問.

 彼女との出会いは運命なのか、必然なのかわからない。

 運命と言い切ってしまったらチープになり過ぎてしまうし、単に偶然出会ったと言ってしまうと寂し過ぎる。家が近所で、初めて顔を合わせたのは確か小学校に上がるタイミングだった。

 こんなに気の合う人間に出会ったのは奇跡に近い。それくらいお互いに理解し合える存在に彼女は位置付けられている。これは、必然とでも言っておこうか。


「海斗は優しいよね」

「急にどうしたん?」

「だってさ、今日も会いにきてくれたじゃん?」

「たまたまだよ」


 親友。

 正に俺らの関係のことを言うと思う。


 ねぇ、会いたい。

 高校入学と共に初めて携帯を買ってもらって最初に入れた彼女の番号。機種変更されてもなお番号は変わらないおかげで、見なくても暗唱できる様になってしまったそれから、酔いに任せた電話がかかってきた。「お気に入りのいつものバーに居るから来て欲しい、今無性に会いたい」と伝えられて切れた。

 だから、今日は行った。

 この前は行かなかった。またその逆もある。

 俺から電話で来て欲しいと言うことも、あった。まぁ、向こうが来てくれないことはよくあることだった。


「かいと〜」

「ん?」

「海斗ってさ、」


 言いかけて止まった彼女は、少し強めのカクテルを混ぜてそれを眺めている。


「もったいぶってないではやく言ったら?」

「ん、」


 何かがつっかえている様な、嫌な感じ。

 もっと素直になれたら、どんなに楽なんだろうな。俺は中学の頃からずっと悠の事好きなのに。俺はこんな性格だからさ、依存とかされたら面倒だなと思ってしまうたちだし。まぁ、悠に依存された事はないからわからないけど。だけどそうならないようにお互い心地いい距離感を保ってる。


「この前、気の利くイケメンに食事誘われた」

「ふーん、行ったの?」

「行ったと思う?」


 そんな蕩けた顔で俺を見ないでほしい。

 長年募らせた想いは、多少は彼女にも伝わってしまっているかもしれない、悠の瞳を見て、ふとそんな事を思った。


「この前の彼氏と別れたばっかだし、行ってなければいいな、とは思う」

「ふーん」


 含んだ様にそう言われて動揺しないように必死な俺の気持ちも考えて欲しい。

 横目に彼女を見れば、見つめられる。


「…なに、」

「いーや、なんも?」


 俺が店に着いたときにはもう頰を少し紅く染め、既に酔いの回った悠は甘く、甘く、その大きな二重の目を細める。


「行ってないよ、断った」

「そう、か」

「せーかい!ご名答!」


 「よかったね?」なんて笑いながら手に持ったカクテルを一気に煽った。

 よかったよ。心からホッとしたなんて、言葉にしないけど。悠だけ幸せになるなんて、なんか癪に障るし。俺ばっか勝手に傷ついてさ。いっそのこと俺と幸せになればいいのに。きっと誰よりも過ごしやすいと思うよ?誰より同じ景色を分かち合った自信あるんだけど。なんてさ。

 どうしてこんな事を思ってしまうのか。親友として彼女の幸せを願ってあげられたら、どんなにいいのだろう。


「今日はどうするの?」

「んー、どうしようかな」


 そうやって悩むフリなんかしてさ、断ったことなんて無いだろ。


「終電、ある?」

「あー…、もう無いと思う」


 目を移した腕時計の針は、午前0時を少し過ぎた頃だった。


「ねぇ海斗、泊めて」

「本当さ、いっつも宿にしやがって」

「私の第2の家だと思ってるから」

「タクシー代、悠持ちな」

「はあ!?ちょ、それは無いって!」

「余計なこと言うからだよ」

「海斗ごめんって〜〜」


 俺より10センチは低くて華奢な身体を、呼び止めたタクシーに押し込んで、俺も乗る。


 簡単に住所を伝えて悠を見ると、口を開けて寝ていた。


「本当、都合のいいやつだよ」



俺も、悠も。

悠は、俺のことどう思ってる?


fin.

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