというものももちろん入っている」


「あーTPOねお葬式にはお葬式の服とかも入ってるんだよな」


「さて、一般的な意味を考えたとこで、僕の意見を言いたいと思う」


「この前置きを踏まえたということは、もしや一般論とまんま同じとかないよな」


「そんなわけなかろう」


 いつの時代の人だよ、口調揃えてけー、と心の中でつぶやくが小野寺には聞こえるはずも無けりゃ、意思を読むこともないのでこちらのことなど気にせず話しを進める。


「一般論を踏まえたのは俺たちが度を過ぎない変態にならないためだ」


「そこは俺たちじゃなくて俺だけでいいぞ。無駄な気遣いアリガトウ」


「酷い、僕たち生まれる時は違えど捕まるときは同じだろ」


「やめてくれ、本当に怖い。おまえが事件を起こしたときにこいつも共犯です。とか俺の名前出されそうで怖い。まじでやめてくれ」


「あっはっは、そんなことするわけなかろう、言うんじゃないよ、やるんだよ。一緒にな」


 いやまじで、本当に怖い、こいつこんなやつだっけと思いつつも、よくよく考えたら話しあうときはいつもキャラが安定しなくて大体気持ち悪くなったりとにかく異常なんだったことを思い出して、なぜか少し落ち着く俺。


「君、今何か、失礼なことを考えたね。まぁよい。そろそろ僕の意見を話そうじゃないか」


「もう変なこと言わずにとっとと言ってくれ」


「君は知っているかい。チラリズムという言葉を」


「あ、もう言うことわかったんでそのくらいでいいです」


「ん、もう、イケズゥン」


 俺はこのとき初めて知ったのだ、青ざめるという感覚を。


「どうした、顔色が悪いではないか」


「てめぇのせいだろ……まったく……」


「僕がいったい何をしたっていうんだい、むしろ君の方が僕に酷い態度をとったではないか。あぁ、これが理不尽」


「あーもうわかったわかったからお前の意見の続き聞かせてくださいお願いしますー」


「もう仕方がないな。そこまで言うなら続けるよ。チラリズムってね。スカートを履いていたりしないと生まれないんだよ」


「うん、それは知ってる」


「じゃあわかるだろう、僕が言いたいことが。なぜズボンやスカートを履くのか……

 言わずもがな、この世の神秘のためさ」


「うっわ、きっもいな。でもそれだと、ズボンを履く理由にはならないんじゃないのか」


「まったくわかってないね、君は……そんなことだからいつまでたってもおこちゃまなのさ」


 かつてここまで小野寺に殺意を覚えたことがあっただろうか……∞回数くらいあったわ。


「ズボンにもチラリズムは存在するのだよ。わかるかい、ズボンにもチラリズムは存在する」


「ええい、二回も言わんで良いわ」


 どうやら、こいつにつられて俺も口調がおかしくなりなんだか古風な口調になる。


「そしてなによりズボンの種類によってはボデーラインが強調されナイスボデーがなんとも言えないエロスを湧き出させるのだよ。僕はねズボンの可能性も絶対に忘れたりしないし、スカートもズボンも大好きだ」


 全国の女性よ、聞いてくれ、変態から逃れられる服装なんてない。もちろん全裸もだめだ。だから変態と対峙したときは身を守ることと、逃げ切ることに専念してくれ。


「さらに言うと、このズボンとスカートの可能性にはパンツは欠かせないのだよ、ワトソン君」


 俺はいつからワトソン君になってお前はいったい何様だよと突っ込みたくなったが、ここは我慢。


「パンツがなけりゃチラリズムは存在しないなぜなならばチラリと見えないからである、パンツを履いていなければ見えるものがなくなってしまうのだよ」


「あれは、パンツがチラリ興奮しているのか。スカートの裏側、本来見えざる場所が見えて興奮していると思っていたのだが」


「ノンノンノン、確かにそれもある、しかしだね、それだとズボンのチラリズムについて説明がつかないのだよ、ズボンからはみ出すパンツの上側これもまごう事なきチラリズムなのさ、そうこのズボンのチラリズムにはパンツの上側という文言までついている。パンツがないと成立しないのだよ。このチラリズムは」


「なるほどな、これには俺も納得だな。よし、じゃぁチーズインハンバーグのAセットで」


「はああああああぁぁぁぁぁぁ、だからなぜ君は僕が話している時に注文をとるんだい、しかも僕のこの女性にはあまり聞かれたくない持論をウェイトレスさんにがっつりと聞かれてしまったじゃないか。もうお婿にいけない」


「いや、お前結構大きな声でしゃべっていたから俺が注文とるまでもなく聞こえていたと思うし、なにより、近くの客にはがっつり聞こえているよ」


「いやぁぁぁぁ我を忘れるとはこういうことか」


「まぁなんだ、ドンマイ」


「それでも注文はとらないでよ。恥ずかしさで死にそうだ。あぁここのウェイトレスさん可愛いのに」


「お前にも羞恥心ってやつがあるんだな」


「君って本当にSだよね。まぁ僕はM気があるから相性ぴったりだけどね。うふふ」


 まさか今日一日どころか10分たらずで青ざめるを二回も体験するとは思わなかったし、今回にいたっては吐きそうだ。


 そんなことを考えていると、小野寺が急にたつので何事かと思ったがトイレだった。例のきれいなトイレへと駆け込む姿を見て結構我慢していたんだなぁと思うと同時に我慢する意味が見いだせなかったのでなぜかそこで今日一番頭を悩ませることになった。


「お待たせリヌンティウス」


「何やねんそれっ」


 例のごとくこいつがトイレから帰ってきたときの台詞につっこみながら席をたってしまったが今日はソファっせきだったのでセルフ膝かっくんしても痛いことはなかったが、立つ座るの動作が倍速化してしまい、変な動きになって恥ずかしい。


「おいおい、お前は僕がトイレに行くとすぐトイレに行きたがるな。それにしては毎回トイレに行かないけど」


「だから、別にトイレに行きたいわけじゃねえよ、そろそろ普通にトイレから帰ってきてくれ、膝が悪くなりそうだ。とりあえず、お前の意見はあれでいいのか」


「そうだね、僕の意見はさっき言った通りさ、君は意見まとまったかな」


「んーそうだな。まずそもそもこのことについてまじめに考えていないのも大きい上に、一般論と違う意見を見出す理由もさほど感じない。だから今回に限ってはお前の意見をきくだけになりそうだが、一応チラリズムについて俺の意見を交えた質問もしたし許してくれよ。後、お前のチラリズムへの愛とそれによって成り立つなぜズボンやスカートを履くのか、そしてパンツを履く理由も十分に伝わった」


「ほう、君の意見はないということだね」


「まぁ、そうだな。でもこの案件についてしっかりと結論を俺はつけておきたい」


「君の意見がないのにかい」


「別に俺の意見は必要じゃないよ、一般論がある。一般論についてふまえたのは逮捕されないようにと君は言ったが、一般論だって意見だ。だから俺の考える意見はない、しかし俺はこの一般論を支持することによってこの一般論を俺の意見とする。一般論とお前の意見この二つでズボンやスカート、おまけにパンツを履く理由の案件に終止符をうちたい」


「なるほどな。君が言いたいことはわかった。しかしそれではあっとう的に一般論が有利であろう。理由は簡単、一般論なのだから」


「そうだな、普通に考えれば二つ物事があって、それがあたかも対立しているような関係を示せば競合させたくなるが。違う。俺はこの二つどちらも大切なのでは、と言いたいのだ」


「な、なるほど、君にしてはおもしろい判断を下したね」


「お前の意見は本当にいつも筋が通っている。俺に新しいチラリズムも教えてくれた。一般論だけだった俺には新しい世界が見えたきもした。今回は素直に褒めてやるよ」


「なんだか引っかかるがありがとうといっておこう。君が僕のような意見も大切だと思ってくれたのならうれしいよ」


「理由も言うとあれだ、チラリズムも言ってみれば攻めたファッションなのだろうし、ボディラインを強調させるのも服を利用したセックスアピールなのだろう。この時代、服の持つ意味が本当に多様なのがよくわかったよ。服のダイバーシティについて考えてみるのもおもしろそうだね」


「まぁ、僕は生まれた姿の女性も大好きだけどね」


「俺の結論台無しにしてんじゃねえよ」


「まぁまぁ、さて帰ろうか」


 こうして今日の俺と小野寺の話あいは無事にといっていいのかわからないが終わり会計を済ませようとしたら

「お客様大変申し訳ありませんが店内ではもう少しお静かにご談笑ください」

 こう言われてしまった。


 何事もあったや。


 今度からはこう言われないような話題とボリュームで話そう、そう思った。

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