とべないいきもの。



あの日、遠い遠い、まだ戦争が終わらない国へ僕と君は旅立った。



「ネリネっていう花なんだ。きっと君は花言葉なんて興味ないだろうけど」

「ありがとう。僕からはこれを預けるよ」

「これ、君が大切にしている宝石じゃないか」

「これはクリソコラ。宝石にも花言葉のようにそれぞれに言葉がついてるんだ。あー、、その言葉はこれから行く国での戦争が終わって、君にまた再会したときに教えることにするよ」

「そんな言い方、まるで再会できないみたいじゃないか」

「言っただろ、これは君にあげるんじゃない。君に預けるんだ。必ず受け取りに行くから、君も責任もってちゃんと無くさず持っていてくれよ」

「ああ。わかった」




激しい戦火をなんとか潜り抜け、僕は今も生きている。


あの日渡したネリネの花言葉は「また会う日を楽しみに」。

今だ、君とは再会を果たしていない。


「神様なんて、存在しないのかもしれないなぁ」

「何を言っているの。神様はいるわ。神様こそが私たちの生き方を決めるのよ。学校でも協会でも教えてもらったでしょう?」

「ああ、そうだったね」


きっと君は神様の存在も、名前すらも分からなくなってしまったのだろう。


「ねえ、君は宝石に詳しかったりするかい?」

「まあまあよ。どうして?」

「友人からこのクリソコラという宝石を預かっているんだ。この宝石言葉、知っているかい?」

「クリソコラの言葉はたしか****」



“ネリネの押し花を握った方のご遺体が___________”



ラジオのノイズと共に耳に入った言葉はあまりにも僕にとって残酷な現実で、

「ああ。やはり神様なんていないのかもしれないな」

と自分に言い聞かせることしかできなかった。




今、君はきっと空を飛んでいるのだろう。

神様の名前を忘れられない僕は、とべないいきもののまま。

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