第2話 出会いと迷い

 仁が、ターナーと名乗る男から、聞かされた話はこうだった。

 今、現在、秘密裏に国際連合直轄の傭兵組織、通称、国際連合軍(United Nation Military)UNMの設立を計画している。そして、仁に対し、その国際連合軍への参加を持ち掛けに来たと。

 

当然、仁は突然の勧誘に耳を疑い、すぐに断ろうと考えたが、とりあえずターナーに対し、なぜ自分がその国際連合軍という組織にスカウトをされたのか聞いてみることにした。

 

ターナーは答える。「仁、君は我々が求めていた才能を持ち合わせた人物だ。その才能とは、大事な局面において発揮される圧倒的な勝負強さと冷静さだ。」と。さらに続けて、「これは君を初めて目にした時に抱いた私の直感だが、君には底知れない不気味さを感じる。言葉で説明するのは難しいが、その人の潜在的な力の強さを示す〔気〕のような力が、君は他の人と比べ並外れている。」のだと答えた。

 

仁は、確かに自分の勝負強さには自信があったが、そもそも自分の平和主義的な考え方に反するような〔軍人〕にはなりたくない。ましてや、第一志望の大学に合格した現在、わざわざ未知の世界に飛び込む理由はないと反論した。

 

しかし、その反論に対し、ターナーはわずかにほくそ笑むと、「じゃあ、聞くが、第一志望の大学に合格していると君は言ったが、今の君は本当に幸せか。これから先、君の人生は本当に華やかで幸福なものになるのか。」と返した。続けて「君という人間をいろいろと調べさせてもらったが、最近、自分の勝負強さを疎ましく思っているのではないか。」と答えた。

 

もともと押しに弱い仁は、自分の今の心境をターナーに見抜かれ、次第に返す言葉が見つからなくなった。そんな彼を見て、ターナーはさらに続けてこう言った。「君の勝負強さは、その代償として、他人の不幸を導いてしまうものだ。勝負強さは、この競争社会の現代において、確かに、効果的な武器になる。だが、その力は敵をつくりやすく、人から妬まれることで味方までも失い、最期は非常に孤独な人生を歩むことになる。」また、続けてこういった。「私は、この世で、そんな勝負強さを持ち合わせている人間が活躍できるのは一つしかないと考えている。それが、この国際連合軍だ。実際、君以外にも人並み外れた勝負強さをもつ人間にも続々と軍に合流し始めている。そこでなら、君にとって、本当の仲間を見つけ、自分の才能を生かすことができるんじゃないのか。」


仁はターナーの言葉を一つ一つ噛みしめて聞いていた。そして、その様子を確認した、ターナーは最後、「君も突然のことで驚いたことだろう。3日、考える時間を与えよう。そして、3日後の夜、君の答えを聞かせてもらうよ。突然、訪問してきてすまなかった。いい返事を期待している。では。」そう言いながら、軽く会釈をすると、ターナーは夕闇の中に消えていった。そして、仁は一人、すっかり暗くなった道を歩き、いつもより重い足取りで家路へと向かった。それは、すっかり暖かくなったはずなのに、春一番が吹いたせいか、いつも以上に肌寒く感じる3月のことだった。



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