天使になれないあの子。

「夏になったら、天使になれるの」


そう言ったあの子は、肩甲骨が他の人より少し飛び出ていて、その姿はまるで翼を折られた天使の様だった。


周りの子が馬鹿にして「お前は翼を折られて落ちてきた堕天使だ」なんて言われた日から、彼女は天使になれると本気で思っている。


そんな彼女は僕の隣のブランコに踵を潰したスニーカーで、乗っている。


深い深い青色の目に光を宿すことなく、虚ろな目をして黒に近いその青に映すのは彼女の足元のスニーカー。


「あーした天気になーあれ」


間延びした声に明日の天気なんてどうでもいいことが滲んでいる。

踵の潰れたスニーカーが宙を舞う。


ーーー靴紐が解けかかっているのは、きっとあの子がよく飛ぶように解いたのかな。

なんて、呑気に考える。


高く昇る太陽と短い影に夏の訪れを感じた日だった。


「明日は雨だ」


特に楽しそうなわけでもなく、ブランコから降りて放ったスニーカーを見下ろして、あの子は言った。 ーー若干震える声には目を伏せて。


逆光で見えないあの子の顔が、どうか泣いていませんように。

どうか、あの子が天使になりませんように。

どうか、あの子に絡みつく夜から逃げられますように。

どうか、夏になりませんように。


ーーーーーーどうか、どうか。


日が伸びて明るい夕方に迫り来る夏の気配を感じる僕は、隣でブランコを漕ぎながらそう願わざるを得なかった。

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