軍神と呼ばれた男
@jin5144
第1話 ある一人の高校生
2050年代、国際連合の内部では常任理事国である五大国のパワーバランスの関係に生じていた。特に、中国の急成長を起因とし、五大国はアメリカを中心とし、イギリス、フランスを含めたグループと、中国にロシアを加えたグループの2つに分かれていた。その結果、常任理事国のすべての賛同によって、方針を決定してきた国際連合は次第に求心力をなくしていった。また、加盟国全体に広がる、保護主義の流れから、各国は自国を優先した政策をとるようになり、国際連合が進めてきた国際協調は大きく衰退した。
また、同時期、宗教間における対立の深刻化、テロリズムの流布、広がる経済格差により、紛争が各地で頻発していた。各国は自国の軍隊をもって鎮圧にあたっていたが、戦闘が大規模に発展した際には、国際連合に対し、多国籍による国際連合軍の派遣を要請していた。しかし、五大国すべての賛成を不可欠とした国際連合軍は、五大国の分裂を受け、派遣することが困難になっていた。
こうしたことを受け、国際連合の組織運営に苦心していた、当時の国際連合事務総長、レイモンド・ベイリーは、頻発する紛争の鎮静を図るため、国際連合軍をこれまでの多国籍中心から、事務総長指揮下の傭兵組織へと転換させようと画策する…。
日本の高校3年生、荒川 仁(あらかわ じん)は受験シーズンの真っ只中にあった。仁には第一志望としている国立大学があった。歴史好きだった彼は、中学時代、読んでいた歴史書の著者がその大学の教授であることを知り、その大学を中学からずっと志望していたのだ。そして、受験本番、彼は、見事、第一志望の大学に合格する。しかし、周囲の反応は決して温かいものではなかった。この年の大学受験では、過去の出題傾向から大きく変わったことともあり、受験生の大半は散々たる結果を味あわされていた。そんな周囲と異なり、受験に成功した仁は僻みの目でみられる事になった。荒川はそんな周囲の反応に大きく悩むことになる。
仁は両親と3歳上の姉と4人暮らしであった。仁は幼少期より、温厚で大人しい性格であり、習い事も習字やピアノといった、スポーツよりも芸術的なものを好んだ。そんな彼は、中学に入ると親友のすすめにより、苦手とするスポーツの中で、唯一、人並みであった短距離走を生かし、陸上部に入部する。はじめはそれほどタイムもよくなかったものの、2年で部長になったことで、自信がつき、引退する3年時には地区大会で優勝するほどになっていた。また、勉強面でも成績を上げていき、第一志望の公立高校に行けるほどの学力がついていた。しかし、教師であった母親からの猛反対を受け、反論する力が十分でなかった彼は、第一志望の高校を泣く泣く諦め、私立高校に入学することになる。とても苦くつらい経験を味わった彼だが、当時から行きたかった国立大学には、必ず行くことを心に誓った。
高校生活では、仁にとって、行きたくなかった学校だったこともあり、少々鬱憤とした日々を過ごしていたが、日々勉強、部活に励み、継続している陸上部や勉強ではどんどん成績を上げ、受験期に一番良い状態を迎えることができたのである。また、仁の性格が非常にお人好しだったこともあり、多くの同級生から頼りにされ、慕われていた。
大学受験に成功した仁だったが、周囲の人間がそれまでと接し方が冷たくなったのを感じ、傷心していた。陸上部や勉強の際、大事な局面において、必ず勝負に打ち勝ってきた彼は、自分の勝負強さを誇りに思っていた。しかし、その人並み外れた勝負強さは、他人の不幸という犠牲の上で成り立っているのだと感じ、自分の存在を恨むようになった。家族には、喜ばれたものの、友人から疎まれるようになった彼は、己の存在意義に疑問を感じ、日常生活から逃げたいと思うようになる。そして、次第にふさぎ込みな性格になり、休日も部屋にこもるようになる。
そんなある日、彼がひとり高校から下校する際、ある一人の男性から声を掛けられる。その男は40代前半で、長身の欧米人であり、仁に名刺を差し出した。名刺を見ると「国際連合軍(UNM)組織委員会 顧問 ターナー・オルランド」と書かれてあり、流暢な日本語で仁に対し、こう呟いた。「youが荒川 仁か。私は君に会うため、ここで待っていた。」と。
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