男子高校生が喋る。

大宮 真晴

型って必要なのだろうか

「なぁ小野寺、俺は不思議に思うんだよ。この世における型の存在に」


 俺は、いつも通り小野寺と帰っている途中にそんな事を小野寺に投げかる。なぜこんな内容の質問が出たかはわからないが、世間話がキリの良い所にきてしまってパタリと会話がやんだときに、俺はその沈黙が嫌になり、とりあえず会話と会話の繋になれば

 と思って咄嗟に出た言葉がそれだった。


「急にどうしたんだよ、型って言うと何だ」


 急にそんな事を言われれば戸惑うに決まっている。小野寺は「型」を繰り返しうんうんと唸っている。多分俺も、小野寺から同じ質問を投げつけられたら、小野寺のような反応をするだろう。


「あー、すまん。なんて言えばいいのかな。そうだな、例えば、人生における型。

 あるだろう、ある程度の型がさ。その型にはまらなかったら親不孝だと思われたりさ、とにかくあまり良くは思われない、人生のある程度の型ってやつ」

「なるほどな、急に真面目な話をするからびっくりするぜ」


「すまん、なんか話題ないかなって思ったんだけど咄嗟に出たのがこんな真面目な話題でさ、でも折角だし少し話し合ってみてみようよ」


「こいつは長くなるぜ、そうだな、そういえばここの近くにファミレスがあっただろうそこでじっくり話し合わないか」


「え、そんな長くなるのか、別に真面目な話題だからってそこまで真面目に話し合わなくても…………」


「何を言ってるんだ君は、さぁ、行こう。今すぐ行って、じっくり話し合おうぜ」


 そう言って俺の手を引く小野寺。くっそ、初めて手を引かれたのが男とか、可愛い女の子が良かった。可愛い、女の子が、良かった。そんな事を思いながら引きずられるようにファミレスに入って、あっという間に席までついてしまう、これが第一回俺と小野寺の話し合おう会 の始まりだった。


 ファミレスまで俺を引きずって来て、俺と対面するように座るとすぐに会話を再開しる小野寺。


「君はそんな型必要ないと思っている。

 そういうことでいいんだよな」


 小野寺の急な行動と、謎のノリにまだ、戸惑いを隠せない俺はなんとか首だけで肯定を示す。


「人生と言う例は少し難しい気もするけど、僕達は高校生だろ、だからさちょっとかっこつけてそのまま人生における型でもって型について考えようぜ」


 そう言って小野寺は白い歯を目立たせて、とても楽しそうな顔をして俺に提案してくる。小野寺の顔は心の底から何かを楽しもうとしているか、楽しんでいる時のそれで、反則級に爽やかであり、俺はその顔で何かを提案されたときその提案を支持する意見しか出ない。


「わかったよ、言い出しっぺは俺だしな。流石に高校生ごときが人生における型に話し合うなんて痛い気もするけど、その顔で言われちゃうと俺は嫌だとは言えない」


「そう来なくちゃ。君はほんとに話がわかる人間だ。よし、じゃぁ俺の意見も言わないとな、話が長くなるって言ったのはな僕が逆だからだぜ」

 そう言って水を一口飲んでから小野寺は元気に言い放つ。


「僕は型は必要だと思うんだ」


「まさか意見がたがうとは思ってなかった。でも話し合いとしては面白いと思うから小野寺のディテールを話してよ」


「くく、いいだろう、僕の意見の根拠を聴きひれ伏すと良い」


 何故か中2っぽく言われたが、よく考えたらこいつはかなり中2なような気がしなくもないのでもう突っこまないでおこう。


「むむ、お主何か悪い事を考えておるな」


 急にお主とか口調変わり過ぎだろと思いながらも、考えてない事を伝えると、少々訝しげな顔をされながらも続きを話してくれたが、口調が変わらない、どうやら今まで見た事無かったモードのスイッチが入ってしまったのだろう。


「よく考えてみてくれ給え、もしお主が明日から学校も行かなくてもいい、自由に暮らしていい、周りの目を気にする事なんてない状態になったとして何をすればいいかわかるかい」


「そりゃ、ゲームとかしまくるかな、仕事とか学校とかはサボりまくると思う、金輪際行くかどうかもわかんない」


「そうであろう、こうしてパッと野放しにされると人間は絶対にだらしなくなるんだ、部屋が汚くなるのと同じように、エネルギーが低い方へと遷移していくんだ、そうならないためにルールがこの世にはある、ここからが本題であーる、なぁ、これがどうやって型に関係してると思うかね」


「今どこに関係があるんだって聞こうとしたところだったよ、で、そうだな、考えてみると難しいな、お前は急にルールの話をし始めた、俺はもう少しで聞く耳を落とすところだった位に長いことな、さっきのお前の話を聞いてこんくらいの事しか思わない俺が型と関係付けられると思うのかよ」


「無理だ」


「だろ」


「うん」


 何故かしばらく沈黙が続いた。


「いや、早く続き話せよ、小野寺」


「はっ、すまない、お前の人の話をよく聞かないのは昔からだが、流石に呆れてしまってな」


「いや、小野寺、俺達高校からの付き合いだぞ、俺の昔知らねーじゃん」


「いいんだよ、細かいことは」


「いやこまかくねえ、全然細かくねえよ、いいか、俺の人生の十七分の二しか小野寺とは付き合いがないんだ、細けーのは俺の昔より今の俺のお前との歴史だよ」


「そこまで言っちゃう、流石に泣ける、泣けるぜ。僕のハートに会心の一撃よー」


 いつもの口調より少しキモさを足した口調になったから、普通にちょっと言い過ぎたかもしれない、そう思いながら無理やり話を続ける。


「小野寺の反応なんてどうでも良いから、とにかく早く続き話せよ」


 小野寺は真っ白なあのポーズを取りながら、さっきよりも随分と暗い声で続きを話してくれる。


「むぅ、仕方ないな、あのな、ルールっていうものがどうやって作られたかというお話になるんだ、重要なのはじゃなくてなんだけどな」


 そこで小野寺は、また水で口を潤わせて語る。そして小野寺は、また俺に新しい顔を見せた。新しい顔はとても真面目な顔だった。顔を見ただけで、これから重要なことが話されるかが容易に想像可能である、それほど真面目な顔で彼はこう言うのだ。


「すまん、トイレ」


 えええええーーーーーー。


 嘘だろ、嘘なんだよな、嘘だと言ってくれよ。飲んだ固唾は逆流しない、どうやら俺は健康らしい、いやそんなことどうでもいい、あいつはトイレを申告するときあれ程までに真面目な顔になって、どういうことなんだ。トイレにかける情熱が人とは違うのか。トイレに全力を注いでいるんだな。きっとそうだ、きっと。


「お待たー」


「古っ。痛っ」


 俺がいろいろ考えている間に小野寺は帰ってきて、いつの言葉か分からないような言葉を使って帰ってきたので思わず席を立って突っ込んだら椅子全部ひけなくてセルフ膝かっくんしてしまった。くっ、屈辱。


「おいおい、何やってんだよ。お前もトイレ行きたいのか、ここのトイレ綺麗だったぜ」


「いや、違うから、でもその情報は有益だね。やっぱりトイレは綺麗な方が気持ちが良い。それより小野寺、ドウじゃなくてダレが重要ってどういう事だ、お前がトイレに行ってる間考えてみたけどさっぱりだ」


 ん、まてよ、俺は今嘘をついた、よく考えたら、いやいやいや、よく考えなくても俺は小野寺がトイレの間ずっと小野寺のトイレの事について考えていたじゃないか、すまん、小野寺、俺は嘘をついた、明かす気ないけど。


「お前は何もわかっちゃいないな、一つ質問だ。

 ルールって言うのはダレが作ったと思う、いやが作ったと思う、こう聞いたほうがいいのかな」


「え、何だその質問は、どういう奴、どういう奴って、うぅん」


「まさか機械が作ったわけじゃないだろう」


「ん、あぁ、そういう質問か、じゃぁあれか人間が作った」


「正解だ。人間が作ったということはさ、どういうことかわかるだろ」


「いや、わからんが」


「はぁ、お前は本当に。まぁいい、あのな人間が作ったルールって事は、人間のものさしで作られてるんだ、人間がこれは悪いと判断すればこれは悪い、人間がそれは善いと判断すればそれは善い、そうやって構築されて、そこから堅苦しい文で表したのが憲法やらなんやらってわけだ」


「はぁー、確かに、そうとも考えられるな、小野寺って意外と深く物事を考えるんだな」


「意外とはなんだ、意外とは。はぁ、まぁ良い、さて、これら僕達に関係するルールは人間が作ってるにしては、日常生活においてあまり理不尽な事がないよな、これは何故か、ずばり、これが型のあるべき理由だ。型にはまらないルールは作られない、ルールから外れれば型にはまらないんだ。型の存在意義はルールの存在意義を支持する、同時にルールの存在意義は型の存在意義を支持する。そして、僕達の人生の在り方も、自由すぎると何かをやらかしかねないんだ。人生において必要な型とは、ルールとその型を犯さないためにある、いわば城壁みたいなもんだ。だから人生における型にも勿論存在意義がある。

 つーのが、僕の意見だ」


「はーなるほどな、じゃぁ苺パフェ1つ」


「おいいいい、何頼んでんだよ、てかちゃんと聞いてたか、なるほどな、じゃぁ苺パフェじゃねえよ、何と関係性を導き出したんだよ」


「すまん、店員さんの説明を聞いて、苺パフェのほうが美味しそうだったから。

 でも安心してくれ、小野寺の話も聞いていたぜ。

 聞いてるうちにさ、あー、これ勝ち目ないなってわかって、型が有る有り難さを型が無い状態を見に受けずに、まさか型が有る意味でわからされるなんて思っても見なかった。人間は失ってからしか気づけないなんて、嘘だったんだなって。

 なぁ小野寺、よかったらさ、これからも何か話し合わないか、あるべき理由を考えて、失くす前に存在意義を確かめる、他にもさ、こんな深い話し合いじゃなくても面白そうだ。そして俺もこれからは深く物事を考える様にしてみるから、きっと面白い話し合いができると思う」


「ふっ、よかったらなんて言わず、無理矢理でもいいぜ、そうだな、次話すのはどんな話題にするんだ」


「んーその日の思いつきってどうかな、ネタを考えると、案外面白みがなくなるだろ、疑問ってなんか急に出てきたりするじゃん、ぽこっと出てきた疑問について話し合おう」


「わかった、でも、もしガチの疑問とかが出てきたらいきあたりばったりじゃなくても良いよな」


「そりゃな、そういう真面目なのも必要だしな」


 こうして俺と小野寺の話し合おう会が結成された。


 そして俺の人生である意味でかなり有益な何かを手にする時間の始まりでもあった。

 さて、つぎはどんな話題を話し合おうか。って、次の話題極力考えちゃダメなんだった。

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