第18話 殺村あやめ ビンタ会

十二月一日。文化祭当日。

 雪がチラつく厳しい寒さの一日となった。

 さすがに例年と比べてマーケット全体の売上はやや少なかったらしいが――

「この盗作作曲家!」

 我らが本屋部の店頭には長蛇の列が出来ていた。

「ウソツキ細胞女!」

「いらっしゃいませー! カレンダー! カレンダーはいかがですかー!? 『毎日殺伐! 日めくり暴言カレンダー!』。我らが本屋部の新人兼、生徒会長の殺村あやめが実際に吐いた暴言を三六五個収録! 超豪華日めくりカレンダーです! 本人のコスプレ写真も満載です!」

 春日さんの元気な声が響く。

「お買い上げのお客様にはなんと! 殺村あやめがじきじきに暴言を吐きながらビンタをオミマイさせて頂いております!」

「この悪徳都知事!」

「チンピラ大統領!」

 あやめさんはイスに腰掛け、対面に座った客たちに次々とフルスイングのビンタを喰らわせていく。バチン! バチン! と乾いた小気味のよい音が売り場全体に反響していた。

「えーと……このバカ!」

「アホ……!」

「ハゲ!」

「殺村さん! キレが落ちてますよ!」

 春日さんが鬼のようなことをのたまった。

 あやめさんは汗だくになった髪の毛をかき上げながら春日さんを睨み付ける。

「ホラ! 次ですよ殺村さん!」

 次の順番の男性があやめさんの前のイスに座る。

「このリスザル女! 亀頭アタマ! ドMコソ泥ドブ猫ダルマ!」

 恐ろしく怒りのこもった往復ビンタを喰らわせた。お客さんたちがどよめく。

「殺村さん! お客さんじゃなくて私の悪口になってます!」

「うるっさいわね! 疲れたのよ! 春日さん! あなた代わりなさい!」

 そう叫びイスから立ち上がった。

「なんで私が!」

 文句をタレながらもビンタ席にすわる春日さん。

 千代美先輩と部長は呆れ果てた様子でそれを見守っていた。

「えーっと……。この成金、高慢ちき、デカ乳女!」

 春日さんの強烈なビンタがお客様に炸裂した。

「ちょっと! 私のことじゃないの! どういう性格してるのよアナタ!」

「ち、違いますよ」

「ウソおっしゃい! 無駄金持ってる、高慢で性格破綻したメンヘラの、バカ乳の腐れ乳牛女なんて私以外誰がいるのよ!」

「そこまでは言ってません!」

「まあまあ。お二人さん。そのくらいで」

 次の順番に並んでいた男が二人をいさめる。

 ――僕だ。

「なんでアナタが並んでるのよ!」

 あやめさんのシャウト。

「いやビンタされたかったから……」

「どっちにですか!? どっちにビンタされたいんですか!?」

 春日さんも叫ぶ。

 千代美先輩と部長に目で助けを求めるが、ツーンと目を逸らされてしまう。

 結局。左頬に春日さんの、右頬にあやめさんのビンタが炸裂した。

 大変に幸せだった。

 もうちょっとだけこんな時間が続けばいいのに。

 そんな風に願ってしまった。

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